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29_タクのおかげ
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「おはよう、斉藤さん! 多少は元気になった感じね。そろそろあっちの方も始めようか、新商品の件」
「おはようございます! 昨日はすみませんでした、もう大丈夫です。新商品の件、やりましょう」
そんな感じでやる気はみなぎっていたのだが、俺たち商品開発部と営業部との打ち合わせは、何の収穫も無いままに終わってしまった。
俺の準備不足もあったかもしれないが、営業は営業で、新しいものなんて簡単に見つかるものじゃないという決め付けがあるようにも見えた。どうしたものかと途方に暮れていると、社長の幸田が商品開発部までやってきた。
「どうや? なんかいいの作れそうか?」
「さっき、営業さん含めて打ち合わせしたのですが、なかなか出てこないですね……私のアイデアもいくつか出してみましたが、既にやった事があるとか、他社さんで扱ってるけど結果出てないとか、そんなのばかりで」
「そうかそうか。まあ、焦らんと仕事の合間にやってくれたらええから。それと、藤田さんに怒られてんけど、斉藤くんの歓迎会やってあげてって。金曜の夜とか大丈夫か?」
藤田さんが席を外しているのを見計らってやってきたのだろうか、幸田は小声で言った。
「あ、ありがとうございます! いつでも大丈夫です、無理にでも開けますんで!」
「そうか、じゃ後は営業の山口にでも任せとくわ。都合悪い日が出来たら教えたって」
幸田はそう言うと、3階の社長室へと戻っていった。社長がやらないような雑用も好んでやる幸田に、俺は好感を抱いている。
退社して、真っ直ぐ浅井の美容室へ向かった。7時に予約を入れているので、ちょうど良いタイミングだろう。開店は11時と遅めだが、夜は10時まで営業している。個室スタイルで仕事帰りの人も利用できる、それが繁盛している理由だと浅井は言っていた。
「こんばんは、斉藤です」
美容室のドアを開けて声をかけると、浅井はギョッとした顔で俺を二度見した。
「また一段と痩せたな! 斉藤ってそんなストイックな奴だったけ? 頑張ってるなー」
浅井は「吉川にも見習わせないとな」と言いながら、カットしてくれる個室まで案内してくれた。
「どう? 幸田さんとこ。楽しくやってる?」
「うん、今の所、最高だね。どの部署の社員も仕事をさせられてるって感じじゃ無くて、もの凄く自発的に動いてる感じがする。社長は俺にも事細かに声かけてくれるし」
「それは良かった。お客さんの時の顔と、仕事するときの顔が違う人って結構いるんだよ。良い意味でも悪い意味でもね。幸田さんは良い意味で一緒みたいだわ。紹介出来て良かったよ」
こちらこそありがとう、と礼を言う。浅井には感謝しか無い。
「で、今日は? リクエストがあればの話だけど」
「タクの髪型って覚えてる? 従兄弟の。アレっぽく出来る?」
「おおお! 斉藤もとうとう、髪型に気を使うようになったか! うんうん、大体は覚えてる。今風な感じのね。一緒の感じにしちゃっていいの?」
「うーん、ちょっとだけ変えてくれたら。最終的にはもう一度仕上げて貰わないといけないけど」
「なんだよ、もう一度仕上げるって。なんかイベントでもあるのか? ん?」
髪を霧吹きで湿らせながら、ニヤニヤと鏡越しに俺を見てくる。
「いや、まあ……デートみたいなものかな……」
「おお! スゲーじゃん! 相手どんな子なの?」
「浅井も一度会ってるよ、カラオケボックスでバイトしてた女の子いたでしょ。あの子」
「マジかよ! あの可愛い子だよな!? 斉藤くんも成長したねえ。タクくん経由で声かけたりしたの?」
「……うん。まあ、そんな感じかな」
「斉藤でいいならタクくんのが好青年っぽいのにな、ハハハ。タクくんは元気?」
さりげなく、痛いところを突いてくる。
「タクは家が決まって出たんだよ、この間。ほんと、つい最近」
「あー、そうなんだ。でも彼のおかげでしょ、今こうやってダイエット始めたり、デートに漕ぎ着けたり出来たのって。感謝だなー、彼には」
その通りだ。
本当にその通りなんだよ、浅井。
「おはようございます! 昨日はすみませんでした、もう大丈夫です。新商品の件、やりましょう」
そんな感じでやる気はみなぎっていたのだが、俺たち商品開発部と営業部との打ち合わせは、何の収穫も無いままに終わってしまった。
俺の準備不足もあったかもしれないが、営業は営業で、新しいものなんて簡単に見つかるものじゃないという決め付けがあるようにも見えた。どうしたものかと途方に暮れていると、社長の幸田が商品開発部までやってきた。
「どうや? なんかいいの作れそうか?」
「さっき、営業さん含めて打ち合わせしたのですが、なかなか出てこないですね……私のアイデアもいくつか出してみましたが、既にやった事があるとか、他社さんで扱ってるけど結果出てないとか、そんなのばかりで」
「そうかそうか。まあ、焦らんと仕事の合間にやってくれたらええから。それと、藤田さんに怒られてんけど、斉藤くんの歓迎会やってあげてって。金曜の夜とか大丈夫か?」
藤田さんが席を外しているのを見計らってやってきたのだろうか、幸田は小声で言った。
「あ、ありがとうございます! いつでも大丈夫です、無理にでも開けますんで!」
「そうか、じゃ後は営業の山口にでも任せとくわ。都合悪い日が出来たら教えたって」
幸田はそう言うと、3階の社長室へと戻っていった。社長がやらないような雑用も好んでやる幸田に、俺は好感を抱いている。
退社して、真っ直ぐ浅井の美容室へ向かった。7時に予約を入れているので、ちょうど良いタイミングだろう。開店は11時と遅めだが、夜は10時まで営業している。個室スタイルで仕事帰りの人も利用できる、それが繁盛している理由だと浅井は言っていた。
「こんばんは、斉藤です」
美容室のドアを開けて声をかけると、浅井はギョッとした顔で俺を二度見した。
「また一段と痩せたな! 斉藤ってそんなストイックな奴だったけ? 頑張ってるなー」
浅井は「吉川にも見習わせないとな」と言いながら、カットしてくれる個室まで案内してくれた。
「どう? 幸田さんとこ。楽しくやってる?」
「うん、今の所、最高だね。どの部署の社員も仕事をさせられてるって感じじゃ無くて、もの凄く自発的に動いてる感じがする。社長は俺にも事細かに声かけてくれるし」
「それは良かった。お客さんの時の顔と、仕事するときの顔が違う人って結構いるんだよ。良い意味でも悪い意味でもね。幸田さんは良い意味で一緒みたいだわ。紹介出来て良かったよ」
こちらこそありがとう、と礼を言う。浅井には感謝しか無い。
「で、今日は? リクエストがあればの話だけど」
「タクの髪型って覚えてる? 従兄弟の。アレっぽく出来る?」
「おおお! 斉藤もとうとう、髪型に気を使うようになったか! うんうん、大体は覚えてる。今風な感じのね。一緒の感じにしちゃっていいの?」
「うーん、ちょっとだけ変えてくれたら。最終的にはもう一度仕上げて貰わないといけないけど」
「なんだよ、もう一度仕上げるって。なんかイベントでもあるのか? ん?」
髪を霧吹きで湿らせながら、ニヤニヤと鏡越しに俺を見てくる。
「いや、まあ……デートみたいなものかな……」
「おお! スゲーじゃん! 相手どんな子なの?」
「浅井も一度会ってるよ、カラオケボックスでバイトしてた女の子いたでしょ。あの子」
「マジかよ! あの可愛い子だよな!? 斉藤くんも成長したねえ。タクくん経由で声かけたりしたの?」
「……うん。まあ、そんな感じかな」
「斉藤でいいならタクくんのが好青年っぽいのにな、ハハハ。タクくんは元気?」
さりげなく、痛いところを突いてくる。
「タクは家が決まって出たんだよ、この間。ほんと、つい最近」
「あー、そうなんだ。でも彼のおかげでしょ、今こうやってダイエット始めたり、デートに漕ぎ着けたり出来たのって。感謝だなー、彼には」
その通りだ。
本当にその通りなんだよ、浅井。
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