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Card No.05:告白

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 全校生徒は直ぐに帰宅することになった。学校には警察関係者も詰めかけており、まともに授業を受けられるような状況でも無かったからだ。

 光希と紗耶と僕は、学校の最寄り駅へ移動している。こんな時間に帰宅できるなんて、普段なら喜びそうなものだが、駅へ向かう生徒達は一様に暗い顔をしていた。

「で? 俺と紗耶ちゃんには話してくれるわけ? 大事な話とやら」

「そ、そうだな……とりあえず、マックでも寄らないか?」

「えっ!? でも先生は真っ直ぐ帰りなさいって言ってたよ」

「多分、大丈夫……今日はもう、モンスターは出てこないと思うから」

 そんな僕のマックへの誘いに、光希と紗耶は乗ってくれた。信じて貰えるかどうか分からないが、僕はカードや片桐の事を正直に話してみようと思う。

 ただ一つ、心配な事がある。

 光希達に話した事を片桐が知った時、どんな行動を取るか分からない事だ。それなら最初から、片桐に言ってしまった方がいい。バレた時、何をされるか分かったものじゃ無いからだ。マックに入る前に片桐にメッセージを送っておいた。

———————————————
バトルの事、友達に言っても大丈夫か?
———————————————

 光希だけはドリンク以外にポテトも買っていたが、僕と紗耶はドリンクのみでマックの二階へと上がった。モンスターがやられる一部始終を見ていた僕は、食欲が全く無かった。動画を見たであろう、紗耶も同じに違いない。

「で? 大事な話って?」

 早速、光希が切り出した。ダメだ、まだ片桐から返事が来ていない。

「ちょ、ちょっと待ってくれる? ずっと移動中だったから、詳細が分かってないんだ。ネットとかではどんな感じで取り上げられてたの?」

「……あ、ああ。先にいた戦士だけどさ、テレビ中継が始まるまではダラダラしてたんだよ、中庭から見てる限りは。それが体育館に移動して、テレビとかネット中継始まる頃には、やたらカメラに向かって威嚇したりして。不思議と、どのカメラから撮られてるのか分かってるみたいでさ。『なにコイツ、芸人みたいじゃん』なんて言って、笑ってたんだけど」

 やはり片桐がちゃんと戦士を動かし出したのは、中継が始まってからだ。片桐が紗耶たちの近くに居なかったと思うだけでホッとした。

「二体目は? どんな感じだった?」

 これは時間稼ぎでも無く、本当に知りたかった事だ。どのように学校に現れたのか知りたかったからだ。

「あの弱そうなモンスターな……最期はちょっと可哀想だったな。昨日は明らかにモンスターが悪い奴だったけど、今日はどうだったんだろう? 戦士の方が悪いように見えた」

「僕も中庭で途中から見てた。最期は可哀想だったね……で、現れたのは突然だった?」

「俺たちが見てたときは、警察隊の上を飛び越えて中庭に入ってきたな。凄いジャンプ力だった。見てないけど、学校の壁も飛び越えてきたらしい」

 なるほど……弱いって言ってもそれくらいのポテンシャルは持っているわけだ。そりゃ、マンションの3階から飛び降りるくらいだしな。

 その時、スマホから着信音が鳴った。片桐からだ。

———————————————
友達に教えちゃうの? 一対一の戦いを想定していたけど、構わないよ。
その代わり、このバトルを阻害するような事があれば容赦しないから。それは覚えておいて。じゃ。
———————————————

 ゴクリと息を飲む。言ってもいいとは言っているが、危険にさらす可能性はある。どうすればいい……

「誰から? そろそろ教えろよ、大事な話」

 光希の言葉に、紗耶も頷いた。


「昨日から起きている、一連の事件。信じられないと思うけど、僕も関係してるんだ。本当のことを全て話すと、光希にも紗耶にも面倒が起こるかもしれない。それでも聞きたいと言ってくれるなら、話そうと思う」

「……もしかして、逃げ出した理由を作るのに、そんな嘘をついてるのか?」

 光希からの返答は思ってもみないものだった。

「い、いや違う、嘘なんかじゃ無い。考えても見ろ、学校でみんな固まってるより、校舎から一人飛び出す方が危険って事もあるだろ」

「うーん……じゃあ聞いてみるよ。続きどうぞ」

 光希は仕方なさそうに次を促した。

「どこから話すかで、本当に難しいんだ。誰も信じてくれないような話だから……出来るだけ最後まで聞いて欲しい。お願いだ」

 二人は困ったような表情で頷いた。

「まず……そうだな。昨日の後から現れた戦士と、今日切り刻まれたモンスター。あの二体は僕が召喚……呼び出すって言うのか、そいつを——」

 バンッ!

 光希は大きな音を立ててテーブルを叩いた。

「いい加減にしろよ優也! 俺が聞きたいのはそんな作り話じゃない! で!? 本当の話はなんなんだよ!」

 光希は怒っていた。
 でも、今言っている事は全て本当なんだ。僕はどうすればいいのか分からない。

「そうだ、これ見て、このカードに描かれたイラストからモンスター達が……」

 光希は鞄を肩に掛け、席を立った。

「とりあえず、今日は帰る。ちゃんと話せるようになったら教えてくれ」

 光希はテーブルにドリンクとポテトを残したまま、一度も振り返ることなく店を出てしまった


「——紗耶も信じられないよな? どうしたらいいんだ僕は……」

 紗耶の前で涙なんか見せたくなかったが、体はワナワナと震え、目には涙が溜まっていく。そんな僕に、紗耶は自分のハンカチを渡してくれた。

「一応、最後まで聞いてみるよ。そのカードがどうしたの?」


 僕は小学生5年生の時に、片桐と会った時の話から始めた。

 そして昨日、あのモンスターは自分が描いたものだと気づき、戦士を呼び出した事も。

「その片桐って奴からのメッセージがこれなんだ」

 紗耶はスマホに送られてきたメッセージの一つ一つを、丁寧に見てくれている。紗耶は信じてくれるだろうか。

「このカードから出てくるモンスターなんかを、サモンズって呼んでるのね。私も見ること出来るの? カードから、そのサモンズってのが出てくるところ?」

「いや、その瞬間は残念ながら紗耶には見えない……そうだ、このカード、紗耶にはどう見える?」

 まだサモンズを召喚していないカードと、昨日今日と召喚し終わったカードを見てもらった。

「このカードにはモンスターのイラスト、で、これが『You win! 』、残りのカードが『You lose. 』って見えるけど。優也とは見え方が違うって事?」

「良かった、それなら大丈夫そうだ。召喚直後のサモンズは僕にしか見えないはずなんだ。でも、サモンズが抜けた後のカードが違って見えるなら、ちゃんと証明できると思う」

「明日も、明後日も出てくるって事? サモンズは?」

「片桐の事だから明日も出してくると思う。ただ、場所と時間は分からない。この近辺である事に間違いは無いと思うけど。……あと、一番重要な事。この話は絶対他の人には言わないで。紗耶にも危険が及ぶかもしれないから」

「ハハハ。大丈夫、言わないよ。言っても誰も信じてくれないだろうし。私だって、明日確認してからかな? ちゃんと信じるのは」

 紗耶はそう言って笑った。


 早退したおかげでバイトまで時間はたっぷりあった。気がつけば、紗耶とマクドナルドで話し込んでしまい、3時間が経っていた。

「あ、お父さんがまだ家に帰ってないこと怒ってる。そろそろ帰った方がいいかな」

 スマホを見た紗耶が言った。

「そ、そうだね、ごめん、気が回らなくて……紗耶が話を聞いてくれて、気が楽になったよ。本当にありがとう」

「全部本当だったら、あと47回もこんな事があるんだ。気が遠くなるね……」

「とりあえず、明日だけはなんとかバイトを休ませて貰って、紗耶にサモンズが出てくるところを見て貰うようにする。学校にも持っていくから、明日は」

 紗耶は、うんうんと頷いてくれた。


***


「おはようございます!」

 時間通りにファミレスのバイトに入ると、本田マネージャーが近寄ってきた。

「今日、ガラガラでしょ? やっぱりみんな出てこないよね、あんなのが二日も続いたら」

 店内に入ってすぐに気が付いた。本当に客が少ない。さっきのマックもそうだったが。

「……あの、すみません。本当に急で申し訳ないんですけど、明日休ませて頂けませんか? 明日だけなんで。前日に言い出すなんてありえないって、分かってるんですけど……」

「明日!? うーん、ちょっと待ってよ。……明日のシフトならなんとかなるかな。多分、明日も暇だろうし。どうしたの急に? デートかなんか?」
 
 紗耶と居る事になるだろうし、ある意味デートになってしまうのだろうか。黙ってしまったことで図星だと思われたようだ。

「まあ、いいでしょ。こんな事件が起きているときにデートできるなんて、最近の高校生はパワフルだね。その代わり、明日だけよ? 普段から真面目にやってくれている大野君だからOK出すんだからね」

 僕は何度も本田さんに礼を言って、来客の応対にまわった。



 バイトを終えて家に帰ると、父と母はテレビを見ていた。ちょうど、モンスターの腕が切り落とされるシーンだった。

「優也、これライブ映像で見たか? ライブの時はモザイク掛かってなかったんだぞ。緑色の液体がブシャーッと飛び出してな」

「もうやめてあげてよ、優也はこれからご飯なのに。ちょっと待ってね、お味噌汁温めるから」

 ライブ映像どころか、あのシーンを肉眼で見たのは、生徒の中では僕だけだろう。学校を抜け出して家に帰ってきたのを、親には言ってなかった。

「でも、何で優也の学校だったんだろうな。ニュース速報を聞いた時は、心臓が止まるかとおもったぞ」

「私も。生徒さんは誰一人、ケガも無くて本当に良かった。警察の方は、大変だったでしょうけど……」

「幸い、軽傷で済んだらしいけどな。あの盾を真っ二つにスパッと切れる剣なんて、ありえないって言ってたぞ、テレビでも」

 その剣を考えたのは僕だと知ったら、父さんたちはどんな顔をするだろうか。そんな気持ちのまま、僕はテーブルに着き食事を始めた。

 その時、家の電話が鳴った。どうやら、しばらく僕の高校は休校になるらしい。

 バイトも休みにした明日は、完全フリーになった。
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