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35_ジョギング
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花帆、起きてる? 俺は今から出るよ
——————————
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起きてるよ! じゃ、今日も会うのは橋の下辺りかな?
——————————
イタリアンレストランで、花帆の誕生日を祝ってから2ヶ月が経った。
俺は白石さんの事を花帆と呼び、花帆は俺の事を拓也と呼ぶようになっていた。付き合って2週間程で、俺のジョギングに感化されたのか花帆もジョギングを始めた。
俺のジョギングコースとなっていた大吉川は花帆の家の方が近く、お互いが大吉川の遊歩道を使ってジョギングをするようになった。俺は大吉川の遊歩道を北側から南側へ下り、花帆は南側から北へ上がってくる。そして、俺と花帆が出会ったポイントで、花帆は折り返して2人で併走する。俺が遅れた時は、花帆は延々と北上し、軽く怒られた事もある。
「おはよ!」
「おはよう!」
花帆の予想通り、大きな陸橋の下辺りで俺たちは顔を合わせた。ここから花帆は折り返して、自宅へのコースを辿る。
「寒くなってきたなあ。朝起きるの辛くない?」
「全然平気。私、そんなヤワじゃ無いもん」
そう言って花帆は笑った。
付き合ってみると、花帆は思ったより強気で勝ち気な所があった。会社をスパッと辞めて新しいことを始めるとか、山岡に怒って先に店を出たりなど、振り返れば思い当たる節もある。ただ、好きという気持ちに今も変わりは無い。いや、そんな花帆も、より愛おしく思える。
その時、ジョギングしていた初老の女性が、前のめりに転倒した。持っていた水筒をかばったのが悪かったのか、肘から地面に突っ込む形になってしまった。俺と花帆は慌てて駆け寄り、声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「いたたた、すみません、大丈夫です。この間、水筒買い換えたばかりだから、傷つけちゃいけないと思って……歳なんだから先に体を守らないとね。もう大丈夫です、ありがとうございます」
女性はそう言うと、肘を押さえながらヨロヨロと歩き始めた。無事であればいいが……
「転倒した時の山岡さん思い出しちゃった。ウイスキーだったか、ボトル運んでる時に転倒して、割れないようにかばって肘打っちゃったの」
「あ、あー……そうだったね」
「その時、拓也いたっけ? 拓也がバイト辞めたてからだったと思うけど」
「……んー、花帆に聞いたんだっけ?」
「私、言ったかなあ? ——まあいいか」
今までも、何度かこういう事があった。
花帆が初めてバイトに来た日や、タクと花帆の歓迎会の話なら俺も分かるが、日々起こった細かい出来事は分からない。今日のようにサラッと流れる事が常だが、いつの日か、誤魔化しが効かないような事が起きるかもしれない。
そう言えば、以前に比べてタクを思い出すことが少なくなった。
常に、俺の事を最優先に考えてくれていたタクは、今何を思ってるんだろう。どこかで俺を観察して、『今の拓也なら大丈夫。俺が出る幕は無い』とでも思ってくれているのだろうか。
タクに今の俺を見て貰いたい気はするが、瓜二つの人間が一つ屋根の下に住むのも、今となっては難しい気がする。
タク、俺は今本当に幸せだ。
タク……
タクはこれで、本当に満足なのかい?
花帆、起きてる? 俺は今から出るよ
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起きてるよ! じゃ、今日も会うのは橋の下辺りかな?
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イタリアンレストランで、花帆の誕生日を祝ってから2ヶ月が経った。
俺は白石さんの事を花帆と呼び、花帆は俺の事を拓也と呼ぶようになっていた。付き合って2週間程で、俺のジョギングに感化されたのか花帆もジョギングを始めた。
俺のジョギングコースとなっていた大吉川は花帆の家の方が近く、お互いが大吉川の遊歩道を使ってジョギングをするようになった。俺は大吉川の遊歩道を北側から南側へ下り、花帆は南側から北へ上がってくる。そして、俺と花帆が出会ったポイントで、花帆は折り返して2人で併走する。俺が遅れた時は、花帆は延々と北上し、軽く怒られた事もある。
「おはよ!」
「おはよう!」
花帆の予想通り、大きな陸橋の下辺りで俺たちは顔を合わせた。ここから花帆は折り返して、自宅へのコースを辿る。
「寒くなってきたなあ。朝起きるの辛くない?」
「全然平気。私、そんなヤワじゃ無いもん」
そう言って花帆は笑った。
付き合ってみると、花帆は思ったより強気で勝ち気な所があった。会社をスパッと辞めて新しいことを始めるとか、山岡に怒って先に店を出たりなど、振り返れば思い当たる節もある。ただ、好きという気持ちに今も変わりは無い。いや、そんな花帆も、より愛おしく思える。
その時、ジョギングしていた初老の女性が、前のめりに転倒した。持っていた水筒をかばったのが悪かったのか、肘から地面に突っ込む形になってしまった。俺と花帆は慌てて駆け寄り、声をかけた。
「大丈夫ですか?」
「いたたた、すみません、大丈夫です。この間、水筒買い換えたばかりだから、傷つけちゃいけないと思って……歳なんだから先に体を守らないとね。もう大丈夫です、ありがとうございます」
女性はそう言うと、肘を押さえながらヨロヨロと歩き始めた。無事であればいいが……
「転倒した時の山岡さん思い出しちゃった。ウイスキーだったか、ボトル運んでる時に転倒して、割れないようにかばって肘打っちゃったの」
「あ、あー……そうだったね」
「その時、拓也いたっけ? 拓也がバイト辞めたてからだったと思うけど」
「……んー、花帆に聞いたんだっけ?」
「私、言ったかなあ? ——まあいいか」
今までも、何度かこういう事があった。
花帆が初めてバイトに来た日や、タクと花帆の歓迎会の話なら俺も分かるが、日々起こった細かい出来事は分からない。今日のようにサラッと流れる事が常だが、いつの日か、誤魔化しが効かないような事が起きるかもしれない。
そう言えば、以前に比べてタクを思い出すことが少なくなった。
常に、俺の事を最優先に考えてくれていたタクは、今何を思ってるんだろう。どこかで俺を観察して、『今の拓也なら大丈夫。俺が出る幕は無い』とでも思ってくれているのだろうか。
タクに今の俺を見て貰いたい気はするが、瓜二つの人間が一つ屋根の下に住むのも、今となっては難しい気がする。
タク、俺は今本当に幸せだ。
タク……
タクはこれで、本当に満足なのかい?
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