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42_帰還
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ハイツの階段を上がる音が聞こえてきた。タクからメッセージがあって、14分程。タクに違いない。
「タク!?」
玄関まで駆け、勢いよくドアを開けると驚いた表情のタクが立っていた。
「久しぶりだね、拓也。ダイエット頑張りすぎじゃ無い? やつれて見え——」
俺は言葉を返すこと無く、タクに抱きついた。溢れ出る涙が、タクの上着を濡らす。
「ちょっと、ちょっと。吉田さんがビックリしてるよ」
分かってる、分かってるけど涙が止まらない。
「……ごめんね、拓也。勝手に出て行ったりして」
ううん、タクは俺のために出て行ったんだ、分かってる。そんな思いも言葉にならなかった。
「吉田さん、変なとこ見せてごめん。ハハッ、泣いてしまうなんて思いもしなかった」
俺は涙を拭いながら、吉田さんに謝った。
「ううん、気にしないで。それより、タクさん髪型変えたのね。家出てる間は髪切らなかったの?」
「いや、俺の髪型は……拓也、吉田さんにはどこまで話してあるの?」
中国のオンラインモールでRC-AVATARを買って、今に至るまでの事は全て吉田さんに話したと説明した。今回、連絡を取ることが出来たのも、吉田さんのおかげだという事も。
「そうか……吉田さん、色々ありがとうございました。でも、まだ信じられるかって言うと難しいよね?」
「メッセージのやりとりを目の当たりにした時は驚いたけど、信じられるかどうかって言うとやっぱり……ちょっとね」
「そりゃそうだ……ちょっと待っててくれる?」
タクはそう言って押し入れを開けると、天井板を外してゴソゴソと何かを探し出した。
「あれ? おかしいな? 拓也……ゴーグルどこかにやった?」
「ゴーグル持って行ったのはタクだろ? 俺が知るわけないじゃん」
「いや、あんな大きなもの持ち出さないよ。邪魔で仕方ないし。……どこ行ったんだろう? ここに隠しておいたんだけど」
タクが持ち出したと思っていたゴーグルは、なんと俺の家に置いてあったようだ。
「もしかして……タクが出て行った日、気になる白人の男性を見かけたんだ。しかも、俺の家の玄関、真ん前に立っていた。……彼が、ここから持ち出しとか?」
俺はハイツの窓を開けて外を見てみた。これと言って怪しい人影は無い。タクの事をつけてきた人物がいるかもしれないと思ったのだ。
「どうだろうね。俺は製造会社の内情なんかは全く分からないけど、ゴーグルが盗まれたのは間違いないかも」
「ねえねえ、ちょっとした映画みたいなお話になってるけど、そろそろ私ついて行けないかも……お邪魔しちゃった方がいいかな?」
「……仕方ないか」
タクはそう言うと、キッチンの前に立った。コーヒーの一杯でも出すつもりだろうか。
「吉田さん、驚くだろうけどちゃんと見てて」
タクは後ろ手に隠し持っていた包丁で、勢いよく自分の手首を切った。
「キャーーーッ!!」
「何するんだ、タク!!」
吉田さんが大きな悲鳴を上げる。俺も大声を上げていた。
タクの手首から、勢いよく透明な水が噴き出し、苦痛に顔をゆがめたタクは手首を押さえていた。
「見てて、傷口を」
傷口から吹き出していた水はしばらくして止まり、スパッと切れていた傷口も、ゆっくりと塞がっていった。
「いてて……一応、ロボットでも痛覚はあるんだよ。人のそれとは全く違うだろうけど。そうじゃなきゃ、腕がもげても気付かないからね。あー……ちょっと落ち着いてきたかな」
俺と吉田さんは、しばらくの間放心状態となった。
「タク!?」
玄関まで駆け、勢いよくドアを開けると驚いた表情のタクが立っていた。
「久しぶりだね、拓也。ダイエット頑張りすぎじゃ無い? やつれて見え——」
俺は言葉を返すこと無く、タクに抱きついた。溢れ出る涙が、タクの上着を濡らす。
「ちょっと、ちょっと。吉田さんがビックリしてるよ」
分かってる、分かってるけど涙が止まらない。
「……ごめんね、拓也。勝手に出て行ったりして」
ううん、タクは俺のために出て行ったんだ、分かってる。そんな思いも言葉にならなかった。
「吉田さん、変なとこ見せてごめん。ハハッ、泣いてしまうなんて思いもしなかった」
俺は涙を拭いながら、吉田さんに謝った。
「ううん、気にしないで。それより、タクさん髪型変えたのね。家出てる間は髪切らなかったの?」
「いや、俺の髪型は……拓也、吉田さんにはどこまで話してあるの?」
中国のオンラインモールでRC-AVATARを買って、今に至るまでの事は全て吉田さんに話したと説明した。今回、連絡を取ることが出来たのも、吉田さんのおかげだという事も。
「そうか……吉田さん、色々ありがとうございました。でも、まだ信じられるかって言うと難しいよね?」
「メッセージのやりとりを目の当たりにした時は驚いたけど、信じられるかどうかって言うとやっぱり……ちょっとね」
「そりゃそうだ……ちょっと待っててくれる?」
タクはそう言って押し入れを開けると、天井板を外してゴソゴソと何かを探し出した。
「あれ? おかしいな? 拓也……ゴーグルどこかにやった?」
「ゴーグル持って行ったのはタクだろ? 俺が知るわけないじゃん」
「いや、あんな大きなもの持ち出さないよ。邪魔で仕方ないし。……どこ行ったんだろう? ここに隠しておいたんだけど」
タクが持ち出したと思っていたゴーグルは、なんと俺の家に置いてあったようだ。
「もしかして……タクが出て行った日、気になる白人の男性を見かけたんだ。しかも、俺の家の玄関、真ん前に立っていた。……彼が、ここから持ち出しとか?」
俺はハイツの窓を開けて外を見てみた。これと言って怪しい人影は無い。タクの事をつけてきた人物がいるかもしれないと思ったのだ。
「どうだろうね。俺は製造会社の内情なんかは全く分からないけど、ゴーグルが盗まれたのは間違いないかも」
「ねえねえ、ちょっとした映画みたいなお話になってるけど、そろそろ私ついて行けないかも……お邪魔しちゃった方がいいかな?」
「……仕方ないか」
タクはそう言うと、キッチンの前に立った。コーヒーの一杯でも出すつもりだろうか。
「吉田さん、驚くだろうけどちゃんと見てて」
タクは後ろ手に隠し持っていた包丁で、勢いよく自分の手首を切った。
「キャーーーッ!!」
「何するんだ、タク!!」
吉田さんが大きな悲鳴を上げる。俺も大声を上げていた。
タクの手首から、勢いよく透明な水が噴き出し、苦痛に顔をゆがめたタクは手首を押さえていた。
「見てて、傷口を」
傷口から吹き出していた水はしばらくして止まり、スパッと切れていた傷口も、ゆっくりと塞がっていった。
「いてて……一応、ロボットでも痛覚はあるんだよ。人のそれとは全く違うだろうけど。そうじゃなきゃ、腕がもげても気付かないからね。あー……ちょっと落ち着いてきたかな」
俺と吉田さんは、しばらくの間放心状態となった。
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