古代の生け贄少女を救って、一緒に魔物討伐に出る物語!

靣音:Monet

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島のために

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「もういい、皆顔を上げてくれ。刑罰の話をする前に、イグルとホウクに聞いておきたい事がある。——まず、どうして大砲なんかを作っている? この島を統治するためのものか?」

 島民たちは誰一人として、言葉を発しない。神の使いの前で、場を乱してはならない。そんな気持ちになっているのかもしれない。

「——それは俺が答えよう。いつかは来るであろう、外来の敵に対してだ。さっきの魔物に使った大砲も、その時のために用意していたものだ。まあ、敵は人間を想定していたが、外来の敵という観点では間違っていなかったと思う」

 イグルが答えると、島民たちは隣同士で顔を見合わせた。『イグルの言っている事が分からない』そんな感じに見える。

「なるほど……なかなかに先見の明を持っていると言える。今は想像が付かないかもしれないが、のちの世では海をまたいで戦争が起きる。その時の為だと言うんだな? イグル」

 イグルは無言で頷いた。

「その大砲を発明したのはイグルか?」

「そうだ。——だが、俺はアイデアや仕組みを思いついても、形にしたり図面にする事が出来ん。それに関しては、弟のホウクがやっている。普段はガサツだが、こういうのは得意なようだ」

「そうそう。だから、大砲の開発は俺の城で進めていた。——もういいだろ、殺るならさっさと殺ってくれ。命乞いするつもりは無い」

 ホウクが言うと、島民たちから歓声が上がった。

 やはり、島民の希望は死刑のようだ。


「すまんが、静まってくれないか。——実は、俺たちがこの島に来た理由はもう一つある。島民が一つになって、やり遂げて欲しい事があるんだ。そして、それをイグルとホウク、お前たちが中心になってやって欲しい」

 流石に城内がざわついた。「信じられない」という声が上がる。

 やって欲しいこととは、一体何だ……? 俺にも全く想像が付かない。

「残念ながら、この島は今から千年後に沈んでしまう。千年というと、永遠の時と感じるかもしれんが、実際にはそんな長い時間でもない。お前たちの子供の子供、そんな感じで何代かが続けば、案外早いものだ。
——そこでだ。イグルとホウクが中心になって、島民全員が脱出出来るだけの船を造って欲しい。もちろん、完成は子孫に委ねる事になると思うが」

 島民たちは黙り込んでしまった。

 千年という時間が長すぎるのだろうか。それとも、広大な大地が沈んでしまうことが信じられないのだろうか。

 いや、きっとイグルとホウクに、刑罰を科さないことに納得がいかないのだろう。


「ゲ、ゲン様、それではイグルとホウクは罪に問わないという事ですか……?」

 そう質問するヨタカの声は震えていた。

「ヨタカ……お前の気持ちはよく分かる。だが、島の未来を考えると、そうすべきなんだ。彼らのアイデアと知識、そして技術は貴重なんだ」

「でっ、でも!! 私はともかく、付いてきてくれた兵の中には、家族を滅茶苦茶にされた者が何人もいるのです!! これでは……これでは、彼らが納得出来ない!!」

 ヨタカの悲痛な叫びに、島民たちも声を上げる。中庭は、混沌とした状況になってきた。

「——ゲン。アタシもいいか?」

 そんな中、クイナが前に出てゲンに聞いた。ゲンは「もちろん」と答える。

「ヨタカ……アタシの母ちゃんもアトリの母ちゃんも、ホウクの元へ行きたくなくて自ら命を絶った。アタシも絶対に許せないよ、こんな奴ら。……でもね、もしコイツらが、これからは島のために生きるって約束するのなら、一度でいい、一度でいいから、信じてみないか……?」

「私も……私もクイナに賛成です。私とクイナは、ゲン様たちが現れてくれなかったら、今この世にいませんでした。生き延びたことで、出来る事が沢山あったのです。魔物を倒したり、かと思えば魔物と仲間になったり……
イグルとホウクも、一度は無くした命だと思って、島のために生きてみませんか……」

 クイナとアトリも、イグルたちに刑罰を科すつもりは無いようだった。

「——どうだ、イグル、ホウク。島と、島民のためにやってくれるか?」

 イグルとホウクは下を向いたまま、身体を震わせていた。二人の頬を、涙が伝っていく。

「ああ……俺たちを許してくれとは言わん……ただ、俺たちに出来る事があるのなら、命をしてでも、やり遂げたいと思う。俺たちがこの島にいて良かったと、少しでも思って貰える日まで……」

 イグルはそう言うと、初めてこうべを垂れた。その隣にいた、ホウクと共に。


***


「ヨタカ……お前が思い描いていた結果にならず、悪かった。……島のためだと思って勘弁して欲しい」

 俺たちは、ホウクの城に残るヨタカたちと別れの挨拶をしていた。

「いえ……クイナ様とアトリ様のお話を聞いて、目が覚めました。皆を率いていくうち、私も一人の権力者になっていたようです。力尽くで、イグルとホウクを葬り去ろうとしていた……これでは私も、彼らと同じになるところでした」

「いや、そんな事は無い……人の上に立ちながら、人心を掴むというのは、非常に難しい事だ。——だが、ヨタカとトキなら出来ると信じている。島民に、明るい未来を見せてあげて欲しい」

 話を終えた俺たちは、固く抱き合った。ヨタカもトキも涙を流している。

 きっと、俺たちにはもう会えない。そう、確信めいたものがあったのだろう。
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