44 / 49
44_再会
しおりを挟む
15分後、吉田さんのスマホに着信が入った。080-58……花帆の番号だ。
「もしもし、吉田です。折り返しありがとうございます。はい、ええ……そうです。ええ……」
吉田さんが懸命に説明してくれている。今なら俺とタクに会えると。実際会ったら、絶対に納得出来る話が聞けると。白石さんを後悔させたくないんです、と吉田さんは親身になって言ってくれた。
「今バイト上がったところだって。来てくれるって、彼女」
「ありがとう、吉田さん。何てお礼を言えばいいやら……本当にありがとう」
俺は何度も礼を言った。
「もういい、もういい。それより白石さんとの結果の方が大事でしょ。……あと、タクさん。手首切るのはもうやめてね。心臓弱い子なら止まっちゃうよ、あれ」
タクは笑顔で頷いた。
花帆が来るまでの時間、俺たちの口数は少なくなった。ちゃんと信じて貰えるだろうか? そんな不安が皆にあるのだろう。
「結構、時間経ったね。来るの戸惑ってるのかもしれないね」
とっくに着いてもおかしくない時間だが、花帆はまだ来ない。
コン。 コン。
その時ドアをノックする音が聞こえた。スニーカーを履いている事が多い花帆は、静かに階段を上がってきたのだろう。
「わ、私が出る。ちょっと待ってて」
吉田さんが開けたドアの向こう側に、花帆が見える。消え入りそうな「こんばんは」という声が聞こえた。
俺とタクは、部屋に入ってきた花帆を立ち上がって出迎えた。俺たちの顔を交互に見る花帆は、どう反応したらいいか分からない様子だ。
「白石さん、久しぶり。こんな事になって本当にごめん……俺と拓也の事、今から全て話すから。よかったら座って」
そのまま座ろうとする花帆に、「コート脱ぎませんか? こっちに置いておくから」と、吉田さんが促してくれた。コートを脱いだ花帆の首元に、俺が贈ったネックレスは無かった。
「拓也よりは聞きやすいと思うから……俺から話すね」
花帆は視線を宙に浮かせたまま、微動だにしない。
「話を始める前に、一つだけお願いがあるんだ白石さん。途中で席を立ちたくなるような、信じられない話が何度も出てくると思う。だけど、一つの物語、いや、一つの作り話と思って貰ってもいい。とにかく、最後まで聞いて欲しいんだ。俺の話が終わるまで」
大きく息を吸った花帆は、一拍おいて小さく頷いた。
「俺はね……こう見えて人間じゃ無いんだ。……あ、お、落ち着いて白石さん」
吉田さんが立ち上がりかけた花帆をなだめてくれた。
「生まれはどこだか分からないけど、中国のオンラインモールで売られてた。日本円で4万円くらいかな。それを拓也が買ってくれたんだ」
タクは花帆の反応を見ている。
「これが、俺が入っていた箱。元々は30㎝くらいの大きさだったんだ。そして、拓也が俺を起動させた事で、俺は拓也のコピーロボットになった」
RC-AVATARのパッケージを片手に、タクは続けた。
「昔の拓也を憶えてる? 俺と最初にカラオケに来た時の拓也。ここにいる吉田さんも一緒だったよね。コピーロボットになった瞬間は、俺も昔の拓也だったんだ。言い方は悪いけど、小太りの。でも面白い事に、このロボットは見た目を変える事が出来るんだよ。拓也は自分の理想を俺に当てはめたのかな。今、白石さんの目の前にいる、この姿に俺を変えたんだ」
RC-AVATARのパッケージを隅に追いやり、今度はゴーグルのパッケージを花帆の前に置いた。
「あと、大事なことなんだけど、俺はこんな風に1人で動く事も出来るし、今は訳あって箱しか無いんだけど……この箱の中にあったゴーグルで、拓也は俺を操作することも出来た。……ここまで大丈夫?」
花帆は何も答えなかった。
「もしもし、吉田です。折り返しありがとうございます。はい、ええ……そうです。ええ……」
吉田さんが懸命に説明してくれている。今なら俺とタクに会えると。実際会ったら、絶対に納得出来る話が聞けると。白石さんを後悔させたくないんです、と吉田さんは親身になって言ってくれた。
「今バイト上がったところだって。来てくれるって、彼女」
「ありがとう、吉田さん。何てお礼を言えばいいやら……本当にありがとう」
俺は何度も礼を言った。
「もういい、もういい。それより白石さんとの結果の方が大事でしょ。……あと、タクさん。手首切るのはもうやめてね。心臓弱い子なら止まっちゃうよ、あれ」
タクは笑顔で頷いた。
花帆が来るまでの時間、俺たちの口数は少なくなった。ちゃんと信じて貰えるだろうか? そんな不安が皆にあるのだろう。
「結構、時間経ったね。来るの戸惑ってるのかもしれないね」
とっくに着いてもおかしくない時間だが、花帆はまだ来ない。
コン。 コン。
その時ドアをノックする音が聞こえた。スニーカーを履いている事が多い花帆は、静かに階段を上がってきたのだろう。
「わ、私が出る。ちょっと待ってて」
吉田さんが開けたドアの向こう側に、花帆が見える。消え入りそうな「こんばんは」という声が聞こえた。
俺とタクは、部屋に入ってきた花帆を立ち上がって出迎えた。俺たちの顔を交互に見る花帆は、どう反応したらいいか分からない様子だ。
「白石さん、久しぶり。こんな事になって本当にごめん……俺と拓也の事、今から全て話すから。よかったら座って」
そのまま座ろうとする花帆に、「コート脱ぎませんか? こっちに置いておくから」と、吉田さんが促してくれた。コートを脱いだ花帆の首元に、俺が贈ったネックレスは無かった。
「拓也よりは聞きやすいと思うから……俺から話すね」
花帆は視線を宙に浮かせたまま、微動だにしない。
「話を始める前に、一つだけお願いがあるんだ白石さん。途中で席を立ちたくなるような、信じられない話が何度も出てくると思う。だけど、一つの物語、いや、一つの作り話と思って貰ってもいい。とにかく、最後まで聞いて欲しいんだ。俺の話が終わるまで」
大きく息を吸った花帆は、一拍おいて小さく頷いた。
「俺はね……こう見えて人間じゃ無いんだ。……あ、お、落ち着いて白石さん」
吉田さんが立ち上がりかけた花帆をなだめてくれた。
「生まれはどこだか分からないけど、中国のオンラインモールで売られてた。日本円で4万円くらいかな。それを拓也が買ってくれたんだ」
タクは花帆の反応を見ている。
「これが、俺が入っていた箱。元々は30㎝くらいの大きさだったんだ。そして、拓也が俺を起動させた事で、俺は拓也のコピーロボットになった」
RC-AVATARのパッケージを片手に、タクは続けた。
「昔の拓也を憶えてる? 俺と最初にカラオケに来た時の拓也。ここにいる吉田さんも一緒だったよね。コピーロボットになった瞬間は、俺も昔の拓也だったんだ。言い方は悪いけど、小太りの。でも面白い事に、このロボットは見た目を変える事が出来るんだよ。拓也は自分の理想を俺に当てはめたのかな。今、白石さんの目の前にいる、この姿に俺を変えたんだ」
RC-AVATARのパッケージを隅に追いやり、今度はゴーグルのパッケージを花帆の前に置いた。
「あと、大事なことなんだけど、俺はこんな風に1人で動く事も出来るし、今は訳あって箱しか無いんだけど……この箱の中にあったゴーグルで、拓也は俺を操作することも出来た。……ここまで大丈夫?」
花帆は何も答えなかった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる