ある日、もう一人の俺(イケメンだけど寿命は3年)がこの世に誕生した話

靣音:Monet

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 早退した翌日の火曜日。熱が下がっていなかった事もあって、迷わず会社を休んだ。

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一度ゆっくり話をさせてくれないか
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 花帆へ送ったメッセージは未読のままだ。

 あの時にこうしていたら、あの時間に戻れるならば……考えても仕方ないことばかりが頭を巡る。

 こんな時でも弱った体は睡眠を求めるようで、気付けば眠りに落ちていた。目が覚めたのは夕方の6時。花帆は授業を終えて、バイトへ移動している頃だろうか。いや、俺のせいで、学校もバイトも休んでいるかもしれない。期待せずにスマホをチェックするとメッセージが入っていた。

——————————
山口さんと彼女の都合どうだった?
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 柳原だった。熱が出て会社を休んだから分からない、と返事を入れておく。

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週末飲みに行ってて、週明けから休むとか弛みすぎ!
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 すぐに返事が来たが、俺はスマホを閉じてしまった。すまない、柳原……

 食欲は相変わらず無かったが、花帆が買ってくれた飲むタイプのゼリーを体に流し込む。熱のせいか、殆ど味はしなかった。


***


 翌朝の水曜日、熱は36.8℃まで下がっていた。悩んだ末、俺は出社を決めた。花帆へのメッセージは相変わらず未読のままだ。

「おはようございます、藤田さん。月火と仕事にならず、すみませんでした」

「おはよう。もう大丈夫なの? 顔色悪いままじゃない? 今朝は何度だったの?」

「36.8℃でした。熱出た後っていつもこんな感じなんです。多分、夕方くらいにはシャンとしてると思うんで」
 
 強ばった笑顔で俺は答えた。

 月火と休んだせいで、仕事がかなり溜まっていた。頭を真っ白にして仕事に取り組む。今の俺には、却って有り難かったかもしれない。


「お疲れさま、沢山進めてくれたんだね。休んだからって、無理しないで良かったのに。光良くんから聞いたけど、紹介するお友達ってどうだった? 面接受けてくれそう?」

「いや……体調悪かったのもあって、まだ聞けてないんです。分かり次第、すぐ伝えますんで」

「そりゃ、そうよね。急かしたみたいでごめんね。もちろん、分かったタイミングで大丈夫だから。それより、病み上がりは気をつけなきゃダメよ。帰ったらすぐ寝るのよ」

 藤田さんはまるで母親のように心配してくれた。

 それより俺はまだ、花帆を紹介するつもりでいるのだろうか。会話さえ出来る見込みも無いのに。



 帰りの電車に揺られている。

 花帆のバイトが20時入りの時は、時間を合わせて会っていた。一緒に居られる時間は、1時間にも満たないというのに。

 待ち合わせ場所は、駅のホーム。俺がいつも降りる、前から3両目、2番目の乗降口。花帆は、いつもその前で待ってくれていた。

「暑いんだから、待合室とかで待っていればいいのに」

「だって、ホームで待つのが一番早く拓也に会えるじゃん」

 そんな、花帆の言葉を思い出す。

 今日も俺は、前から3両目の2番目の乗降口の前に立っている。開いたドアの向こうに、花帆はいるはずも無いのに。

 この駅は花帆との思い出で溢れている。

 花帆と連絡が取れなくなって、まだ3日目。花帆との思い出も、いつかは色褪せていくのだろうか。
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