42 / 49
42_帰還
しおりを挟む
ハイツの階段を上がる音が聞こえてきた。タクからメッセージがあって、14分程。タクに違いない。
「タク!?」
玄関まで駆け、勢いよくドアを開けると驚いた表情のタクが立っていた。
「久しぶりだね、拓也。ダイエット頑張りすぎじゃ無い? やつれて見え——」
俺は言葉を返すこと無く、タクに抱きついた。溢れ出る涙が、タクの上着を濡らす。
「ちょっと、ちょっと。吉田さんがビックリしてるよ」
分かってる、分かってるけど涙が止まらない。
「……ごめんね、拓也。勝手に出て行ったりして」
ううん、タクは俺のために出て行ったんだ、分かってる。そんな思いも言葉にならなかった。
「吉田さん、変なとこ見せてごめん。ハハッ、泣いてしまうなんて思いもしなかった」
俺は涙を拭いながら、吉田さんに謝った。
「ううん、気にしないで。それより、タクさん髪型変えたのね。家出てる間は髪切らなかったの?」
「いや、俺の髪型は……拓也、吉田さんにはどこまで話してあるの?」
中国のオンラインモールでRC-AVATARを買って、今に至るまでの事は全て吉田さんに話したと説明した。今回、連絡を取ることが出来たのも、吉田さんのおかげだという事も。
「そうか……吉田さん、色々ありがとうございました。でも、まだ信じられるかって言うと難しいよね?」
「メッセージのやりとりを目の当たりにした時は驚いたけど、信じられるかどうかって言うとやっぱり……ちょっとね」
「そりゃそうだ……ちょっと待っててくれる?」
タクはそう言って押し入れを開けると、天井板を外してゴソゴソと何かを探し出した。
「あれ? おかしいな? 拓也……ゴーグルどこかにやった?」
「ゴーグル持って行ったのはタクだろ? 俺が知るわけないじゃん」
「いや、あんな大きなもの持ち出さないよ。邪魔で仕方ないし。……どこ行ったんだろう? ここに隠しておいたんだけど」
タクが持ち出したと思っていたゴーグルは、なんと俺の家に置いてあったようだ。
「もしかして……タクが出て行った日、気になる白人の男性を見かけたんだ。しかも、俺の家の玄関、真ん前に立っていた。……彼が、ここから持ち出しとか?」
俺はハイツの窓を開けて外を見てみた。これと言って怪しい人影は無い。タクの事をつけてきた人物がいるかもしれないと思ったのだ。
「どうだろうね。俺は製造会社の内情なんかは全く分からないけど、ゴーグルが盗まれたのは間違いないかも」
「ねえねえ、ちょっとした映画みたいなお話になってるけど、そろそろ私ついて行けないかも……お邪魔しちゃった方がいいかな?」
「……仕方ないか」
タクはそう言うと、キッチンの前に立った。コーヒーの一杯でも出すつもりだろうか。
「吉田さん、驚くだろうけどちゃんと見てて」
タクは後ろ手に隠し持っていた包丁で、勢いよく自分の手首を切った。
「キャーーーッ!!」
「何するんだ、タク!!」
吉田さんが大きな悲鳴を上げる。俺も大声を上げていた。
タクの手首から、勢いよく透明な水が噴き出し、苦痛に顔をゆがめたタクは手首を押さえていた。
「見てて、傷口を」
傷口から吹き出していた水はしばらくして止まり、スパッと切れていた傷口も、ゆっくりと塞がっていった。
「いてて……一応、ロボットでも痛覚はあるんだよ。人のそれとは全く違うだろうけど。そうじゃなきゃ、腕がもげても気付かないからね。あー……ちょっと落ち着いてきたかな」
俺と吉田さんは、しばらくの間放心状態となった。
「タク!?」
玄関まで駆け、勢いよくドアを開けると驚いた表情のタクが立っていた。
「久しぶりだね、拓也。ダイエット頑張りすぎじゃ無い? やつれて見え——」
俺は言葉を返すこと無く、タクに抱きついた。溢れ出る涙が、タクの上着を濡らす。
「ちょっと、ちょっと。吉田さんがビックリしてるよ」
分かってる、分かってるけど涙が止まらない。
「……ごめんね、拓也。勝手に出て行ったりして」
ううん、タクは俺のために出て行ったんだ、分かってる。そんな思いも言葉にならなかった。
「吉田さん、変なとこ見せてごめん。ハハッ、泣いてしまうなんて思いもしなかった」
俺は涙を拭いながら、吉田さんに謝った。
「ううん、気にしないで。それより、タクさん髪型変えたのね。家出てる間は髪切らなかったの?」
「いや、俺の髪型は……拓也、吉田さんにはどこまで話してあるの?」
中国のオンラインモールでRC-AVATARを買って、今に至るまでの事は全て吉田さんに話したと説明した。今回、連絡を取ることが出来たのも、吉田さんのおかげだという事も。
「そうか……吉田さん、色々ありがとうございました。でも、まだ信じられるかって言うと難しいよね?」
「メッセージのやりとりを目の当たりにした時は驚いたけど、信じられるかどうかって言うとやっぱり……ちょっとね」
「そりゃそうだ……ちょっと待っててくれる?」
タクはそう言って押し入れを開けると、天井板を外してゴソゴソと何かを探し出した。
「あれ? おかしいな? 拓也……ゴーグルどこかにやった?」
「ゴーグル持って行ったのはタクだろ? 俺が知るわけないじゃん」
「いや、あんな大きなもの持ち出さないよ。邪魔で仕方ないし。……どこ行ったんだろう? ここに隠しておいたんだけど」
タクが持ち出したと思っていたゴーグルは、なんと俺の家に置いてあったようだ。
「もしかして……タクが出て行った日、気になる白人の男性を見かけたんだ。しかも、俺の家の玄関、真ん前に立っていた。……彼が、ここから持ち出しとか?」
俺はハイツの窓を開けて外を見てみた。これと言って怪しい人影は無い。タクの事をつけてきた人物がいるかもしれないと思ったのだ。
「どうだろうね。俺は製造会社の内情なんかは全く分からないけど、ゴーグルが盗まれたのは間違いないかも」
「ねえねえ、ちょっとした映画みたいなお話になってるけど、そろそろ私ついて行けないかも……お邪魔しちゃった方がいいかな?」
「……仕方ないか」
タクはそう言うと、キッチンの前に立った。コーヒーの一杯でも出すつもりだろうか。
「吉田さん、驚くだろうけどちゃんと見てて」
タクは後ろ手に隠し持っていた包丁で、勢いよく自分の手首を切った。
「キャーーーッ!!」
「何するんだ、タク!!」
吉田さんが大きな悲鳴を上げる。俺も大声を上げていた。
タクの手首から、勢いよく透明な水が噴き出し、苦痛に顔をゆがめたタクは手首を押さえていた。
「見てて、傷口を」
傷口から吹き出していた水はしばらくして止まり、スパッと切れていた傷口も、ゆっくりと塞がっていった。
「いてて……一応、ロボットでも痛覚はあるんだよ。人のそれとは全く違うだろうけど。そうじゃなきゃ、腕がもげても気付かないからね。あー……ちょっと落ち着いてきたかな」
俺と吉田さんは、しばらくの間放心状態となった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説

クールな生徒会長のオンとオフが違いすぎるっ!?
ブレイブ
恋愛
政治家、資産家の子供だけが通える高校。上流高校がある。上流高校の一年生にして生徒会長。神童燐は普段は冷静に動き、正確な指示を出すが、家族と、恋人、新の前では
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
自由メカニック
雪音かおり
ファンタジー
『AIに意思があったらどうなる?』そんな想像が現実に!?意思を持ったAIが現実世界に現れ主人公・栗栖蒼真(くりすそうま)達と一緒に生活していく。その先に待つ結末とは‥。

マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる