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いざ出陣
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トキたちの移動に時間が掛かるため、俺たちはゆっくりゆっくりと南下していた。
俺たちはリストバンドの地図を頼りに、壮大な滝や広大な草原、どこまでも続く海岸線など、ドーバ島の大自然を見て回っている。グドンに乗って揺られながら進む海岸線は格別だった。
そして今日は、山中にある湖までやってきた。
「うわあ……この島に、こんな綺麗な所があったのか……」
エメラルドグリーンに輝く湖を見て、クイナが言った。こんな景色、俺はもちろん、ゲンも見たことが無いだろう。
「本当に素敵です……グドンが一緒じゃないと、絶対に来られない所ですよね……」
山中奥深くにあったこの湖は、人の足で辿り着くのはまず不可能だっただろう。グドンが出来るだけ木を倒さないよう、アトリが丁寧な指示を出してここまで辿り着いた。
「まだまだ時間はあるし……せっかくだから、ここで朝まで過ごすか!」
ゲンの一言で、俺たちは大いに沸いた。今日という日は、まだ始まったばかりだ。
眩い太陽の光が降り注ぐ中、俺たちは勢いよく湖に飛び込む。
少しだけ、二人の水着を期待した俺だったが、二人のコスチュームは元々水着のようなものだった。
「なに変な目で見てんだよ、ユヅル」
そんな俺の気持ちが読み取られたのか、クイナはムスッとした表情でそう言った。
***
湖での楽しい時間はあっという間に過ぎ、夕食も終えて後は寝るだけとなった。遊びすぎたせいか、アトリもクイナもすぐにでも寝てしまいそうな顔をしている。
「ハハハ、眠そうだな。もう寝たらどうだ?」
ゲンはそう言うと、冷蔵庫からボトルを一本取り出した。
「——何ですか、ゲン様。それは?」
アトリが目を擦りながら、ゲンに聞く。
「これは酒だよ。今日くらいは飲んでもいいかなって」
「えーーー、一人で飲むのかよ! ズルいぞゲン!」
「……って言っても、クイナたちはまだ未成年だろ?」
俺が言うと、クイナとアトリは顔を見合わせた。
「何ですか、未成年って。私たちの島では『何歳からしか飲めません』なんてありません」
アトリが言うとゲンが笑った。
「ハハハ。そりゃ、そうだよな。まあ、一本くらいなら大丈夫だろう。皆で乾杯しよう!」
ゲンはそう言うと、追加でボトルを三本持ってきた。
「これは、サワーって呼ばれてるもんだ。果汁を酒と炭酸で割っている。飲みやすいものだが、合わないと思ったら無理をするなよ。——じゃ、乾杯!」
皆が『プッシュ!』という音を立てて、その酒を口にした。ああ、久しぶりの炭酸……酒がどうと言うより、炭酸の心地よさに感動をおぼえた。
「なっ、なんだこれ! 口の中がシュワシュワする!」
「それは炭酸って奴のおかげだ。どうだ、美味いか?」
「はいっ! 最高です! お酒ってこんなに美味しいものなんですね!」
どうやら、クイナとアトリは酒を飲むのは初めてのようだった。二人ともすぐに顔が真っ赤になる。初めて見る、二人の酔った姿はとても可愛かった。
そう、可愛かったのだ、一口飲んだ直後までは……
「ユヅル……ホウクをやっつけたら、本当に帰っちゃうのかよ……アタシたちと一緒にいるのは楽しくないのか……?」
クイナはそう言って泣き……
「本当にそうですっ! 私たちの命を救っておいて、『じゃ、サヨナラ』なんて冷たくありませんかっ!? どうなんです、ユヅル様!!」
アトリはそう言って怒った。二人は泣き上戸と、怒り上戸だった。
「ま、まあ……まだ帰るって決まったわけじゃないから……」
「きっ、聞きましたよ、ユヅル様!! 男に二言はありませんからね!!」
「あーん、ユヅルがこの島に残ってくれるかもしれない……うわーん」
二人は眠りに付くまで、ずっとこの調子だった。
ちなみに、二人ともこの日の記憶は全く無いらしい。
***
とうとう、ホウクの城へと攻め込む日がやってきた。
約束通り、トキとヨタカが狼煙を上げたのだ。ゲンは10秒雨を降らせて、それの返事とした。
「狼煙って漫画の世界の話かと思ってたよ。本当に使えるんだね……」
「何言ってんだ。戦国時代にも使われていた立派な通信手段だ。ちなみに、俺たちとトキたちの距離が10キロメートル。その丁度真ん中に、ホウクの城がある。準備なども踏まえて、二時間後に集結だ」
ゲンが言うと、皆の顔が引き締まった。ゲンは極力避けると言っているが、人と人が殺し合う可能性があるのだ。それは、グドンと対峙したときよりも、強烈な緊張感を伴っていた。
グドンの左肩に、クイナとアトリ。右肩に俺とゲンが乗っている。俺たちの前には、テントの壁を応用したシールドを用意しておいた。壁が透明化することを思い出した俺が、使ってみようと言ったのだ。
「何度も言った事だが、もう一度おさらいしておくぞ。魔法や剣は、実際には効かない事がバレないよう、極力使うんじゃないぞ。アトリは人に被害が出ない箇所を狙って、グドンに城などを破壊させてくれ。戦意喪失した所で、奴らを投降させる。何か質問はあるか?」
全員が首を横に振った。何度も何度も話し合ってきた事だったからだ。その間にも、グドンはズシンズシンと、ホウクの城へ向かって前進していた。
***
ホウクの城が見えてきた頃、前方に見張りの一団が確認出来た。遠くからでも、グドンの大きさに驚いているのが分かる。そして、その一団は慌てて城へと撤収していった。
「ほっ……逃げてくれて良かった。最後までああやって逃げてくれたら助かるんだが……」
クイナが額の汗を拭って言った。
「——そろそろ最初の城壁でやり合うことになる。アトリ、シールドが保たないと思ったら、すぐにグドンを下がらせてくれ」
「はいっ、ゲン様!」
グドンが少しスピードを上げた。俺たちは落とされないよう、グドンの肩にしがみつく。
城壁との距離がグングンと縮まっていく。城壁の隙間から、弓兵の恐怖に歪む顔が見えた。
「お、怯えるな! 青い髪の女が、魔物を操っている!! 射ち落とせ!!」
城壁を守る、兵の一人が言った。グドンと俺たちの情報は既に伝わっているようだ。
射られた大量の矢が飛んできた。
俺たちにもいくつか矢は飛んできたが、大半がアトリの元へと飛んでいった。テントの壁を利用したシールド、ゲンは『矢くらいなら防げるだろう』と言っていたが、果たして……
『ガン! ガン! ガガン!』
ゲンが言ったように、シールドには傷一つ付かず、矢を次々とはじき返した。
「ホウクの兵たち! 攻撃をやめろ!! 見ての通り、お前たちの攻撃は俺たちには効かん! 弓を置いて降参するなら、俺たちから攻撃はしない! 答えを聞かせろ!!」
ゲンが言い終わらない内に、兵の大半は弓を置いて両手を挙げた。俺たちの目の前で、矢が弾き飛ばされたのだ。神か何かと思ってしまっても、不思議では無い。
「アトリ! グドンに、そこの大木をへし折らせてやれ!」
アトリはそのままグドンに伝えると、グドンは自分の背丈ほどもあった大木を簡単になぎ倒してしまった。
それを見た全ての兵は弓を置き、静かに両手を挙げた。
俺たちはリストバンドの地図を頼りに、壮大な滝や広大な草原、どこまでも続く海岸線など、ドーバ島の大自然を見て回っている。グドンに乗って揺られながら進む海岸線は格別だった。
そして今日は、山中にある湖までやってきた。
「うわあ……この島に、こんな綺麗な所があったのか……」
エメラルドグリーンに輝く湖を見て、クイナが言った。こんな景色、俺はもちろん、ゲンも見たことが無いだろう。
「本当に素敵です……グドンが一緒じゃないと、絶対に来られない所ですよね……」
山中奥深くにあったこの湖は、人の足で辿り着くのはまず不可能だっただろう。グドンが出来るだけ木を倒さないよう、アトリが丁寧な指示を出してここまで辿り着いた。
「まだまだ時間はあるし……せっかくだから、ここで朝まで過ごすか!」
ゲンの一言で、俺たちは大いに沸いた。今日という日は、まだ始まったばかりだ。
眩い太陽の光が降り注ぐ中、俺たちは勢いよく湖に飛び込む。
少しだけ、二人の水着を期待した俺だったが、二人のコスチュームは元々水着のようなものだった。
「なに変な目で見てんだよ、ユヅル」
そんな俺の気持ちが読み取られたのか、クイナはムスッとした表情でそう言った。
***
湖での楽しい時間はあっという間に過ぎ、夕食も終えて後は寝るだけとなった。遊びすぎたせいか、アトリもクイナもすぐにでも寝てしまいそうな顔をしている。
「ハハハ、眠そうだな。もう寝たらどうだ?」
ゲンはそう言うと、冷蔵庫からボトルを一本取り出した。
「——何ですか、ゲン様。それは?」
アトリが目を擦りながら、ゲンに聞く。
「これは酒だよ。今日くらいは飲んでもいいかなって」
「えーーー、一人で飲むのかよ! ズルいぞゲン!」
「……って言っても、クイナたちはまだ未成年だろ?」
俺が言うと、クイナとアトリは顔を見合わせた。
「何ですか、未成年って。私たちの島では『何歳からしか飲めません』なんてありません」
アトリが言うとゲンが笑った。
「ハハハ。そりゃ、そうだよな。まあ、一本くらいなら大丈夫だろう。皆で乾杯しよう!」
ゲンはそう言うと、追加でボトルを三本持ってきた。
「これは、サワーって呼ばれてるもんだ。果汁を酒と炭酸で割っている。飲みやすいものだが、合わないと思ったら無理をするなよ。——じゃ、乾杯!」
皆が『プッシュ!』という音を立てて、その酒を口にした。ああ、久しぶりの炭酸……酒がどうと言うより、炭酸の心地よさに感動をおぼえた。
「なっ、なんだこれ! 口の中がシュワシュワする!」
「それは炭酸って奴のおかげだ。どうだ、美味いか?」
「はいっ! 最高です! お酒ってこんなに美味しいものなんですね!」
どうやら、クイナとアトリは酒を飲むのは初めてのようだった。二人ともすぐに顔が真っ赤になる。初めて見る、二人の酔った姿はとても可愛かった。
そう、可愛かったのだ、一口飲んだ直後までは……
「ユヅル……ホウクをやっつけたら、本当に帰っちゃうのかよ……アタシたちと一緒にいるのは楽しくないのか……?」
クイナはそう言って泣き……
「本当にそうですっ! 私たちの命を救っておいて、『じゃ、サヨナラ』なんて冷たくありませんかっ!? どうなんです、ユヅル様!!」
アトリはそう言って怒った。二人は泣き上戸と、怒り上戸だった。
「ま、まあ……まだ帰るって決まったわけじゃないから……」
「きっ、聞きましたよ、ユヅル様!! 男に二言はありませんからね!!」
「あーん、ユヅルがこの島に残ってくれるかもしれない……うわーん」
二人は眠りに付くまで、ずっとこの調子だった。
ちなみに、二人ともこの日の記憶は全く無いらしい。
***
とうとう、ホウクの城へと攻め込む日がやってきた。
約束通り、トキとヨタカが狼煙を上げたのだ。ゲンは10秒雨を降らせて、それの返事とした。
「狼煙って漫画の世界の話かと思ってたよ。本当に使えるんだね……」
「何言ってんだ。戦国時代にも使われていた立派な通信手段だ。ちなみに、俺たちとトキたちの距離が10キロメートル。その丁度真ん中に、ホウクの城がある。準備なども踏まえて、二時間後に集結だ」
ゲンが言うと、皆の顔が引き締まった。ゲンは極力避けると言っているが、人と人が殺し合う可能性があるのだ。それは、グドンと対峙したときよりも、強烈な緊張感を伴っていた。
グドンの左肩に、クイナとアトリ。右肩に俺とゲンが乗っている。俺たちの前には、テントの壁を応用したシールドを用意しておいた。壁が透明化することを思い出した俺が、使ってみようと言ったのだ。
「何度も言った事だが、もう一度おさらいしておくぞ。魔法や剣は、実際には効かない事がバレないよう、極力使うんじゃないぞ。アトリは人に被害が出ない箇所を狙って、グドンに城などを破壊させてくれ。戦意喪失した所で、奴らを投降させる。何か質問はあるか?」
全員が首を横に振った。何度も何度も話し合ってきた事だったからだ。その間にも、グドンはズシンズシンと、ホウクの城へ向かって前進していた。
***
ホウクの城が見えてきた頃、前方に見張りの一団が確認出来た。遠くからでも、グドンの大きさに驚いているのが分かる。そして、その一団は慌てて城へと撤収していった。
「ほっ……逃げてくれて良かった。最後までああやって逃げてくれたら助かるんだが……」
クイナが額の汗を拭って言った。
「——そろそろ最初の城壁でやり合うことになる。アトリ、シールドが保たないと思ったら、すぐにグドンを下がらせてくれ」
「はいっ、ゲン様!」
グドンが少しスピードを上げた。俺たちは落とされないよう、グドンの肩にしがみつく。
城壁との距離がグングンと縮まっていく。城壁の隙間から、弓兵の恐怖に歪む顔が見えた。
「お、怯えるな! 青い髪の女が、魔物を操っている!! 射ち落とせ!!」
城壁を守る、兵の一人が言った。グドンと俺たちの情報は既に伝わっているようだ。
射られた大量の矢が飛んできた。
俺たちにもいくつか矢は飛んできたが、大半がアトリの元へと飛んでいった。テントの壁を利用したシールド、ゲンは『矢くらいなら防げるだろう』と言っていたが、果たして……
『ガン! ガン! ガガン!』
ゲンが言ったように、シールドには傷一つ付かず、矢を次々とはじき返した。
「ホウクの兵たち! 攻撃をやめろ!! 見ての通り、お前たちの攻撃は俺たちには効かん! 弓を置いて降参するなら、俺たちから攻撃はしない! 答えを聞かせろ!!」
ゲンが言い終わらない内に、兵の大半は弓を置いて両手を挙げた。俺たちの目の前で、矢が弾き飛ばされたのだ。神か何かと思ってしまっても、不思議では無い。
「アトリ! グドンに、そこの大木をへし折らせてやれ!」
アトリはそのままグドンに伝えると、グドンは自分の背丈ほどもあった大木を簡単になぎ倒してしまった。
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