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09_歓迎会
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ダイエットを始めてから1週間が経った。
ランニングから始める予定だったが、今はウォーキングをしている。「まずはウォーキングからの方がいい」というタクの助言に沿ってだ。
そのタクの助言は正解だった。初日の短い距離にも関わらず、足の疲労が凄かったのだ。歩いただけでこれなのだから、初日から走っていたら音を上げていたかもしれない。日頃から座りっぱなしだった俺の体は、想像以上にくたびれていたようだ。
家から東に2kmほど行けば大吉川がある。この川が、現在のウォーキングの折り返し地点だ。この川の遊歩道も時間帯によっては多くのランナーが走っていると聞く。いつかは俺もそこに混じっていたりするのだろうか。
それはそうと、今日は隣の吉田さん家でタクの歓迎会だ。俺とタクがそろって人前に姿を見せるのはこれが初めてになる。実は、今から少しドキドキしている。
約束の19時まであと5分となった。
「そろそろ出ようか」
「そうだね。冷蔵庫からビールとおつまみ持ってくる」
タクは冷やしておいたビールを取りに行ってくれた。
普段は第三のビールばかり飲んでるが、差し入れだけは別だ。銀色に輝く500mlの奴を8本買ってきた。ウォーキングを始めてから晩酌もやめていたから、1週間ぶりのアルコールになる。酔い潰れないといいが。
「こんばんはー、斉藤です」
「どうぞどうぞ、待ってましたよー」
ドアを開けてくれたのは山内さんだった。奥からトントントントンと包丁で具材を切る音が聞こえる。吉田さんが何か用意してくれているところなのだろう。
中に入ると、吉田さんがちょうどテーブルに具材を置いているところだった。真ん中にはホットプレートが置いてある。どうやら、お好み焼きを作ってくれるようだ。
「用意がギリギリになっちゃってすみません! どうぞどうぞ掛けてください」
吉田さんはエプロンを外しながら、俺たちに席をすすめてくれた。
吉田さんが作ってくれたお好み焼きは絶品だった。お世辞なんかじゃ無く、店でも始めるなら通いたいくらいだった。吉田さん曰く、ホットプレートじゃなく鉄板で焼くと、もう一段美味しくなるらしい。
美味しいお好み焼きのせいもあってか、俺が持ってきたビールもあっという間に無くなった。俺もそこそこ飲む方だが、吉田さんと山内さんのペースもなかなかだった。皆で飲んで話し込むうち、4人ともいつしか友達口調になっていた。
「ミキちゃんのお好み焼きは最高だったでしょー。これ食べさせたかったのよー」
ミキちゃんとは吉田さんの事だ。普段からこういうキャラなのか、お酒のせいなのか、山内さんはとてもフランクだった。
「タクさんの分も、ちゃんと焼いて冷蔵庫で冷やしてるから。明日にでも食べてね」
吉田さんの頬もほんのり赤くなっている。タクは満面の笑顔でお礼を言っていた。食べられもしないのに健気な態度にジーンとくる。
「にしても、従兄弟ってそんな似るもの? 背も一緒くらいでしょ? ね、ミキちゃん、そっくりだよね」
「確かに。並んでみると更に似てるよね。あ! 右目尻のほくろの位置も同じじゃん!」
吉田さんと山内さんは、俺たちをジロジロと観察しはじめた。
俺からすると、俺とタクは別人にしか見えないのだが、他人からすると、それはどうやら違うようだ。兄弟や姉妹が、自分たちが似ているのを自覚していない事があるが、それと同じようなものなのかもしれない。
何があってもバレる事は無いとは思うが、非常に落ち着かなかった。作って貰ったばかりのハイボールをグッと流し込む。
「見た目もだけど、声! 全く一緒なんだもん! 斉藤さんたち、地味に良い声だし」
「そう言えばそうだ、声もそっくり。さすがミキちゃん声フェチ」
二人で「だよねー」と笑っている。
「そういやタクちゃん、カラオケボックスでバイトしてるんだよね!? 今から行こうよ、カラオケ!」
「いいね! いこいこ! 賛成!」
山内さんの提案に、吉田さんも間髪入れずに賛成した。二人の勢いに押されるように、俺たちも賛成してしまう。カラオケに行くなんて、いつ以来だろうか。
外は少しだけひんやりしていた。街灯の光の下、タクと山内さんは俺たちの前を歩いてる。
「あのー、気になってたんだけど、今日お子さんは?」
吉田さんの家にお邪魔した時から気になっていた事だ。部屋自体もお子さんがいるような家には見えなかった。
「ああ……あの子、実は姉の子なんです。私と一緒にいる事が多いから、そう思われちゃってるけど。……子供どころか、結婚さえした事無いけどね、私」
そう言って吉田さんは笑った。そう言えば、隣に住んでいるにも関わらず、子供の声が聞こえてくる事は殆ど無かった。今日の用意がギリギリになったのも、直前までその子と一緒にいたからだそうだ。
「で、そう言っちゃうとさ、「どうして、お姉さんの子供を預かってるの?」って話になっちゃうじゃない? その理由がちょっと複雑でね……あ、別に姉が子供を虐待してるとか、そんな酷い話じゃ無いのよ。——って、こんな流れになると余計気になってくるでしょ? アハハ、いつもこうなの」
なるほどね、と俺は相づちを打った。そういう理由で、姉の子供だとは自分からは言わないそうだ。
「ユミちゃん……あ、山内さんはね、他人に興味が無いの。さっきの姉の子の話でも『これは触れないでいておこう』じゃなくて、本当に関心が無いの。その辺が楽だから一緒にいるのかもしれないなーって」
そんな吉田さんの話を聞きながらも、俺の頭の半分は他の事を考えていた。
次の角を曲がれば、カラオケボックスが見えてくる。
今日は確か、白石さんもバイトに入っている日だ。
ランニングから始める予定だったが、今はウォーキングをしている。「まずはウォーキングからの方がいい」というタクの助言に沿ってだ。
そのタクの助言は正解だった。初日の短い距離にも関わらず、足の疲労が凄かったのだ。歩いただけでこれなのだから、初日から走っていたら音を上げていたかもしれない。日頃から座りっぱなしだった俺の体は、想像以上にくたびれていたようだ。
家から東に2kmほど行けば大吉川がある。この川が、現在のウォーキングの折り返し地点だ。この川の遊歩道も時間帯によっては多くのランナーが走っていると聞く。いつかは俺もそこに混じっていたりするのだろうか。
それはそうと、今日は隣の吉田さん家でタクの歓迎会だ。俺とタクがそろって人前に姿を見せるのはこれが初めてになる。実は、今から少しドキドキしている。
約束の19時まであと5分となった。
「そろそろ出ようか」
「そうだね。冷蔵庫からビールとおつまみ持ってくる」
タクは冷やしておいたビールを取りに行ってくれた。
普段は第三のビールばかり飲んでるが、差し入れだけは別だ。銀色に輝く500mlの奴を8本買ってきた。ウォーキングを始めてから晩酌もやめていたから、1週間ぶりのアルコールになる。酔い潰れないといいが。
「こんばんはー、斉藤です」
「どうぞどうぞ、待ってましたよー」
ドアを開けてくれたのは山内さんだった。奥からトントントントンと包丁で具材を切る音が聞こえる。吉田さんが何か用意してくれているところなのだろう。
中に入ると、吉田さんがちょうどテーブルに具材を置いているところだった。真ん中にはホットプレートが置いてある。どうやら、お好み焼きを作ってくれるようだ。
「用意がギリギリになっちゃってすみません! どうぞどうぞ掛けてください」
吉田さんはエプロンを外しながら、俺たちに席をすすめてくれた。
吉田さんが作ってくれたお好み焼きは絶品だった。お世辞なんかじゃ無く、店でも始めるなら通いたいくらいだった。吉田さん曰く、ホットプレートじゃなく鉄板で焼くと、もう一段美味しくなるらしい。
美味しいお好み焼きのせいもあってか、俺が持ってきたビールもあっという間に無くなった。俺もそこそこ飲む方だが、吉田さんと山内さんのペースもなかなかだった。皆で飲んで話し込むうち、4人ともいつしか友達口調になっていた。
「ミキちゃんのお好み焼きは最高だったでしょー。これ食べさせたかったのよー」
ミキちゃんとは吉田さんの事だ。普段からこういうキャラなのか、お酒のせいなのか、山内さんはとてもフランクだった。
「タクさんの分も、ちゃんと焼いて冷蔵庫で冷やしてるから。明日にでも食べてね」
吉田さんの頬もほんのり赤くなっている。タクは満面の笑顔でお礼を言っていた。食べられもしないのに健気な態度にジーンとくる。
「にしても、従兄弟ってそんな似るもの? 背も一緒くらいでしょ? ね、ミキちゃん、そっくりだよね」
「確かに。並んでみると更に似てるよね。あ! 右目尻のほくろの位置も同じじゃん!」
吉田さんと山内さんは、俺たちをジロジロと観察しはじめた。
俺からすると、俺とタクは別人にしか見えないのだが、他人からすると、それはどうやら違うようだ。兄弟や姉妹が、自分たちが似ているのを自覚していない事があるが、それと同じようなものなのかもしれない。
何があってもバレる事は無いとは思うが、非常に落ち着かなかった。作って貰ったばかりのハイボールをグッと流し込む。
「見た目もだけど、声! 全く一緒なんだもん! 斉藤さんたち、地味に良い声だし」
「そう言えばそうだ、声もそっくり。さすがミキちゃん声フェチ」
二人で「だよねー」と笑っている。
「そういやタクちゃん、カラオケボックスでバイトしてるんだよね!? 今から行こうよ、カラオケ!」
「いいね! いこいこ! 賛成!」
山内さんの提案に、吉田さんも間髪入れずに賛成した。二人の勢いに押されるように、俺たちも賛成してしまう。カラオケに行くなんて、いつ以来だろうか。
外は少しだけひんやりしていた。街灯の光の下、タクと山内さんは俺たちの前を歩いてる。
「あのー、気になってたんだけど、今日お子さんは?」
吉田さんの家にお邪魔した時から気になっていた事だ。部屋自体もお子さんがいるような家には見えなかった。
「ああ……あの子、実は姉の子なんです。私と一緒にいる事が多いから、そう思われちゃってるけど。……子供どころか、結婚さえした事無いけどね、私」
そう言って吉田さんは笑った。そう言えば、隣に住んでいるにも関わらず、子供の声が聞こえてくる事は殆ど無かった。今日の用意がギリギリになったのも、直前までその子と一緒にいたからだそうだ。
「で、そう言っちゃうとさ、「どうして、お姉さんの子供を預かってるの?」って話になっちゃうじゃない? その理由がちょっと複雑でね……あ、別に姉が子供を虐待してるとか、そんな酷い話じゃ無いのよ。——って、こんな流れになると余計気になってくるでしょ? アハハ、いつもこうなの」
なるほどね、と俺は相づちを打った。そういう理由で、姉の子供だとは自分からは言わないそうだ。
「ユミちゃん……あ、山内さんはね、他人に興味が無いの。さっきの姉の子の話でも『これは触れないでいておこう』じゃなくて、本当に関心が無いの。その辺が楽だから一緒にいるのかもしれないなーって」
そんな吉田さんの話を聞きながらも、俺の頭の半分は他の事を考えていた。
次の角を曲がれば、カラオケボックスが見えてくる。
今日は確か、白石さんもバイトに入っている日だ。
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