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19_急な知らせ
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時間は朝7時を回ったところ。ジョギングのために家を出た。
最初は4km程度のウォーキングだったが、今は川沿いの遊歩道もコースに入れ、7kmのジョギングに変えている。そろそろ梅雨が明けそうな6月末、本格的に暑くなっていきそうだ。
タクが家に来てから、俺の生活は随分と変わった。
2年続けたFX生活も辞め、アージェント株式会社の社員になって一月が経つ。続けているジョギングも成果を見せ始め、ダイエット前に比べて体重は7kg程減った。最近は痩せただけで無く、多少体も引き締まって見えるようになった。
白石さんとも時々会っている。会っていると言っても、アバターであるタクを介してだ。しかも、バイト上がりの時間が同じ日に店を出て少し話す程度。就職が決まったことを伝えたかったが、残念ながら今の状況では無理だった。
「一度、デートにでも誘ってみたら?」
そう、タクに言われたことがある。
それはタクの体を借りて会うのか、斉藤拓也本人として会うのか。どちらにしても、色々と複雑になりすぎて、ボロが出そうで怖い。そもそも、従兄弟としての「斉藤拓也」が誘ってみても答えはNOだろう。
そんな事を考えていると、ポケットの中のスマホが震えた。最近スマホを持ち始めたタクからかと思ったが、白石さんからだった。こんな早い時間にメッセージが入るのは初めての事だ。
——————————
早朝にすみません。昨日、店長に聞きました。バイト辞めちゃうんですか? 突然でビックリしました……
——————————
驚いたのは俺の方だ。大吉川を目前にUターンし、ハイツまで駆け戻った。
「タク! バイト辞めるってどういう事だよ!?」
「誰から聞いたの?」
「白石さんだよ。知らされて無くて、ショック受けてる感じだった」
「そうだね……彼女には先に言っておくべきだったね。ごめん」
「いや、俺にもだよ。どうして勝手に辞めるって決めたんだよ」
「もうそろそろ、『斉藤拓也』は1人にした方がいいんじゃないかな、って。このままじゃ、拓也と白石さんは上手くいかないと思う」
黙っているとタクは続けた。
「ここからは拓也に相談しようと思ってたんだけど、俺がバイトを辞めて、アージェント株式会社に入社したって事にすれば、『斉藤拓也』は世の中に1人って事になる。……時系列を多少誤魔化さないといけない事と、拓也にはもう少し体を絞って貰うことが前提だけどね」
「……タクはこれからどうするのさ」
「とりあえずバイトは無理を言って、あと2週間で辞めさせて貰う事になった。その後は、マイナンバー不要な日雇いとかあるなら、やってみようかなって。……まあ、無理して仕事しなくても、俺は水だけで暮らせるから。お邪魔じゃなければ、これからも居候させて」
タクは無理に笑顔を作ってそう言った。
アージェント株式会社の始業時間は9時30分。10分前には席に着き、パソコンのスリープを解除する。
「斉藤さん、おはよう。スポーツタオルの原稿入ってるよ、60名分」
「おはようございます、藤田さん。生徒さんの名前と背番号を入れる奴ですよね? こっちでサッサとやっちゃいます。校正含みで、午後にはデータ出しちゃいましょう」
商品開発部は、俺と藤田さんの2人。藤田さんは幸田社長の叔母さんにあたり、60歳にして現役のデザイナーだ。
「斉藤さんが来てくれて、本当に助かったわ。私ならその作業、一日掛かって終わってたかどうか。光良くんも、こんなおばさんに商品開発部なんて任せてたのがどうかしてるのよ」
光良くんとは幸田社長の事だ。社長がいるときには怒られるから言わないそうだが、俺といる時はいつもこう呼んでいる。
「いえいえ、私もデザインの基礎を教えて貰って本当に有り難いです。仕事しながらデザインも身につくんですから……これからも宜しくおねがいします」
藤田さんが第一線でデザインをしていた頃にDTPが登場し、デザイン環境が一気に変わってしまったそうだ。それまで手作業だったものが、あっという間にデジタル環境に移り変わり、パソコンが苦手だった藤田さんはディレクター業がメインになったらしい。
「今後は2人で組めば、どんどんウチからデザインを出していけるね」
藤田さんはそう言って笑った。
最初は4km程度のウォーキングだったが、今は川沿いの遊歩道もコースに入れ、7kmのジョギングに変えている。そろそろ梅雨が明けそうな6月末、本格的に暑くなっていきそうだ。
タクが家に来てから、俺の生活は随分と変わった。
2年続けたFX生活も辞め、アージェント株式会社の社員になって一月が経つ。続けているジョギングも成果を見せ始め、ダイエット前に比べて体重は7kg程減った。最近は痩せただけで無く、多少体も引き締まって見えるようになった。
白石さんとも時々会っている。会っていると言っても、アバターであるタクを介してだ。しかも、バイト上がりの時間が同じ日に店を出て少し話す程度。就職が決まったことを伝えたかったが、残念ながら今の状況では無理だった。
「一度、デートにでも誘ってみたら?」
そう、タクに言われたことがある。
それはタクの体を借りて会うのか、斉藤拓也本人として会うのか。どちらにしても、色々と複雑になりすぎて、ボロが出そうで怖い。そもそも、従兄弟としての「斉藤拓也」が誘ってみても答えはNOだろう。
そんな事を考えていると、ポケットの中のスマホが震えた。最近スマホを持ち始めたタクからかと思ったが、白石さんからだった。こんな早い時間にメッセージが入るのは初めての事だ。
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早朝にすみません。昨日、店長に聞きました。バイト辞めちゃうんですか? 突然でビックリしました……
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驚いたのは俺の方だ。大吉川を目前にUターンし、ハイツまで駆け戻った。
「タク! バイト辞めるってどういう事だよ!?」
「誰から聞いたの?」
「白石さんだよ。知らされて無くて、ショック受けてる感じだった」
「そうだね……彼女には先に言っておくべきだったね。ごめん」
「いや、俺にもだよ。どうして勝手に辞めるって決めたんだよ」
「もうそろそろ、『斉藤拓也』は1人にした方がいいんじゃないかな、って。このままじゃ、拓也と白石さんは上手くいかないと思う」
黙っているとタクは続けた。
「ここからは拓也に相談しようと思ってたんだけど、俺がバイトを辞めて、アージェント株式会社に入社したって事にすれば、『斉藤拓也』は世の中に1人って事になる。……時系列を多少誤魔化さないといけない事と、拓也にはもう少し体を絞って貰うことが前提だけどね」
「……タクはこれからどうするのさ」
「とりあえずバイトは無理を言って、あと2週間で辞めさせて貰う事になった。その後は、マイナンバー不要な日雇いとかあるなら、やってみようかなって。……まあ、無理して仕事しなくても、俺は水だけで暮らせるから。お邪魔じゃなければ、これからも居候させて」
タクは無理に笑顔を作ってそう言った。
アージェント株式会社の始業時間は9時30分。10分前には席に着き、パソコンのスリープを解除する。
「斉藤さん、おはよう。スポーツタオルの原稿入ってるよ、60名分」
「おはようございます、藤田さん。生徒さんの名前と背番号を入れる奴ですよね? こっちでサッサとやっちゃいます。校正含みで、午後にはデータ出しちゃいましょう」
商品開発部は、俺と藤田さんの2人。藤田さんは幸田社長の叔母さんにあたり、60歳にして現役のデザイナーだ。
「斉藤さんが来てくれて、本当に助かったわ。私ならその作業、一日掛かって終わってたかどうか。光良くんも、こんなおばさんに商品開発部なんて任せてたのがどうかしてるのよ」
光良くんとは幸田社長の事だ。社長がいるときには怒られるから言わないそうだが、俺といる時はいつもこう呼んでいる。
「いえいえ、私もデザインの基礎を教えて貰って本当に有り難いです。仕事しながらデザインも身につくんですから……これからも宜しくおねがいします」
藤田さんが第一線でデザインをしていた頃にDTPが登場し、デザイン環境が一気に変わってしまったそうだ。それまで手作業だったものが、あっという間にデジタル環境に移り変わり、パソコンが苦手だった藤田さんはディレクター業がメインになったらしい。
「今後は2人で組めば、どんどんウチからデザインを出していけるね」
藤田さんはそう言って笑った。
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