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Card No.06:絶対零度
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最初のサモンズが現れてから、3日目の朝が来た。
昨晩もネットで色々と情報を漁ったが、僕が知っている以上の情報は無かった。寝る前に紗耶とラインの交換はしたが、光希からは送ったラインに既読さえ付かない。いつもなら、どんなつまらない事でも返事をしてくれていたのに。やはり、僕は彼を怒らせてしまったのだろうか。
午前10時を過ぎた頃、来訪を告げるインターホンが鳴った。
紗耶だ。父と母は今日も仕事に出ている。紗耶は、我が家に来てくれるのが初めてなら、同じ空間で二人きりになるのも初めての事だ。
朝からずっとドキドキしているのは、いつ現れるか分からないサモンズに対してではなく、紗耶に対してなのかもしれない。
「はい、これ。ジュースとお菓子買ってきた」
紗耶はコンビニの袋を下げてやってきた。
「ありがとう、全然気を使わなくていいのに。家の人は? 出かけるの知ってるの?」
「うん……一応、お友達の家に行ってるって事にしておいた。正直に言った方が良かったかな?」
僕と付き合ってる事は親に言っていないのだろう。僕もまだ、紗耶の事は両親に言っていない。
とりあえずリビングで、テレビの前を陣取る。情報はネットの方が早いと思うが、昨日の速報のタイミングを考えると、テレビも遜色は無いと思う。
付けっぱなしにしていたテレビ画面には、サモンズのニュースが映し出されていた。
「こんな日に何も出てこなかったりしてね」
紗耶は僕が持ってきたコップに、ジュースを注いでくれた。
「いや、片桐はきっと出してくる」
「昨日はあれからメッセージはあったの?」
「いや、無い……そういや、光希からも返事が無いんだ。多分怒ってるんだろうな、僕が嘘を言ってるって……」
「その為にも私がちゃんと見ておいてあげる。……その代わり、優也が言ってる事が嘘だったら、その時は知らないからね」
紗耶は悪戯っぽく笑った。僕は紗耶のこの表情が好きだ。
「でさ、今心配しているのが、次にどのサモンズを出してくるかって事なんだ。昨日言ったよね? 僕たちはいつもテーマに沿って絵を描いていたって」
「うん。初日が水の中で戦うだっけ? で、昨日がレベル1同士。あと47テーマもあるのか……片桐君ってのもマメな人だね」
「本当そうなんだよ。これだけあるからな、種類が……」
僕は戦いを終えた2枚と、既に『You win! 』と書かれていた1枚を除き、47枚を丁寧にテーブルに並べた。
「昨日の話通りなら、このカードが最後なんだろうね」
紗耶が指さしたのは『ラスボス』をテーマにして描かれたものだった。片桐の引っ越しを知らされる、前日に描いたものだ。
//////////////
二学期も終わりだし、ラスボス描こう! 大きさは10mで……どんなワザもOK! ただ、弱点はアリね。倒せないのは困るから。今日は大野がモンスター描きたいだろ? やっぱラスボスはモンスターだよな!
//////////////
片桐が嬉しそうに言ったのを憶えている。確かに、ラスボスなら僕もモンスターを描きたかった。
僕の方にあるラスボスのカードは、馬に乗った騎士。ラスボスだけは特別に名前を付けていた、その名も『サバイブナイト』。片桐が描いたものだ。
騎乗した状態で10m程の大きさがある。建物で言うとビルの3~4階ほどの高さだから、相当に迫力があると思う。
・必殺技:ライトニングスピア
・特徴:動きが素早い
・弱点:心臓(ただし、鎧はダイヤモンドで出来ている)
確か稲妻を呼び出し、電撃を帯びた槍で一撃を与えるというものだった。小学5年生が考えた技名にしては格好いいのでは無いだろうか。
サバイブナイトのこの弱点、一見攻略しにくいように見えるが、僕が考えた必殺技の前では無意味かもしれない。なにしろ……
その時、テレビから速報音が鳴った。
———————————————
渋谷スクランブル交差点に未確認生命体、出現
———————————————
続けてスマホも警告音を鳴らした。自然災害以外で警告音を聞くのは初めてかもしれない。
「ゆ、優也!」
「ああ、来たな! 早く、渋谷からの映像を出してくれ!」
ニュースを流していたスタジオから、緊急報道センターへと画面が切り替わった。ワイプには渋谷スクランブル交差点の映像が流れている。
「ワイプとメインが逆だ!」
つい大声を上げてしまう。その声に反応したかのように、渋谷スクランブル交差点の映像がメインに切り替わった。
「なっ、なにこれ!?」
紗耶が声を上げる。画面に映し出されたのは、双頭の戦士だった。戦士と言っても、両肩付近から左右それぞれ首が伸びている悍ましい姿だ。描き終えた絵を見せ合った後、「今回はどっちもモンスターじゃないか、これじゃ!」と言って、片桐が笑っていたのを思い出した。
2人でテーブルに並べたカードから対戦相手を探す。先に見つけたのは紗耶だった。
「これじゃない!?」
そのカードには、双頭のドラゴンのイラストが描かれていた。
そうだ、これで間違い無い。僕は礼を言いつつ、カードをテーブルから取り上げた。
「今から、この水を掛ける。出てくるサモンズは、紗耶には見えないと思うけど、このカードからは消えるはずだ。そして、サモンズは自分でベランダへの窓を開けて、飛び降りる」
紗耶は真剣な顔で頷いた。打ち合わせていた通り、紗耶はカードが良く見える位置から動画を撮影している。
僕はカードに水を掛ける前に、もう一度紗耶に目配せをして、ゆっくりと水を垂らした。
出てきた、双頭のドラゴンだ。
「きゃっ!」
紗耶が小さく悲鳴を上げた。きっと、カードからイラストが消えたのだろう。
「渋谷スクランブル交差点にいる、双頭の戦士をやっつけてくれ。ここから飛んでいけるか?」
双頭の竜は、ゆっくりと両方の頭を下げた。そして長い髭を巧みに操ってベランダへの掃き出し窓を開ける。
「ほ、本当だ……優也、優也を信じることが出来て良かった……」
紗耶が言い終わるのを待っていたかのように、双頭のドラゴンは大空に向けて羽ばたき、ベランダから飛び出していった。
ドラゴンが起こした風は、紗耶の髪とスカートを揺らした。
「動画はちゃんと撮れたよ! 今からが本番なんだよね? 勝てる見込みはありそう!?」
「……それは分からない。このドラゴンは右の顔からは絶対零度の冷気、左の顔からは1兆℃の炎を吐くことが出来る……みたいだ。もし、1兆℃の炎が本当に吐けるとしたら……うーん、使ってしまうと渋谷は壊滅するかもしれない」
「ど、どうするの!? で、絶対零度の方は?」
「わ、分からない。悪いけど、絶対零度はどれくらいの威力なのか調べてくれないか、紗耶!」
「分かった!」
紗耶に調べ物をして貰っている間、僕はテレビ画面を凝視していた。空を飛べば到着するのはあっという間だろう。
「き、来た!」
「え? どこ!? どこにっ!?」
「そうか、まだ5分経ってないんだ! 片桐にも見えていないかもしれない!」
既に渋谷スクランブル交差点も厳戒態勢を取っており、交差点の真ん中に突っ立っている双頭の戦士以外に人影は見当たらなかった。昨日、機動警察隊に被害が出たこともあり、サモンズとの距離も十二分に取っているようだ。
「いけ、お前の尾でそいつをなぎ倒せ!」
カード片手に紗耶にも聞こえるように言った。
次の瞬間、双頭の戦士は逃げようとする動きをしたが間に合わず、真横に吹き飛ばされる。地下鉄構内への出入り口の壁に激突してようやく止まった。
……?
何故だろう、双頭の戦士の動きに違和感を憶えたのは……?
ドラゴンは見えていないはずなのに、何故逃げようとした……!?
その双頭の戦士はフラフラと立ち上がった。コイツの弱点はなんだったか……ダメだ、思い出せない。
「優也、ごめん、調べても分からない! その敵だけに放つのはダメなの!?」
「分かった、コントロール出来るか分からないけどやってみる! そいつだけに絶対零度の冷気を吐き出せ!」
双頭のドラゴンは、右の口から真っ白な冷気を吐き出した。双頭の戦士はみるみるうちに固まっていく。
「み、見えた! 見えたよドラゴン! イラストと同じだ!」
最初は冷気だけが見えたのかと思ったが、5分経ったのだろう、ドラゴンも実体化したらしい。完全に固まったように見えた戦士を先ほどのように、ドラゴンの尾で激しく横殴りした。
パーーーン
ガラスが割れるようなその音は、テレビからも大きな音で聞こえてきた。双頭の戦士は粉々に破壊されたのだ。そして、いつもと同じように光りの粒となって空へと帰って行った。
『ここです、ここで気をつけてください! 昨日はここから一般市民、いや警察官を巻き込みました! 気を抜いてはいけません!』
リポーターの声が一段と大きくなる。だが大丈夫だ、僕が勝ったときにはもちろん何もしない。少しの間を置いて、双頭のドラゴンも光りの粒となって消えてしまった。
「はあ……」
隣で紗耶が大きな息を吐き出した。集中して画面を見ていたせいで、呼吸も疎かになっていたのだろう。
「紗耶、どう? 信じられそう?」
「もう! 信じるってさっきも言ったでしょ! 凄かったよ優也!」
そう言って僕の手から、持っていたカードを取り上げた。
「ホントだ、『You win! 』って表示に変わってる! 今日は被害者が出なくて良かった!」
「ああ、ホントに……」
その時、スマホから着信音が響いた。片桐からだ。
———————————————
大野、今日のは酷いよ。いつも僕が先に召喚しているんだから、そのやり方はズルくないか? 今回は大目に見るけど、次は無しだ。
次にやったら大事な人に被害が及ぶと思って。
———————————————
一緒に画面を見ていた紗耶が、体を強ばらせるのが分かった。
———————————————
分かった、約束する。その代わり、他の人に手を出すのは絶対にやめてくれ。
———————————————
———————————————
大野がちゃんと対戦さえすれば、大丈夫だよ。昨日も手を抜いたから怒っただけ。ちゃんと戦うなら、僕も闇雲に危害を加えたりしない。
って事でまた明日ね。今日の絶対零度の攻撃はしびれたよ。じゃ。
———————————————
紗耶は片桐とのやりとりを目の当たりにして、怯えた表情をしていた。
「大丈夫、絶対大丈夫だから。何があっても僕が守るよ、紗耶……」
そう言って、紗耶の手を両手で握りしめた。
僕がもう少し大人だったら、紗耶を抱きしめてあげる事も出来たのだろうか。
昨晩もネットで色々と情報を漁ったが、僕が知っている以上の情報は無かった。寝る前に紗耶とラインの交換はしたが、光希からは送ったラインに既読さえ付かない。いつもなら、どんなつまらない事でも返事をしてくれていたのに。やはり、僕は彼を怒らせてしまったのだろうか。
午前10時を過ぎた頃、来訪を告げるインターホンが鳴った。
紗耶だ。父と母は今日も仕事に出ている。紗耶は、我が家に来てくれるのが初めてなら、同じ空間で二人きりになるのも初めての事だ。
朝からずっとドキドキしているのは、いつ現れるか分からないサモンズに対してではなく、紗耶に対してなのかもしれない。
「はい、これ。ジュースとお菓子買ってきた」
紗耶はコンビニの袋を下げてやってきた。
「ありがとう、全然気を使わなくていいのに。家の人は? 出かけるの知ってるの?」
「うん……一応、お友達の家に行ってるって事にしておいた。正直に言った方が良かったかな?」
僕と付き合ってる事は親に言っていないのだろう。僕もまだ、紗耶の事は両親に言っていない。
とりあえずリビングで、テレビの前を陣取る。情報はネットの方が早いと思うが、昨日の速報のタイミングを考えると、テレビも遜色は無いと思う。
付けっぱなしにしていたテレビ画面には、サモンズのニュースが映し出されていた。
「こんな日に何も出てこなかったりしてね」
紗耶は僕が持ってきたコップに、ジュースを注いでくれた。
「いや、片桐はきっと出してくる」
「昨日はあれからメッセージはあったの?」
「いや、無い……そういや、光希からも返事が無いんだ。多分怒ってるんだろうな、僕が嘘を言ってるって……」
「その為にも私がちゃんと見ておいてあげる。……その代わり、優也が言ってる事が嘘だったら、その時は知らないからね」
紗耶は悪戯っぽく笑った。僕は紗耶のこの表情が好きだ。
「でさ、今心配しているのが、次にどのサモンズを出してくるかって事なんだ。昨日言ったよね? 僕たちはいつもテーマに沿って絵を描いていたって」
「うん。初日が水の中で戦うだっけ? で、昨日がレベル1同士。あと47テーマもあるのか……片桐君ってのもマメな人だね」
「本当そうなんだよ。これだけあるからな、種類が……」
僕は戦いを終えた2枚と、既に『You win! 』と書かれていた1枚を除き、47枚を丁寧にテーブルに並べた。
「昨日の話通りなら、このカードが最後なんだろうね」
紗耶が指さしたのは『ラスボス』をテーマにして描かれたものだった。片桐の引っ越しを知らされる、前日に描いたものだ。
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二学期も終わりだし、ラスボス描こう! 大きさは10mで……どんなワザもOK! ただ、弱点はアリね。倒せないのは困るから。今日は大野がモンスター描きたいだろ? やっぱラスボスはモンスターだよな!
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片桐が嬉しそうに言ったのを憶えている。確かに、ラスボスなら僕もモンスターを描きたかった。
僕の方にあるラスボスのカードは、馬に乗った騎士。ラスボスだけは特別に名前を付けていた、その名も『サバイブナイト』。片桐が描いたものだ。
騎乗した状態で10m程の大きさがある。建物で言うとビルの3~4階ほどの高さだから、相当に迫力があると思う。
・必殺技:ライトニングスピア
・特徴:動きが素早い
・弱点:心臓(ただし、鎧はダイヤモンドで出来ている)
確か稲妻を呼び出し、電撃を帯びた槍で一撃を与えるというものだった。小学5年生が考えた技名にしては格好いいのでは無いだろうか。
サバイブナイトのこの弱点、一見攻略しにくいように見えるが、僕が考えた必殺技の前では無意味かもしれない。なにしろ……
その時、テレビから速報音が鳴った。
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渋谷スクランブル交差点に未確認生命体、出現
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続けてスマホも警告音を鳴らした。自然災害以外で警告音を聞くのは初めてかもしれない。
「ゆ、優也!」
「ああ、来たな! 早く、渋谷からの映像を出してくれ!」
ニュースを流していたスタジオから、緊急報道センターへと画面が切り替わった。ワイプには渋谷スクランブル交差点の映像が流れている。
「ワイプとメインが逆だ!」
つい大声を上げてしまう。その声に反応したかのように、渋谷スクランブル交差点の映像がメインに切り替わった。
「なっ、なにこれ!?」
紗耶が声を上げる。画面に映し出されたのは、双頭の戦士だった。戦士と言っても、両肩付近から左右それぞれ首が伸びている悍ましい姿だ。描き終えた絵を見せ合った後、「今回はどっちもモンスターじゃないか、これじゃ!」と言って、片桐が笑っていたのを思い出した。
2人でテーブルに並べたカードから対戦相手を探す。先に見つけたのは紗耶だった。
「これじゃない!?」
そのカードには、双頭のドラゴンのイラストが描かれていた。
そうだ、これで間違い無い。僕は礼を言いつつ、カードをテーブルから取り上げた。
「今から、この水を掛ける。出てくるサモンズは、紗耶には見えないと思うけど、このカードからは消えるはずだ。そして、サモンズは自分でベランダへの窓を開けて、飛び降りる」
紗耶は真剣な顔で頷いた。打ち合わせていた通り、紗耶はカードが良く見える位置から動画を撮影している。
僕はカードに水を掛ける前に、もう一度紗耶に目配せをして、ゆっくりと水を垂らした。
出てきた、双頭のドラゴンだ。
「きゃっ!」
紗耶が小さく悲鳴を上げた。きっと、カードからイラストが消えたのだろう。
「渋谷スクランブル交差点にいる、双頭の戦士をやっつけてくれ。ここから飛んでいけるか?」
双頭の竜は、ゆっくりと両方の頭を下げた。そして長い髭を巧みに操ってベランダへの掃き出し窓を開ける。
「ほ、本当だ……優也、優也を信じることが出来て良かった……」
紗耶が言い終わるのを待っていたかのように、双頭のドラゴンは大空に向けて羽ばたき、ベランダから飛び出していった。
ドラゴンが起こした風は、紗耶の髪とスカートを揺らした。
「動画はちゃんと撮れたよ! 今からが本番なんだよね? 勝てる見込みはありそう!?」
「……それは分からない。このドラゴンは右の顔からは絶対零度の冷気、左の顔からは1兆℃の炎を吐くことが出来る……みたいだ。もし、1兆℃の炎が本当に吐けるとしたら……うーん、使ってしまうと渋谷は壊滅するかもしれない」
「ど、どうするの!? で、絶対零度の方は?」
「わ、分からない。悪いけど、絶対零度はどれくらいの威力なのか調べてくれないか、紗耶!」
「分かった!」
紗耶に調べ物をして貰っている間、僕はテレビ画面を凝視していた。空を飛べば到着するのはあっという間だろう。
「き、来た!」
「え? どこ!? どこにっ!?」
「そうか、まだ5分経ってないんだ! 片桐にも見えていないかもしれない!」
既に渋谷スクランブル交差点も厳戒態勢を取っており、交差点の真ん中に突っ立っている双頭の戦士以外に人影は見当たらなかった。昨日、機動警察隊に被害が出たこともあり、サモンズとの距離も十二分に取っているようだ。
「いけ、お前の尾でそいつをなぎ倒せ!」
カード片手に紗耶にも聞こえるように言った。
次の瞬間、双頭の戦士は逃げようとする動きをしたが間に合わず、真横に吹き飛ばされる。地下鉄構内への出入り口の壁に激突してようやく止まった。
……?
何故だろう、双頭の戦士の動きに違和感を憶えたのは……?
ドラゴンは見えていないはずなのに、何故逃げようとした……!?
その双頭の戦士はフラフラと立ち上がった。コイツの弱点はなんだったか……ダメだ、思い出せない。
「優也、ごめん、調べても分からない! その敵だけに放つのはダメなの!?」
「分かった、コントロール出来るか分からないけどやってみる! そいつだけに絶対零度の冷気を吐き出せ!」
双頭のドラゴンは、右の口から真っ白な冷気を吐き出した。双頭の戦士はみるみるうちに固まっていく。
「み、見えた! 見えたよドラゴン! イラストと同じだ!」
最初は冷気だけが見えたのかと思ったが、5分経ったのだろう、ドラゴンも実体化したらしい。完全に固まったように見えた戦士を先ほどのように、ドラゴンの尾で激しく横殴りした。
パーーーン
ガラスが割れるようなその音は、テレビからも大きな音で聞こえてきた。双頭の戦士は粉々に破壊されたのだ。そして、いつもと同じように光りの粒となって空へと帰って行った。
『ここです、ここで気をつけてください! 昨日はここから一般市民、いや警察官を巻き込みました! 気を抜いてはいけません!』
リポーターの声が一段と大きくなる。だが大丈夫だ、僕が勝ったときにはもちろん何もしない。少しの間を置いて、双頭のドラゴンも光りの粒となって消えてしまった。
「はあ……」
隣で紗耶が大きな息を吐き出した。集中して画面を見ていたせいで、呼吸も疎かになっていたのだろう。
「紗耶、どう? 信じられそう?」
「もう! 信じるってさっきも言ったでしょ! 凄かったよ優也!」
そう言って僕の手から、持っていたカードを取り上げた。
「ホントだ、『You win! 』って表示に変わってる! 今日は被害者が出なくて良かった!」
「ああ、ホントに……」
その時、スマホから着信音が響いた。片桐からだ。
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大野、今日のは酷いよ。いつも僕が先に召喚しているんだから、そのやり方はズルくないか? 今回は大目に見るけど、次は無しだ。
次にやったら大事な人に被害が及ぶと思って。
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一緒に画面を見ていた紗耶が、体を強ばらせるのが分かった。
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分かった、約束する。その代わり、他の人に手を出すのは絶対にやめてくれ。
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大野がちゃんと対戦さえすれば、大丈夫だよ。昨日も手を抜いたから怒っただけ。ちゃんと戦うなら、僕も闇雲に危害を加えたりしない。
って事でまた明日ね。今日の絶対零度の攻撃はしびれたよ。じゃ。
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紗耶は片桐とのやりとりを目の当たりにして、怯えた表情をしていた。
「大丈夫、絶対大丈夫だから。何があっても僕が守るよ、紗耶……」
そう言って、紗耶の手を両手で握りしめた。
僕がもう少し大人だったら、紗耶を抱きしめてあげる事も出来たのだろうか。
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