ある日、もう一人の俺(イケメンだけど寿命は3年)がこの世に誕生した話

靣音:Monet

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12_飲み会

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「お疲れさん……あれ? 斉藤、ちょっと痩せた?」

 今日は高校時代の友人たちとの飲み会だ。「飲み会の前に紹介したい仕事があるから」との事で、浅井と喫茶店で待ち合わせていた。結局、カットに行った翌日に、「就職先紹介の件、お願いします」とメッセージを入れたのだった。

「痩せたの気付いた!? 髪切った翌日だっけな、ウォーキング始めたんだ。プラス、晩酌もここんとこやめてる」

「マジかよ、気合い入ってんな。なんかいいじゃん。……じゃ、飲み会まで30分しか無いし、ちゃっちゃっと始めるか」

「浅井、ホントにありがとうな……感謝してる」

「やめろやめろ。こういうのは順番なんだから。次は俺が助けて貰う番かもしれないし。——で、早速なんだけど。仕事辞めてFXだけしてたのって評判良くないんだな。思ったより反応悪くてビックリしたわ」

「ああ、そうだろうな……恩に着るよ……」

「悪い悪い、そんなつもりじゃないから。で、声かけて貰ったのが……」

 それでも浅井は3件も用意してくれていた。その内の一つが俺に向いていそう、いや、やってみたいなと思える仕事があった。

「——この会社、詳しく話聞いてみたいな」

 テーブルに置いてあった資料を取り、浅井に見て貰った。

「あー、いいんじゃない。ここの社長、面白い人だよ。50歳くらいの関西人のオジさん。事業規模広げたいって言ってたし、会社自体も元気な感じがする。……で、このイラストレーターっていうアプリは使えるの?」

「前の会社じゃ毎日触ってたからね。サブスク解除しようかと悩んだこともあったけど、今のパソコンにも入ってる」

「マジかよ、バッチリじゃん。こんなサッと終わるなら最初から居酒屋でやりゃ良かったな。じゃ、このコーヒー飲んだらさっさと移動しよっか」

 ここは俺が払って、予約していた近所の居酒屋に移動した。



「そっかー斉藤、FXじゃ食っていけなかったか。そりゃ誰でも勝てるなら、俺だって仕事辞めてFXで食っていきてーわ。ハハハハ」

 吉川よしかわが大声で笑った。高校生の時からガタイは良かったが、先日とうとう体重が100kgを超えてしまったらしい。卒業後は二度転職し、今はリース会社の営業をしている。

「にしても、一番の勝ち組が美容師の浅井になるとはなあ。今だから言うけど、浅井は勉強出来るのに、なんで進学しないんだろう? って吉川と言ってたんだよ。後悔するんじゃないか? まで言ってたよな」

 そう言ったのは柳原やなぎはら。吉川とは違い、スラッとした痩せ型だ。ツーブロックの髪型が、いかにも広告代理店で働いてます感をアピールしている。

「あー言ってた、言ってた! でも結果は、浅井みたいに信念のある奴が強いって事なんだよな。偉いよ、高校生の時に自分のやりたかった事をちゃんと見つけてたんだから」

 今日は浅井、吉川、柳原、そして俺を含む、いつもの4人で集まっている。吉川と柳原は大学に進学、浅井は美容専門学校、俺はコンピューター専門学校を中退……そんなメンバーだ。
 
「それより、斉藤はまだ金あんのか? 金は貸せないけど、仕事の紹介とかなら聞いてみるぞ」

 吉川は何でもズケズケと言ってくるタイプだが、面倒見の良い優しい一面も持っている。

「ハハハ、ありがと。実はここに来る前に、浅井に仕事紹介して貰ったんだ。近々、話聞きに行ってくる」

「ホント、浅井は出来る男だな。ルックスも良いし、俺んとこ来てたらガンガン売り上げてたろうな」

 柳原が浅井を小突きながら言った。
 
「夜中まで働くとか、広告代理店なんか絶対無理だわ。……って言うか、今日は早く退社出来たんだな。いつもは遅れて来ること多いのに」

「先週末に大方片付けておいたよ。部下もだいぶ育ってきたから今日は早く上がらせて貰っ……ハア……悪い、ちょっと電話」

 柳原と飲んでる時は、必ず一度や二度、仕事の電話が掛かってくる。広告代理店で働き始めた当初は、その忙しさをどこか嬉しそうにアピールしたものだが、今は着信がある度に大きなため息をついている。

 やはり皆、年を取る度に自分のポジションを確立しているのをひしひしと感じる。

 俺も負けていられない。


「斉藤は彼女とかどうなの? そっちも全然?」

「き、決めつけんなよ。って言いたいところだけど、全然だね……こないだ、2対2で飲んだくらいかな」

「斉藤、コンパとか一緒に行く友達とかいたっけ? 誰?」

 悲しいかな、俺の交友関係が狭いのはみんな知っている。

「……えーとね。今、従兄弟と一緒に住んでるんだよ。市内で家探してるんだけど、良いところが見つからなくて。で、俺んとこに居候してる」

「あの、2Kか2DKだかのハイツに!? ちょっとした罰ゲームじゃん、それ」

「いや、そんな事無いよ。それなりに楽しく暮らしてるんだ、これが」

 電話から戻ってきていた柳原も含め、全く感情のない「へー」という言葉が、全員から返ってきた。
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