古代の生け贄少女を救って、一緒に魔物討伐に出る物語!

靣音:Monet

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 ホウクの城は、北と東が断崖絶壁となっており、西側と南側に城壁が築かれている。西側の第一城壁を突破した俺たちは、城の入り口となる南側へと移動していた。早ければ、ヨタカたちは既にそこで待機しているはずだ。

『ドン!』

 その南側から大砲の音が聞こえた。ヨタカたちは大砲を持っていない。ホウク側からの攻撃だろう。

「グドン急いで! このまま真っ直ぐ!」

 アトリも察したのだろう、前方を指さしグドンを走らせた。

 見えた、ヨタカたちの軍勢だ。思ったよりも人数が多い。自分たちに反旗をひるがえす島民がこれだけいることに、イグルとホウクは何を思うのだろう。

「ヨタカ! トキ! 待たせたな!」

 とうとう、俺たちはヨタカたちと合流した。だが、ヨタカはゲンの言葉に返事もせず、ただグドンを見上げている。それはヨタカだけではなく、その仲間たちも同じだった。

「ゲ、ゲン様……グドンとはここまでの怪物でしたか……トキから話は聞いていましたが……」

 ヨタカは驚いて声が出なかったらしい。その横でトキが笑っている。

「とりあえず、大砲と弓隊を無力化させる! 俺たちが正面突破したら、ホウクの城になだれ込むぞ!」 

 ゲンが叫ぶと、ヨタカたち軍勢は雄叫びを上げた。



 ホウクの城には大きな城門があり、その両脇を城壁が固めている。その高さはグドンでも中をのぞき込めないほどだった。

 しかも、ここの城壁には弓兵だけでなく、一門の大砲が備えられている。弓矢は問題無いが、大砲は少々面倒な相手だった。

 その城門へ向けて、アトリはグドンをゆっくりと前進させている。

「アトリ、このシールドでも大砲は耐えられんと思う。グドンに俺たちをガードさせてくれ。そして一発撃ってきたら、二発目を撃つまでに城壁に迫らせるんだ」

「はいっ! ゲン様!」

 グドンは手の平を城へ向け、俺たちをガードしてくれた。グドンの指の隙間から見える景色を頼りに、俺たちは前進をする。

『ドン!』

 大砲から放たれた一発は、アトリたちを守る左手に直撃した。流石のグドンもこの距離からの一発は効いたのだろう、『グゥッ』という小さな声を上げた。

「ごめんね、グドン!! 城壁へ急いで!!」

 グドンはズシンズシンと駆けると、あっという間に城壁に辿り着いた。

「う、射て射て!! 矢を射て!! 狙いは青い髪の女だ!! 砲兵、二発目はまだか!!」

 幾多もの矢は、シールドによって、全て弾き飛ばされた。攻撃をしている側が、恐怖の表情を浮かべている。そんな不思議な光景を、俺は冷静に眺めていた。

 その時、二人組みの砲兵の一人が叫んだ。

「ク、クイナ様! アトリ様も! 魔物を操っているのは、お二人だったのですか! ラーク村のコウとウカリです!!」

「——おおっ! コウとウカリか! さっさと、武器を捨てて降参しろ! 攻撃をやめるなら、アタシたちから攻撃はしない!!」

「そっ、そんな女に騙されるな、コウ! 早く撃ち込まんか!!」

 隊長らしき者が、コウに言った。

「う、撃てません!! この方たちは、長老のお孫さんで……そして、そして……俺たち双子の初恋の人たちなんです!!」

 コウとウカリという双子は、戦場で告白をした。そんな二人に、全員が呆気にとられている。

「皆、分かったか! ここにいる者たちは元々仲間なんだ! 殺し合う必要なんて、全くない! 分かったら武器を捨てて、ここを離れろ!!」

 ゲンが言うと、コウとウカリは一礼をし、その場を離れた。そして、二人がその場を離れたのをきっかけに、城壁から全ての兵が姿を消した。


 城壁を守る兵たちが退いたのを確認して、ヨタカたち軍勢もグドンのすぐ後ろまでやってきた。そんな彼らの多くは笑顔を浮かべている。イグルやホウクたちから解放される日が現実になる、そう確信しているのかもしれない。

「イグル! ホウク! 聞こえるか!! この門を開けて、俺たちと話し合いの場を持ってくれ!! お前たちが武器を捨てるなら、俺たちは攻撃をしない!!」

 ゲンが城内へ向けて叫んだ。

 ——だが、返事は無い。

 もしかして、イグルたちは既にどこからか城を抜け出しているのかもしれない。いや、この城を捨てると、他に行く場所はないだろう。きっと、この城に立てこもっているはずだ。

「あと5分だ! あと5分待つ!! 返事がなければ、グドンが門を蹴り飛ばして城に入る!! これが最終通告だ!!」

 ゲンが声を張り上げた。

 そして、返答が無いまま——

 5分が過ぎた。


「仕方が無い! アトリ、グドンに門を破壊させろ!!」

 ゲンの叫びに、ヨタカたち軍勢は再び雄叫びを上げた。

 もしかすると、彼らは話し合いよりも、イグルたちを暴力で制圧したいのかもしれない。それだけの鬱憤うっぷんが、彼らには溜まっているのだろう。

 グドンは大音響と共に、堅牢な門を蹴り上げた。


 ——だが、城内の光景は、俺たちが想像していたものでは無かった。

 見たことも無い、大口径の大砲がこちらに向けられていたのだ。

「撃て!! 怪物の土手っ腹に叩き込め!!」

 そう叫んだのがイグルだろう。隣にはホウクが陣取っていた。

 そして、巨大な大砲から轟音が響いたかと思うと、グドンの左脇腹を吹き飛ばした。

『グアアアアアッ!!!』

 グドンが聞いたことのない咆哮を上げた。激しい痛みが身体を襲っているのだろう、暴れるグドンから振り落とされそうになる。

「グドンっ!! 下がって! あとは私たちでやるから!! これ以上、撃たれると死んじゃう!!」

 アトリが悲痛な叫びを上げる。だが、グドンはヨロヨロと巨大な大砲に向かって前進を始めた。

「ダメだ!! 今受けた攻撃で、グドンは正気に戻った!! もう、アトリの言うことは聞かない!! グドンから降りたら、出来るだけ遠くに逃げるんだ!!」

「そっ、そんな事ないっ!! グドンは……グドンはまだ、私たちの仲間です!!」

 アトリはそう言って、グドンの大きな肩にしがみついた。

 グドンは巨大な大砲を、自分の敵と認識したのだろうか。大砲へと、少しずつ距離を詰めていく。

「二発目はまだか!! 時間が掛かるなら、両肩にいる奴らを先に吹き飛ばせ!!」

 イグルが言うと、巨大な大砲の両脇にあった、二門の通常サイズの大砲が、俺たちに照準を合わせた。

 まずい……

 反射的に、俺はその場に伏せた。

『ドン! ドン!』

 ん……!?

 外したのか……?

 二発の大砲の音は鳴ったが、俺は無事だった。

 顔を上げると、グドンは突き出した手の平で俺たちを守ってくれていた。
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