ある日、もう一人の俺(イケメンだけど寿命は3年)がこの世に誕生した話

靣音:Monet

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24_タクの想い

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「おかえり、タク。——今までバイトお疲れ様でした」

「遅番のバイトだったから寝てると思ってたよ。ただいま」

「みんな良い人達だったね。俺も見てて泣きそうになったよ」

「もしかして、白石さんを追いかけたのも見てた?」

「あ、ああ……ごめん、そこも……」

「そっか。次に拓也と会うまで時間あるし、ちゃんと白石さんの事を好きだ、っていう気持ちは見せておいた方がいいのかなって思って。拓也より先に、手に触れちゃってごめんね」

 本当にそうだろうか。それでは、その後の涙の説明がつかない。

「本当は……タクも……タクも白石さんが好きなんじゃないの? タク、泣いてたよね……? もし、斉藤拓也が1人に戻ったら、タクが白石さんに会えるのは今日が最後だっただろ?」

 タクは黙っている。

「山内さんの事が好きだっていうのも嘘だったんじゃないか……?」

 タクは無言で首を横に振る。

「……ごめん、タクを追い詰めるつもりじゃないんだ。ただ、俺ばっかり好きなように生きて、タクはずっと俺を支えるだけって何か辛くって……俺からもタクに何かしてあげたくて……」

 思わず、涙が溢れそうになる。

「拓也が幸せなら……それが俺の幸せだよ。それは嘘じゃ無い。俺にインストールされた、本能のようなものなんだよ。……実を言うとね、俺も白石さんが好き……大好きだよ。……拓也のコピーなんだもん、当たり前だよね。でも安心して。俺が白石さんに好意を持たれるより、拓也の幸せの方が俺にとっては大事なんだ。これは本当。……明日も早いしさ、今日はもう寝よう」

 ここまで言ってくれたタクに、それ以上何も言うことは出来ず、促されるまま寝室にいった。この日はなかなか寝付くことが出来ず、深夜までタクが叩く、パソコンキーのカタカタという音だけが耳に残った。


 明朝もいつものように、タクはジョギング前のおにぎりとドリンクを用意してくれていた。

「おはようタク」

「おはよう! 今日は暑くなるらしいよ。これ新しいタオル。吸水性抜群なんだって」

 今日のタクは、いつもより元気で明るく見えた。俺に元気が無い時にはよくある事だ。俺も気持ちを入れ替えなくては。

「ありがとう。ほんとフワフワだなこのタオル。いつもの倍、汗かいても大丈夫だな」

「ハハ、本当だね。行ってらっしゃい。あんまりペース上げないようにね!」


 タクが言うように、早朝にも関わらず外はかなりの気温になっていた。いつものように、大吉川へ向けて走る。

 タクが家に来てから、RC-AVATARというワードで何度か検索した事がある。

 検索結果に、RC-AVATARに関連するものは何一つ無かった。それどころか、購入した中国のオンラインモール自体、まるごと消滅していたのだ。
 
 世の中に、俺とおなじRC-AVATARを持っている人間はどのくらいいるのだろうか? もし、持っている人がいるとして、その人達はどのように付き合っているのだろう。ゴーグルで操作するだけのロボットとして付き合っているのだろうか。それともAIを稼働させて、俺とタクのように付き合っているのだろうか。

 タクが家に来て、まだ100日程度。タクの寿命が1日、また1日と減っていく毎日に俺は耐えられるだろうか。
 

 それにしても、タクも白石さんが好きだったとは……

 微塵も気付いてあげられなかった俺は、なんてバカなんだ……

——————————
操作可能な便利ロボットだと思ったら拓也も楽になるんじゃない? 人間として見てしまうから、どうしても比べてしまう
——————————

 いつだったか、タクが言った言葉だ。本当にそうだ、ロボットだと割り切れたらどれだけ楽だろう。



 ジョギングを終え、ハイツに戻り玄関を開けた。

 何だろう……何かがいつもと違う。

「ただいま。——タク?」

 いつもはすぐ顔を見せるタクが、返事の一つも無い。

「タク? どこっ!?」

 タクがいつも履いていたスニーカーも無い。こんな時間にタクが外出する事は今まで無かった。スニーカーの紐もほどかず、無理矢理脱ぎ捨て、部屋へ入った。

 いつもはゴーグルを置いてある場所からゴーグルが消え、そこには、タクのスマホと一枚の手紙が置いてあった。
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