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◆1st day
第35話「追う者と追い越す者」
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”人を嫌ったり憎んだりするのは、それなりのエネルギーがいる事だと骨身にしみましたよ。
後で南部の奴にそう言ったら、「そりゃお前がいい奴だからだ」なんて言い出すもんだから……”
グレッグ・ニールのインタビューより
Starring:グレッグ・ニール
まったく、そう言う内緒話は他所でやって欲しいものだ。グレッグ・ニールは思う。
会話が飛び込んできたのは、サミュエル・ジード少佐に〔ゼロ戦〕の操作をレクチャーしていた時だった。南部隼人と下士官の、互いに敬意を交えた言葉。
大方格納庫の騒音でかき消されると思ったのだろうが、それが途絶える時だってあるのだ。
頭のどこかで理解はしていた。破滅的な状況に絶望せず、南部隼人中尉は打開策をひねり出した。そこいらの平凡な銃士では出来ない事だ。
そして、自分が追いかけている天才を本気で倒すつもりであることも。
自分はどうだろうか?
菅野を追いかけるのは良い。彼の通った道をただ辿っているだけではなかったか?
菅野に勝つ気でいる南部に比べ、自分は菅野になろうとしていた。そんなもの、なれやしないのに。
「……今思えば」
照準器から視線を外さず、サミュエルが語り始めた。何か自分の根幹に関わる話だ。直感的にそう感じた。
「私がグレッグ中尉に素性を明かしたのは、自分に似ていたからかも知れないな」
「似ていた……ですか?」
「そうだ。私は叶うはずもない望みを聖女様に預け、縛り付けてしまった。中尉も敬愛する上官に自分を変えて貰おうと、丸投げした。そっくりじゃないかね?」
彼らしくない辛辣な言葉に苦笑するが、半分以上は自嘲であろうなと慮る。
「私が思うに、南部中尉は”頭で飛ぶ”タイプのパイロットのようだね」
「頭で、ですか?」
「たまにいるのだよ。野性的な勘や操縦のセンス。そう言ったものに全幅の信頼は置かず、自身で構築した分析や理論で戦うファイターパイロットが」
何も答えられなかった。自分は勘に任せて敵を追い回していただけだ。
「気にしなさんな。若いと言う事は伸びしろがあると言う事だ」
サミュエルはフラップの利きを確かめながら語り掛ける。風防から顔をのぞかせ、主翼を見つめたまま。
「先ほどから中尉のレクチャーを受けていて、あなたもそちら組だと感じたがね」
「俺が、ですか?」
「例えば、私に〔ゼロ戦〕を任せる時だ。まず自分が乗って舵の利きや計器の状態を確認してから、機体の細かい癖を伝えただろう? あの時の君を見て南部中尉が微笑んだのに気付いたかね?」
グレッグは言葉を失う。それは恐らく、菅野大尉の模倣では無い。彼自身、グレッグ・ニールの個性だ。
菅野は良くも悪くも飛行機に愛着が無い、と言うより飛行機よりも人命の方を圧倒的上位に置いている。いくら飛行機を壊そうが、その分敵を墜とし味方を助ければ帳尻が合うと考えている。
南部の方は違う。
飛行機は戦争に勝つためのリソースであり、可能な限り喪失を抑えなければならないと考える。そして、彼にとって飛行機はかけがえのない戦友である。民草と天秤にかければ壊すだろうが、そうでなければ自分の子供を扱う様に大切にする。
そして2人の考えを天秤にかけた場合、認めたくないが自分は南部寄りだ。
「要するに私は、考える事から逃げていたんですね」
「それは、私も同じだがね」
サミュエルは軽く笑って、初めてグレッグに首を向けた。
「で、どうするかね? 私は聖女様……リィル嬢を救うために全力を尽くすつもりだ。君は、勝ちたいか? 南部隼人に、菅野直に」
そんなことは、分かり切っている。ここで無難な道を目指すなら、戦闘機乗りなどやっていない。
「勝ちますよ。一番を目指さなければ戦闘機乗りではありません」
「そうか、では分かっているだろうが、大技や無理な機動は控える事だ。君の〔紫電改〕は格闘戦と一撃離脱の両方をこなせるようだが、格闘戦に拘るな。敵機の死角を突いて一撃で落とす事を考えたまえ」
少し前の自分なら、その様な戦い方を「卑怯」と捉えただろう。だが自分が勝ちたいのはなりふり構って勝てる相手では無い。南部が同じ状況ならば、迷わず死角を突いてくる。
「一番の鬼門は、敵機を撃墜した時だ。つい気が大きくなって、返す刀でもう1機……と行きたくなる。そういう時は気付かないまま隙を晒している事が多い。心当たりは無いかね?」
ありすぎるくらいだった。
今考えると僚機の菅野大尉には随分負担をかけてしまっていた。
恐らく、菅野は特性の違うグレッグにフォローを頼めば、安心して突っ込めると言う考えがあったのではないか。だからこそ自分を僚機に選んだ。
もしかしたら、菅野は自分の成長を待ってくれていたのかもしれない。
「少佐、ありがとうございます」
サミュエルが微笑する。
「お願いがあります」
グレッグは恥かきついでにと切り出した。
「これが終わったら、時間を頂きたい。予想される危険を今のうちに全部割り出しておきたいのです。本来は大尉や南部の奴も参加してもらいたいですが、あの2人は今てんてこまいでしょうから」
「……いいだろう」
サミュエルはにやりと笑う。
「要らぬ拘りを躊躇なく投げ捨てる。生き残るのは中尉みたいなパイロットだ。私も入れ込み過ぎてそれを忘れるところだった。こちらこそ礼を言わせてもらうよ」
作戦開始の予想時刻まで、既に12時間を切っていた。
後で南部の奴にそう言ったら、「そりゃお前がいい奴だからだ」なんて言い出すもんだから……”
グレッグ・ニールのインタビューより
Starring:グレッグ・ニール
まったく、そう言う内緒話は他所でやって欲しいものだ。グレッグ・ニールは思う。
会話が飛び込んできたのは、サミュエル・ジード少佐に〔ゼロ戦〕の操作をレクチャーしていた時だった。南部隼人と下士官の、互いに敬意を交えた言葉。
大方格納庫の騒音でかき消されると思ったのだろうが、それが途絶える時だってあるのだ。
頭のどこかで理解はしていた。破滅的な状況に絶望せず、南部隼人中尉は打開策をひねり出した。そこいらの平凡な銃士では出来ない事だ。
そして、自分が追いかけている天才を本気で倒すつもりであることも。
自分はどうだろうか?
菅野を追いかけるのは良い。彼の通った道をただ辿っているだけではなかったか?
菅野に勝つ気でいる南部に比べ、自分は菅野になろうとしていた。そんなもの、なれやしないのに。
「……今思えば」
照準器から視線を外さず、サミュエルが語り始めた。何か自分の根幹に関わる話だ。直感的にそう感じた。
「私がグレッグ中尉に素性を明かしたのは、自分に似ていたからかも知れないな」
「似ていた……ですか?」
「そうだ。私は叶うはずもない望みを聖女様に預け、縛り付けてしまった。中尉も敬愛する上官に自分を変えて貰おうと、丸投げした。そっくりじゃないかね?」
彼らしくない辛辣な言葉に苦笑するが、半分以上は自嘲であろうなと慮る。
「私が思うに、南部中尉は”頭で飛ぶ”タイプのパイロットのようだね」
「頭で、ですか?」
「たまにいるのだよ。野性的な勘や操縦のセンス。そう言ったものに全幅の信頼は置かず、自身で構築した分析や理論で戦うファイターパイロットが」
何も答えられなかった。自分は勘に任せて敵を追い回していただけだ。
「気にしなさんな。若いと言う事は伸びしろがあると言う事だ」
サミュエルはフラップの利きを確かめながら語り掛ける。風防から顔をのぞかせ、主翼を見つめたまま。
「先ほどから中尉のレクチャーを受けていて、あなたもそちら組だと感じたがね」
「俺が、ですか?」
「例えば、私に〔ゼロ戦〕を任せる時だ。まず自分が乗って舵の利きや計器の状態を確認してから、機体の細かい癖を伝えただろう? あの時の君を見て南部中尉が微笑んだのに気付いたかね?」
グレッグは言葉を失う。それは恐らく、菅野大尉の模倣では無い。彼自身、グレッグ・ニールの個性だ。
菅野は良くも悪くも飛行機に愛着が無い、と言うより飛行機よりも人命の方を圧倒的上位に置いている。いくら飛行機を壊そうが、その分敵を墜とし味方を助ければ帳尻が合うと考えている。
南部の方は違う。
飛行機は戦争に勝つためのリソースであり、可能な限り喪失を抑えなければならないと考える。そして、彼にとって飛行機はかけがえのない戦友である。民草と天秤にかければ壊すだろうが、そうでなければ自分の子供を扱う様に大切にする。
そして2人の考えを天秤にかけた場合、認めたくないが自分は南部寄りだ。
「要するに私は、考える事から逃げていたんですね」
「それは、私も同じだがね」
サミュエルは軽く笑って、初めてグレッグに首を向けた。
「で、どうするかね? 私は聖女様……リィル嬢を救うために全力を尽くすつもりだ。君は、勝ちたいか? 南部隼人に、菅野直に」
そんなことは、分かり切っている。ここで無難な道を目指すなら、戦闘機乗りなどやっていない。
「勝ちますよ。一番を目指さなければ戦闘機乗りではありません」
「そうか、では分かっているだろうが、大技や無理な機動は控える事だ。君の〔紫電改〕は格闘戦と一撃離脱の両方をこなせるようだが、格闘戦に拘るな。敵機の死角を突いて一撃で落とす事を考えたまえ」
少し前の自分なら、その様な戦い方を「卑怯」と捉えただろう。だが自分が勝ちたいのはなりふり構って勝てる相手では無い。南部が同じ状況ならば、迷わず死角を突いてくる。
「一番の鬼門は、敵機を撃墜した時だ。つい気が大きくなって、返す刀でもう1機……と行きたくなる。そういう時は気付かないまま隙を晒している事が多い。心当たりは無いかね?」
ありすぎるくらいだった。
今考えると僚機の菅野大尉には随分負担をかけてしまっていた。
恐らく、菅野は特性の違うグレッグにフォローを頼めば、安心して突っ込めると言う考えがあったのではないか。だからこそ自分を僚機に選んだ。
もしかしたら、菅野は自分の成長を待ってくれていたのかもしれない。
「少佐、ありがとうございます」
サミュエルが微笑する。
「お願いがあります」
グレッグは恥かきついでにと切り出した。
「これが終わったら、時間を頂きたい。予想される危険を今のうちに全部割り出しておきたいのです。本来は大尉や南部の奴も参加してもらいたいですが、あの2人は今てんてこまいでしょうから」
「……いいだろう」
サミュエルはにやりと笑う。
「要らぬ拘りを躊躇なく投げ捨てる。生き残るのは中尉みたいなパイロットだ。私も入れ込み過ぎてそれを忘れるところだった。こちらこそ礼を言わせてもらうよ」
作戦開始の予想時刻まで、既に12時間を切っていた。
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本作の設定などはwebサイトで公開しております。ライズ世界の歴史やテクノロジーについても触れているので、興味を持っていただけたら、是非遊びに来てください(`・ω・´)b王立銃士隊https://jyushitai.com/
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