上 下
35 / 49

35_ジョギング

しおりを挟む
——————————
花帆、起きてる? 俺は今から出るよ
——————————
——————————
起きてるよ! じゃ、今日も会うのは橋の下辺りかな?
——————————

 イタリアンレストランで、花帆の誕生日を祝ってから2ヶ月が経った。

 俺は白石さんの事を花帆と呼び、花帆は俺の事を拓也と呼ぶようになっていた。付き合って2週間程で、俺のジョギングに感化されたのか花帆もジョギングを始めた。

 俺のジョギングコースとなっていた大吉川は花帆の家の方が近く、お互いが大吉川の遊歩道を使ってジョギングをするようになった。俺は大吉川の遊歩道を北側から南側へ下り、花帆は南側から北へ上がってくる。そして、俺と花帆が出会ったポイントで、花帆は折り返して2人で併走する。俺が遅れた時は、花帆は延々と北上し、軽く怒られた事もある。

「おはよ!」

「おはよう!」

 花帆の予想通り、大きな陸橋の下辺りで俺たちは顔を合わせた。ここから花帆は折り返して、自宅へのコースを辿る。

「寒くなってきたなあ。朝起きるの辛くない?」

「全然平気。私、そんなヤワじゃ無いもん」

 そう言って花帆は笑った。

 付き合ってみると、花帆は思ったより強気で勝ち気な所があった。会社をスパッと辞めて新しいことを始めるとか、山岡に怒って先に店を出たりなど、振り返れば思い当たる節もある。ただ、好きという気持ちに今も変わりは無い。いや、そんな花帆も、より愛おしく思える。

 その時、ジョギングしていた初老の女性が、前のめりに転倒した。持っていた水筒をかばったのが悪かったのか、肘から地面に突っ込む形になってしまった。俺と花帆は慌てて駆け寄り、声をかけた。

「大丈夫ですか?」

「いたたた、すみません、大丈夫です。この間、水筒買い換えたばかりだから、傷つけちゃいけないと思って……歳なんだから先に体を守らないとね。もう大丈夫です、ありがとうございます」

 女性はそう言うと、肘を押さえながらヨロヨロと歩き始めた。無事であればいいが……

「転倒した時の山岡さん思い出しちゃった。ウイスキーだったか、ボトル運んでる時に転倒して、割れないようにかばって肘打っちゃったの」

「あ、あー……そうだったね」

「その時、拓也いたっけ? 拓也がバイト辞めたてからだったと思うけど」

「……んー、花帆に聞いたんだっけ?」

「私、言ったかなあ? ——まあいいか」

 今までも、何度かこういう事があった。

 花帆が初めてバイトに来た日や、タクと花帆の歓迎会の話なら俺も分かるが、日々起こった細かい出来事は分からない。今日のようにサラッと流れる事が常だが、いつの日か、誤魔化しが効かないような事が起きるかもしれない。


 そう言えば、以前に比べてタクを思い出すことが少なくなった。

 常に、俺の事を最優先に考えてくれていたタクは、今何を思ってるんだろう。どこかで俺を観察して、『今の拓也なら大丈夫。俺が出る幕は無い』とでも思ってくれているのだろうか。

 タクに今の俺を見て貰いたい気はするが、瓜二つの人間が一つ屋根の下に住むのも、今となっては難しい気がする。

 タク、俺は今本当に幸せだ。

 タク……

 タクはこれで、本当に満足なのかい?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
青春
とあるオッサンの青春実話です

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

幼馴染が昼食の誘いを断るので俺も一緒に登校するのを断ろうと思います

陸沢宝史
恋愛
高校生の風登は幼馴染の友之との登校を断り一人で歩きだしてしまう。友之はそれを必死に追いかけるのだが。

処理中です...