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LV-45:ベテルデウスの部屋

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 デビラがいなくなった部屋の奥に、長く立派な廊下が出現していた。

 きっとこの先に、ベテルデウスの部屋があるのだろう。窓からは燦々さんさんと日光が降り注ぎ、部屋へと向かう俺たちの靴音だけが廊下に響く。突き当たりにある扉は今までで一番大きく、きらびびやかでありながら、重厚なつくりをしていた。

「なんかさ……この綺麗な廊下が逆に怖さを感じさせない?」

 サーシャが周りを見渡しながら言う。

「ハハハ、ホントに。天国から地獄に突き落とされるように感じちゃうね」

「インディ、縁起でも無いこと言うな。——にしても、とうとう会えるんだな。アタシたちが探し求めていた敵に。入る前に言っておくことは無いか……?」

「ええ……今まで通り全力で戦うだけです。後は、命の石の使い方。打合せしていた通りで大丈夫ですね?」

「ああ、大丈夫じゃ……完璧な作戦じゃと思う」

「とうとうだね……私はエクラウスさんと回復が被らないように気をつけなきゃ」

「俺は……皆と、この場所にいることに感謝してるよ」

「ハハ、そういうセリフはまだ早いんじゃないか。——それじゃやるか! アタシたちのラストバトル!!」

 ティシリィは大きな扉を両手で押し開けた。



 扉の先はとても大きな部屋だった。今まで入った中でも、最大ではないだろうか。また、この部屋には窓があり、眩しい光りが差し込んでいた。

「なんじゃろう……モンスターの部屋にしては神々しい感じまでするのう。流石ラスボスじゃ……」

「……正面の椅子……あれじゃない? ベテルデウスは」

 サーシャが言うと、背を向けていたその椅子はゆっくりと回転してこちらを向いた。座っていたのは、俺たちと同じ背丈くらいのモンスターだ。

「な、なんだ小せえな……いいのか、最後のモンスターがこんなので……」

 そのモンスターは椅子から立ち上がると、こちらへ歩み寄ってきた。細かい宝石をちりばめた法衣のようなものを着ており、右手には黒塗りの杖を持っている。

「とうとう、ここまで来たか……私がベテルデウスだ。……よくも、私の仲間を沢山殺してくれたな。ここできっちり、お返ししようと思う。
——それにしても、人間どもはどうして私たちの邪魔ばかりする? この島の歴史は学んでいないのか?」

「た、……確かに、ガルーラ王はお前たちに悪いことをした……だが、今のお前たちが、クロトワ族まで攻める理由にはならない!」

 ティシリィが言うと、ベテルデウスはフッと鼻で笑った。

「滅ぼされた父たちは甘すぎたのだ。自分たちの場所を守ることしか考えていなかった。——だが、私は違う。この島全てを手に入れたら、次は他の国にも攻め入るつもりだ」

「な、なんですって!! この島では飽き足らず、他の国もだなんて!!」

「ん……? 最初に攻めてきたのは、お前たち人間の方だろう。次は私たちの番。それだけの事だ。……違うか?」

「で、でもそれじゃ、同じ事の繰り返しじゃないか!!」

「何を言ってる……そのセリフは、そのままそっくり返してやる。——話にならん、まずはお前たちから処分してやる!!」

 そう言うと、ベテルデウスは目の前でグングンと巨大化した。俺たちの倍、いや……それ以上だろうか、俺たちはベテルデウスを見上げる形になった。それと同時に光りは閉ざされ、暗黒の部屋へと様変わりした。

「そ、そうこなくっちゃ……みんな、即死だけには気をつけろよ……」

 ティシリィは言ったが、剣を持ったまま動かなかった。作戦通り、サーシャがアンプラッシュを掛けるのを待っているのだろうか。いや、動けなかっただけなのかもしれない。



「初手は俺だっ!! エクサブリザード!!」

 ベテルデウスに向けた希望の剣が、凄まじい冷気を放つ。周りの空気を凍らせて一直線に伸びる氷のやいばは芸術的でもあった。

 パシーン……

 だが、その氷の刃は、ベテルデウスの法衣に粉砕された。俺たちの前に、粉雪のようなものが舞う。

「ま、また、何も効かないって奴か!! ワンパターンな奴らめ!!」

 そう言いながらも、ティシリィはベテルデウスに飛びかかっていく。剣は大きな音を立てて、ベテルデウスの法衣を捉えたが、ダメージは全く通っていない。

「こっ、こんなの、アンプラッシュ効果も何も無いじゃない! どうすればいいのよ!!」

「落ち着け、サーシャ! きっと何かある、みんなでその何かを考えるんじゃ!!」

 そんな俺たちを見て、ベテルデウスは笑みを浮かべていた。そして、その顔から笑みが消えると、右手の杖をこちらに向けた。

ちろ、愚かな人間ども!!」

 そのセリフの直後、俺たちの頭上に激しいいかづちが落ちた。

「きゃあああっっ!!」

「大丈夫か、サーシャ!!」

 俺たちは何とか耐えたが、サーシャだけは床に片膝を付いていた。

「へ、平気!! ここは私が回復する!!」

 よろめきながらもサーシャは全員を回復させた。

「こうなると、属性も何もあったもんじゃ無さそうじゃの。——き、効かぬじゃろうが、ブレスリカバリー!!」

 エクラウスさんは回復系の魔法を放ったが、ベテルデウスには何の効果も無かった。

「ハハハ、苦しむがいい……そしてお前たちも、一度は滅ぼされた者の気持ちを知るがよい!」

 ベテルデウスの杖は、幾多もの隕石を呼び寄せた。俺たちは連続して大きなダメージを受ける。

「ここはワシが回復する! な、何か方法は無いのか!!」



 合間を見てティシリィは斬りかかり、俺も様々な魔法を試してみたが、ベテルデウスには全くダメージを与える事が出来なかった。対するベテルデウスは、俺たちの息の根を止めるがごとく、連続して全体攻撃を放ってきた。サーシャとエクラウスさんはもちろん、ナイリも回復役にならざるを得なかった。

「頑張っているところ悪いが、お前たちに勝ち目は無い。どうして私の父が前回の戦いで敗れたか、お前たちは分かっていないようだ」

「そっ、それは、どういう意味ですか……!?」

「父は、パウロ・アルジャンテという男に倒された。ただ、それだけの話だ。そいつは我らの法衣を砕いた上、結界の石まで作り出した。他の国を攻める理由の一つは、そいつの子孫を根絶やしにする事だ。他の者では、この法衣に傷ひとつ付ける事は出来ん」

「そ、そうですか……あなたにとって、アルジャンテの子孫がいるという事は、とても不都合な事なのですね……」

 その時、暗い部屋を何かの光りがともしだした。

 光りの根源はナイリだった。力強く握ったブレイブソードが、緑色の光りを発している。

「な、なんだ、その光りは……!?」

 一歩後ずさったベテルデウスに、ナイリは雄叫びを上げて飛びかかった。ナイリのブレイブソードは戦士のように緑色の軌跡を描き、ベテルデウスの法衣を斬り付ける。

 カシャーン……

 ガラスが割れたような音が、部屋中に響き渡った。ベテルデウスの法衣から数多あまたの宝石がバラバラと落ちていく。その法衣は、色をなくした漆黒の法衣となった。

「だっ、誰なんだ、お前は……!?」

「……私の名前は、ナイリ……ナイリ・アルジャンテ!!」

 俺たちの視線は、緑色の光りに包まれたナイリに釘付けになった。
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