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LV-19:ビトルノの村

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「あれじゃないか、ビトルノの村は? やっぱり滅びた村だったんだ……」

 先頭を行くティシリィが、北西の方角を指さして言った。塀は所々にしか残っておらず、どの村の門にも付いている結界の石がビトルノには無かった。

「酷いですね……結界の石が無いって事は、攻め込まれても仕方ありません。だけど、なぜ石が無くなっているのでしょうか……」

「結界を破壊出来るモンスターがいるんじゃない? だから城も落とされた。その方が自然じゃ無くて?」

「いえ、サーシャ。そうであれば、他の村もどんどん浸食されていると思います。結界が無かったテセラの塔に住み着く前に、カタルリーアもビトルノ同様、攻め込まれていないと、おかしいかと」

「まあまあ。とりあえず中に入ってみようぜ。モンスター出てくると思うから、気を抜くなよ、みんな」

 ティシリィを先頭に、俺たちはビトルノの村へ入った。

 ビトルノの村では、ゾンビ系のモンスターが多く出現した。ゾンビ系のモンスターには、回復系魔法が面白いほどダメージを与えた。いつもはティシリィが攻撃の要になっていたが、この村ではサーシャとナイリの活躍が目立った。

「何でしょう、この充実感……攻撃も回復も自由自在に私が操れるなんて。全能感さえ、覚えますわ……」

「……ねえねえ、ナイリって普段から、こんな感じなの?」

 小声で聞くサーシャに、ティシリィは「時々な」と答えていた。

 俺たちは、村の建物をくまなく見て回った。レストランに防具屋、武器屋。カタルリーアだけにあった教会の跡もあった。

「どこの村にも教会があったって本当だったんだ。どうして、ルッカやガッテラーレの教会は消えてしまったんだろう……」

 俺はどうして教会が潰されたのか、ずっと気になっていた。 

「それは神父様に聞いてみないと分からない事ですね……ティシリィはどう思います?」

「んー……ナイリの言うとおり、アスドレクって奴を倒して聞き出すしかないな。……それよりさ、武器屋とか防具屋にアイテム落ちてると思ってたのに、落ちてないな。アタシ、結構期待してたんだけど」

「モンスターが持ってた剣は、ここで拾ったものかもね。ドロップでもしてくれたら嬉しいのに」

 サーシャが言う通りかもしれない。この村のモンスターは、剣や盾を持っている者が多かった。そんな会話を交わしながら、ビトルノ最後の建物である宿屋の前まで来た。この村で一番大きな建物だ。

「うっ……」

 先頭でドアを開けたティシリィが足を止めた。

 ティシリィの視線の先には、白骨化した死体の山があった。

「村の一番奥にあるこの建物に、みんな逃げてきたのでしょうね……なんてむごい……」

「あなたたち、よく直視出来るわね、あんなの……何も無さそうだったら早く出ましょ、こんな村……」

「いや、ちょっと待ってサーシャ……一応、各部屋も回ろう。ビトルノに何も無いってのも変だし」

 そう言って俺が宿屋に足を踏み入れると、サーシャもいやいやながら付いてきた。

 その時だった。

 バーーーン!!

「テセラの塔と同じパターンか! 今度はどこからだ!」

 最後尾のサーシャが宿屋に足を踏み入れた瞬間、ドアが勝手に閉まった。ティシリィは剣を抜いて、辺りをせわしなく見回す。

「まっ、前っ!!」

 ナイリが指さしたのは死体の山だった。カタカタと白骨化した死体が動き出し、死体同士が自ずから重なり合っていった。デスアグリゲイトというモンスターか……

「なんだこれ……合体するのか……悪趣味な。——サーシャ!! 今のウチに魔法ぶっぱなせ!!」

「わ、わかった! ブレスリカバリー!!」

 ナイリのハイリカバリーを上回る、回復魔法をサーシャは唱えた。弱い魔法で様子を見る必要なんて無いと考えたのだろう。

パシィーーー!!

 甲高い音を立てて、ブレスリカバリーはデスアグリゲイトに直撃した。一つになりかけた塊の一部が消滅し、HPも大きく減らしている。

 その破損した部分を狙って、ティシリィは剣を振り下ろしていた。相変わらず行動が早い。これも大ダメージを与えた。

 立て続けに、ナイリのハイリカバリーに、俺のラピオードも炸裂し、そのモンスターが立ち上がったときには、身体の大部分が不完全な状態となっていた。

「よしっ、畳みかけるぞ!!」

 そう言ってティシリィはいつものように、モンスターに飛びかかっていた。

 デスアグリゲイトは、身構えるでも攻撃の構えを見せるでもなく、ティシリィに対して、残っていた右手の指先を向けた。

「ティ、ティシリィ!! 避けろ!」

 俺が叫ぶと同時に、ティシリィは「ああっ!!」と声を上げ、その場で膝をついた。次の瞬間、俺たちの端末にティシリィが死んだという通知が入った。物理的な攻撃魔法ではなく、即死系の魔法なのだろうか。デスアグリゲイトの指先が白く光った直後のことだった。

「ティシリィ!!」

 ナイリは魔法を唱えることなく、ティシリィの元へ駆け寄った。

「サーシャ、魔法!!」

 放心状態になっていたサーシャに声を掛けると同時に、俺もラピオードを放った。俺のラピオード、そしてサーシャのブレスリカバリーで、デスアグリゲイトは消滅した。

 俺もティシリィの元に駆け寄ると、ティシリィはまだ床に膝をついたままだった。

「くそっ、とうとう死んでしまったか……あんなの避けられるかっての。——って言うか、アタシが最初の教会利用者になるとはな……」

 ティシリィはそう言うと、やっとの事で腰を上げた。身体へのダメージというより、死んでしまった事がショックなのだろう。

「——ん? 端末に着信来てる。アイテムドロップしたみたいだぞ、さっきのデスアグリゲイトっていうモンスターからだ。今回のドロップは宝箱に入っているようだ」

 デスアグリゲイトが消滅した辺りを探してみると、宝箱が出現していた。中を開けると、全てがドス黒く濁った『怨霊の剣』というものが出てきた。

「なんだこれ、完全に呪われてやがる。インディ持っててくれ。間違っても装備すんなよ」

 ティシリィに言われた俺は、キラーソードとは反対側の鞘に、怨霊の剣を差した。装備設定をしない以上、呪われる事は無いだろう。


 その後、俺たちは宿屋の部屋もくまなく見て回った。ティシリィは戦闘に参加出来ないが、この村に限って言えばサーシャとナイリの方が戦力になる。デスアグリゲイトを倒した後のビトルノの村は、モンスターの出現率が明らかに下がった事もあり、安心して徘徊することが出来た。

 結局、何も見つからないかと思ったが、宿の二階、一番奥の部屋でヒントらしきものが見つかった。

「お、おい、また死体じゃないか……」

「もうっ! 本当に趣味が悪い、この村作った人!」

 サーシャが言うように、良くも悪くもリアルすぎる白骨化死体だった。その死体は、テーブルに突っ伏したまま亡くなったようだ。

「手元に日記がありますね……読んでみましょう」

 死体に近づきたくないサーシャの為に、ナイリが日記の内容を読み上げてくれた。

「——5月9日 バルナバ城とエドアルド城を、魔物が攻めているという噂は本当らしい。両城の城主は果敢に戦っていると聞く。ここ、ビトルノにもいつか魔物が来るのだろうか。村を出ると余計に危険だろう。しばらく様子を見ることにする——」

「アタシたちが行ったのは、ランベルト城だよな? あと二つ城があるのか……一つは近くにある、アスドレクが居る城なのか?」

「さあ、どうでしょうか……続けますね。
——5月11日 バルナバ城が落ちたとの噂。近くのエドアルド城はまだ持ちこたえているようだ。村の近くにもモンスターが現れるようになった。もっと早く村を出るべきだったのかもしれない——
どうやら、アスドレクがいる城は、エドアルド城で正解のようですね。もしかしたら、バルナバ城って言うのが、ベテルデウスの住処になっているのかもしれません」

「この島には、少なくとも3つの城があるって事だな。魔物に落とされたバルナバ城、アスドレクが住んでいると思われるエドアルド城、そしてアタシたちが訪れたランベルト城。——ナイリ、続きはどうだ?」

「ええ……
——5月12日 エドアルド城の城兵がビトルノの村に押し寄せている。どうやら、エドアルド城も落城は免れないようだ。だが、エドアルドの城主は城に残り、魔物と果敢に戦っているらしい。素晴らしい王が居る国に生まれた私は幸せだ。何かあったときには、私の命も捧げようと思う——
……日記はここで終わっています」

「早ければ、5月12日、もしくはそれ以降にビトルノは襲われたって事ね。……やっぱり、結界を破壊出来るモンスターがいたんじゃないの? カタルリーアに向かう途中に、そのモンスターは死んじゃったとか……」

 サーシャは最初の意見通り、結界を破壊出来るモンスターがいたのでは? と考えているようだ。

「その方が自然なのかもしれませんね……そのモンスターは塩水に弱いとかそんな単純な理由だったり……」

「まあ、考えるのは後にしよう。これでビトルノは全て見ることが出来たから、続きはカタルリーアのレストランでやろう」

 ティシリィのその一言で、俺たちはその部屋を出た。ナイリは部屋を出る前、テーブルに突っ伏した死体に手を合わせていた。



「結局手に入ったのは、ドロップした怨霊の剣ってのと、宿屋で見つけたアクセサリーだけか。アクセサリーも、ここで装着するのはやめよう。こんなの呪われるに決まってる」

 ティシリィは笑って言ったが、あまり元気が無かった。死んでしまった事を今も悔やんでいるようだ。

「カタルリーアまでの帰りは気をつけないとね。ナイリ、私たち忙しくなるよ!」

「いつもティシリィに助けられていますからね。私たちだけでも無事に辿り着きますよ! ね、インディ!」

「ああ、もちろん!」

 俺たちはティシリィの戦力抜きで、カタルリーアへの帰路についた。
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