古代の生け贄少女を救って、一緒に魔物討伐に出る物語!

靣音:Monet

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別れ

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「んんっ……」

 寝返りの痛みで目が覚めた。身体はまだ、完全には治りきっていないようだ。

 リストバンドを見る、午前2時。宴が終わったのは10時くらいだっただろうか? 3時間は寝ていたようだ。

「——起きていたのか? ユヅル」

「いや、いま目が覚めた……ゲンは起きていたの?」

「同じく、俺も目を覚ましたところだ」

 俺たちはどのタイミングで元の世界に戻るのか、今の所なにも決めていない。

 いつかは帰らないといけない。しかし、ずっとこの世界にいる訳にもいかない。俺たちはその日を決めることを、先延ばしにしていたように思う。

「ゲン……」

「何だ?」

「今から……今から、帰ろうか」

 俺が言うと、ゲンは「フッ」と笑った。

「何でだろうな、ユヅルがそう言うような気がしてたんだ」

 俺たちはラーク村の人たちが目を覚ます前に、この村を出ることにした。


 音を立てず、玄関を閉める。

 空には満点の星空が広がっていた。こんな景色を見ることは、もう二度と無いだろう。ゲンも夜空を見ている。きっと、俺と同じで名残惜しいのだと思う。

「ゲン、どうして今日は夜中に雨を降らせてないの?」

「ハハハ、さっきも言っただろ。ユヅルが今日帰るって言い出すと思ったからだ」



 月明かりを頼りに歩いていると、人影が見えた。

「ク、クイナ……!?」

「……行っちゃうんだな。……アタシ、何でかこんな勘だけはよくて」

 ゲンは無言で村の入り口を指さした。『先に村の入り口で待っている』そういう事だろう。


「ごめん、黙って出て行く事になって……」

 俺が言うと、クイナは無言でゆっくりと首を横に振った。

「——なんとなく、そんな気はしてた。アタシはいくらでもユヅルとゲンを受け入れるつもりはあるのに、ユヅルたちからは何となく距離を感じてた。不思議だけど、二人はこの世界の人間じゃないような、そんな気がしてさ……って、ハハハ、何言ってるんだろうなアタシ」

 いや、クイナの言っている事は間違ってない。確かに俺たちはこの世界の人間じゃない。

「——本当は、クイナやアトリに言いたい事が沢山ある。でも……それを口にしちゃうと、この島から出て行けなさそうで……」

 そう言うと、クイナは正面から抱きついてきた。

「——じゃあ、行くなよ。バカ野郎……」

 クイナの肩が震えている……気付けば、俺はクイナの肩に腕を回していた。

 細くて小さなクイナの肩……

 こんな身体で、自分より大きな魔物たちと戦ってきたのか……そんなクイナが愛おしくて堪らなかった。その小さな肩を、クイナは震わせて泣いている。

「会えて、本当に良かった……命を救われたって理由だけじゃ無いぞ。本当に……本当に、毎日が楽しかったんだ。何度か死にかけたりもしたくせにさ……
——ハハハ、ごめんな。アタシってこんな時に、全然上手く話せなくて」

「いいよ……クイナはクイナのままでいい……」

 俺たちは満点の星空の下、無言で抱き合っている。俺は本当に帰ってしまっていいのだろうか……そんな思いが、グルグルと頭の中で回り続けた。

「——最後に、最後に一つだけワガママいいか?」

 クイナはそう言うと、かかとを上げて俺にキスをした。

「……アトリには先を越されちゃったけど……アタシにとっては、ユヅルが初めての人だ」

 クイナはボロボロと涙を流しながら、そう言った。

「クイナ……」

「——さ、もう行けユヅル。ゲンが待ってる」

 クイナは弱々しく、俺を手で突いた。

 俺は無言で頷く。嗚咽がこみ上げて、言葉にならなかったからだ。

 ゲンの元へと走る背中に、俺の名を叫ぶ、クイナの声が夜空に響いた。


***


 俺たちは無言で、タイムマシンの場所へと向かっている。泣きじゃくっている俺を気遣っているのだろう、ゲンは話しかけてこなかった。

 そのタイムマシンへの道中、あの土手が見えてきた。そう、俺たちの物語が始まったあの場所だ。

 クイナとアトリが、生け贄として縛られていた場所——

 俺はあの日を思い返すように、土手を見上げた——

 ゲンも足を止めて、土手を見上げている。

 …………

 ——そこには、アトリがいた。


「ゲン様ーーー! ユヅル様ーーー! 本当に……本当に、ありがとうございましたーっ!!」

 村にまで響きそうな声でアトリが叫ぶ。

 逆光で表情は見えないが、きっとアトリは泣いている。グドンの時に聞いた、あの時のアトリの声だ。

「ゲン様ーーー!! 世界で……世界で一番、尊敬出来る方でしたーっ!!」

「そして…… ユヅッ……ユヅル様ーーー!! 初めて……初めて、私が本気で好きになった人でしたーっ!!」

 アトリは言い終えると、俺たちに向けて手を振り続けた。俺とゲンも、アトリが見えなくなるまで手を振り続ける。

 俺は流れ続ける涙を拭うこと無く、タイムマシンの元へと無心で歩き続けた。

 歩みを止めてしまうと、クイナとアトリの元へ駆け出してしまいそうだったからだ。
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