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LV-31:クロトワ集落
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「誰じゃ、誰か来ておるのか?」
村の奥から、背の小さな老婆が歩み寄ってきた。
「よそ者です、ウーラ! この村には入るなと言い聞かせました。もう大丈夫です」
ウーラと呼ばれた老婆は、俺たちをじっと見ている。そして、ナイリに目を止めると言った。
「話くらいは聞こうかの。こっちへおいで」
「ウーラ! いけません! こいつらは、あの歴史を繰り返す者です!」
背の高い男性はウーラを止めようとしたが、ウーラはこちらを向き「おいでおいで」と手招きした。
「すまなかったな、村の若い者が。ここはクロトワという集落じゃ。まあ……我らがクロトワ族故、付けられた名前だがの。——ところで、ここには何の用じゃ?」
集落の奥にあった、ウーラの家であろう建物に入っていた。木で組まれた天井は高く、床には不思議な模様の絨毯が敷いてあった。
「ウーラさん、ナイリと申します。お家にまでお招き頂き、ありがとうございます。——こちらを訪れた理由ですが、私たちは今、ベテルデウスを退治する旅にでております。こちらで何か、ヒントになるような事があればと思い、お伺いさせていただきました」
ナイリのその言葉に、ウーラは渋面を作った。
「そうか……また魔物と戦うんじゃな。これでは歴史の繰り返しじゃ……」
「ど、どういう事ですか、ウーラさん……?」
ウーラは「ふう……」とため息をつくと、ゆっくりと話し始めた。
「……もともと、この島では魔物とクロトワ族は共存していたのじゃ。言葉は通じぬが、お互いがお互いの領域を侵さぬという、自然に生まれたルールの下でな。……そこへ、ガルーラ王の先祖がやってきた。この島を自分たちのものにするためじゃ。奴らはまず、我らクロトワ族を支配した。我らを使って城を作り始め、我らを従えて魔物退治を始めたのじゃ」
俺たちは息を呑んだ。
「だが、我々ごときを従えたところで魔物に敵うわけがない。そのまま魔物に支配されて、この島も終わるだろうと思われた。ところが、当時のガルーラ王は本国から応援を呼んだのじゃ。それは凄い数じゃった。戦士に、魔法使い、僧侶に、賢者……そしてとうとう、魔物たちを絶滅に追いやってしまった。我らの先祖は、さぞ胸を痛めたことじゃろう。その後、島全域に居たクロトワ族の多くは殺され、生き延びた者は北に逃げてきたのじゃ。……そして、その生き残りの子孫が我らじゃ」
ナイリの膝の上においた二つの拳が震えている。そして、その震えた拳の上に涙が落ちた。
「そっ、そんな事が……何て酷い話なのでしょう……先ほどの男性が、あのような態度を取られるのも仕方ありません……」
サーシャは、持っていたハンカチをナイリに渡した。
「……クロトワ集落には結界の石が無いように見えましたが、今でもクロトワ族とモンスターは共存しているのでしょうか」
ここを訪れた時から、疑問に思っていた事を俺は聞いた。この村の門には結界の石が無かったのだ。
「魔物の本能なのか、それとも魔物の長がクロトワは襲うな、とでも言っているのじゃろうか……今の所、この集落が襲われた事は無い。……だが、集落の外ではクロトワ族でも襲われる者が増えたと聞く。この集落がいつまで持つのかは、我らにも分からん」
「ウーラさん……また、昔の話に戻りますが、パウロ・アルジャンテという者はクロトワには来なかったのですか?」
今日のナイリは、いつにもまして真剣だった。
「パウロ・アルジャンテ……ああ、記録に残っておる。本国から応援を呼んだ際の、賢者の一人じゃな。彼はクロトワにも結界を設置するため、最後の最後にこの集落を訪れたようじゃ。それはクロトワを後回しにしたのではなく、彼は我らの存在を知らなかったと書かれておる。そもそも、周りの者からはクロトワへは行かなくともよい、と言われていたらしいの……」
ウーラは歴史書のようなものをパラパラとめくりながら話を続けた。
「それでも結界を設置しようとする彼に、我らには結界が不要な事を伝えたそうじゃ。我らが魔物と共存していた事、我らが魔物退治に駆り出されたこと、そして命を奪われ、生き残っているのが我らだという史実を添えてな。——そんな風に歴史書には記されておる」
「そ、それで、パウロは……?」
「我らの悲劇に声を上げて泣き、ガルーラ王を激しく非難したと記されておる。それ故、ガルーラ王に雇われる予定だったのを断り、モルドーリアの港から自分の国に帰ったそうじゃ。——記録されているのはここまでじゃな」
「それを聞いて安心しました。パウロ・アルジャンテは、最後まで勇者だったのですね……」
「だけど、どうしたらいいんだアタシたち……ベテルデウスを倒すことは、本当に良いことなのか? どう思う? 婆さん!?」
ウーラは下を向いて、何かを考え込んでいるようだった。
「さあのう……我らにも分からん。だが、このままだとガルーラ王国は滅びるじゃろう。近くのガルミウム鉱山が稼働していないように、あちらこちらで支障が出ておる。……ガルーラ王国が滅びた後、我らクロトワ族が生かされるのか、はたまた同じように滅ぼされるのかは分からん。神のみぞ知るじゃ……」
「……ありがとうございました、ウーラさん。……私たちも一度、ゆっくりと考えてみたいと思います」
ナイリが言うと、ウーラは優しい笑みをたたえ、コクコクと頷いてくれた。
村の奥から、背の小さな老婆が歩み寄ってきた。
「よそ者です、ウーラ! この村には入るなと言い聞かせました。もう大丈夫です」
ウーラと呼ばれた老婆は、俺たちをじっと見ている。そして、ナイリに目を止めると言った。
「話くらいは聞こうかの。こっちへおいで」
「ウーラ! いけません! こいつらは、あの歴史を繰り返す者です!」
背の高い男性はウーラを止めようとしたが、ウーラはこちらを向き「おいでおいで」と手招きした。
「すまなかったな、村の若い者が。ここはクロトワという集落じゃ。まあ……我らがクロトワ族故、付けられた名前だがの。——ところで、ここには何の用じゃ?」
集落の奥にあった、ウーラの家であろう建物に入っていた。木で組まれた天井は高く、床には不思議な模様の絨毯が敷いてあった。
「ウーラさん、ナイリと申します。お家にまでお招き頂き、ありがとうございます。——こちらを訪れた理由ですが、私たちは今、ベテルデウスを退治する旅にでております。こちらで何か、ヒントになるような事があればと思い、お伺いさせていただきました」
ナイリのその言葉に、ウーラは渋面を作った。
「そうか……また魔物と戦うんじゃな。これでは歴史の繰り返しじゃ……」
「ど、どういう事ですか、ウーラさん……?」
ウーラは「ふう……」とため息をつくと、ゆっくりと話し始めた。
「……もともと、この島では魔物とクロトワ族は共存していたのじゃ。言葉は通じぬが、お互いがお互いの領域を侵さぬという、自然に生まれたルールの下でな。……そこへ、ガルーラ王の先祖がやってきた。この島を自分たちのものにするためじゃ。奴らはまず、我らクロトワ族を支配した。我らを使って城を作り始め、我らを従えて魔物退治を始めたのじゃ」
俺たちは息を呑んだ。
「だが、我々ごときを従えたところで魔物に敵うわけがない。そのまま魔物に支配されて、この島も終わるだろうと思われた。ところが、当時のガルーラ王は本国から応援を呼んだのじゃ。それは凄い数じゃった。戦士に、魔法使い、僧侶に、賢者……そしてとうとう、魔物たちを絶滅に追いやってしまった。我らの先祖は、さぞ胸を痛めたことじゃろう。その後、島全域に居たクロトワ族の多くは殺され、生き延びた者は北に逃げてきたのじゃ。……そして、その生き残りの子孫が我らじゃ」
ナイリの膝の上においた二つの拳が震えている。そして、その震えた拳の上に涙が落ちた。
「そっ、そんな事が……何て酷い話なのでしょう……先ほどの男性が、あのような態度を取られるのも仕方ありません……」
サーシャは、持っていたハンカチをナイリに渡した。
「……クロトワ集落には結界の石が無いように見えましたが、今でもクロトワ族とモンスターは共存しているのでしょうか」
ここを訪れた時から、疑問に思っていた事を俺は聞いた。この村の門には結界の石が無かったのだ。
「魔物の本能なのか、それとも魔物の長がクロトワは襲うな、とでも言っているのじゃろうか……今の所、この集落が襲われた事は無い。……だが、集落の外ではクロトワ族でも襲われる者が増えたと聞く。この集落がいつまで持つのかは、我らにも分からん」
「ウーラさん……また、昔の話に戻りますが、パウロ・アルジャンテという者はクロトワには来なかったのですか?」
今日のナイリは、いつにもまして真剣だった。
「パウロ・アルジャンテ……ああ、記録に残っておる。本国から応援を呼んだ際の、賢者の一人じゃな。彼はクロトワにも結界を設置するため、最後の最後にこの集落を訪れたようじゃ。それはクロトワを後回しにしたのではなく、彼は我らの存在を知らなかったと書かれておる。そもそも、周りの者からはクロトワへは行かなくともよい、と言われていたらしいの……」
ウーラは歴史書のようなものをパラパラとめくりながら話を続けた。
「それでも結界を設置しようとする彼に、我らには結界が不要な事を伝えたそうじゃ。我らが魔物と共存していた事、我らが魔物退治に駆り出されたこと、そして命を奪われ、生き残っているのが我らだという史実を添えてな。——そんな風に歴史書には記されておる」
「そ、それで、パウロは……?」
「我らの悲劇に声を上げて泣き、ガルーラ王を激しく非難したと記されておる。それ故、ガルーラ王に雇われる予定だったのを断り、モルドーリアの港から自分の国に帰ったそうじゃ。——記録されているのはここまでじゃな」
「それを聞いて安心しました。パウロ・アルジャンテは、最後まで勇者だったのですね……」
「だけど、どうしたらいいんだアタシたち……ベテルデウスを倒すことは、本当に良いことなのか? どう思う? 婆さん!?」
ウーラは下を向いて、何かを考え込んでいるようだった。
「さあのう……我らにも分からん。だが、このままだとガルーラ王国は滅びるじゃろう。近くのガルミウム鉱山が稼働していないように、あちらこちらで支障が出ておる。……ガルーラ王国が滅びた後、我らクロトワ族が生かされるのか、はたまた同じように滅ぼされるのかは分からん。神のみぞ知るじゃ……」
「……ありがとうございました、ウーラさん。……私たちも一度、ゆっくりと考えてみたいと思います」
ナイリが言うと、ウーラは優しい笑みをたたえ、コクコクと頷いてくれた。
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