古代の生け贄少女を救って、一緒に魔物討伐に出る物語!

靣音:Monet

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未来のテント

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「まあ、タイムリープの話はそれくらいにしておこう……で、さっきの魔物の体当たりだが、どんな感じだったか教えてくれないか?」

「そうだね……例えるなら、全力で走ってきた人間に、思いっきりぶつかられた感じかな……? 戦闘中はそこまで痛みを感じなかったけど、今になって多少痛みがある」

 ゲンは「そうか……」と声を漏らした。思ったより、魔物は強化されているのだろう。本来の仕様なら、人に小突かれた程度のダメージらしい。ちなみに、派手に攻撃を受けたようなモーションも追加されるようで、それが更にアトリとクイナを心配させる要因になったのだろう。

「って事は、クイナたちの村で小屋を破壊したモンスターってのは、かなりヤバい奴って事だよね……?」

「ああ……10段階の8……いや、もっと上かもしれないな……」

「じゃあ、俺たちは村を離れない方が良かったんじゃ……?」

「いや……そもそもの仕様では、プレイヤー以外に攻撃はしないはずなんだ。俺たちがプレイを始めたことで、魔物たちのターゲットが俺たちに向いてくれるのを祈るしかないな……」

 そう言えば、ある村では死者が出たという噂もあった。出来るだけ早く魔物がいるポイントに行って、少しでも多く倒す方がいいだろう。



「ゲン様! そろそろ魔物のポイントです!」

 後方からアトリが言った。

「ありがとう、アトリ! 集中しろ皆!」 

 初戦同様、前方後方ともに注意しながらの前進となる。今度はどこから出てくる……?


「ま、前だっ!」

 俺の一言で全員が前を向いた。

 目前に、巨大なカエルの魔物が現れていた。ここからの距離、3メートルほどか……そいつは突然に姿を現した。

「ここは俺にやらせて欲しい!」

 俺は3メートルほどにもなる、細い刀身の剣を生成させた。——うん、重くない、これなら振り切れる。

 初戦は武器を出す事もなく、終わってしまった。今回は一撃で倒せずとも、必ず傷の一つは付けてやる。

 俺はジリジリと、カエルの魔物との距離を詰めていく。

「ユヅル! その剣だったら、もう届くだろ! 斬ってしまえ!」

 クイナが言う。だが、俺はまだ剣を振らない。

 こいつの風体からして、きっと……

 そして、俺が次の歩を進めたときだった。その魔物は大きくジャンプした。

「来たっ!!」

 俺は右から左へ、天を割くように全力で剣をぐ。

 宙にいる魔物は大きく口を開け、ドロリとした粘膜で覆われた大きな舌を繰り出す瞬間だった。

 ど、どっちの攻撃が速い……!?

 魔物の舌が俺の顔に触れる寸前、俺の剣は魔物の脇腹から一刀両断していた。

「流石です、ユヅル様!!」「凄いぞ、ユヅル!!」

 ボタボタと魔物の肉塊が落ちる中、二人が駆けつけてくれた。

「アイツがジャンプするって見切ってたのか! やるじゃんユヅル!」

 クイナはそう言って、俺に抱きついてきた。

 さっき、見知らぬ男に嫉妬したせいだろうか、そんなクイナがとても愛おしく思えた。


***


 魔物討伐初日、そろそろ日が落ちようとしている。

「暗くなる前に、夕食と寝床の準備をするか……場所はここにしよう」

 見晴らしの良い草原に着くとゲンが言った。皆疲れていたのだろう、一斉に腰を下ろした。

「ユヅル、アトリ、クイナ。皆、お疲れさん。昼食の時間以外は、殆どバトルだったし、かなり疲れただろう。レベルは今日だけで、11にまで上がっている。上出来も、上出来だ」

 結局、今日戦った魔物の中では、最初に出会ったイノシシタイプが一番強かった。その他の魔物からは攻撃を受けることもなく、相手によっては瞬殺する場面さえあった。

「ユヅル、食料調達とテント作り、どちらをやりたい? テント作りの方は、リストバンドの指示に従えば誰でも出来る」

「じゃあ、テント作りやってみたい!」

「OK。じゃ、テント作りはユヅルに任せる。アトリとクイナ、野草やキノコを探すのはどちらが上手だ?」

「ゲン、それはアタシに任せてくれ! 食い物を見つけるのは、誰よりも早いぞ!」

 ハハハ。確かにクイナは得意そうだ。

「よし。じゃ、俺とクイナは山に入る。ユヅルとアトリは、テントの設置を任せたぞ」

 ゲンはテントのパーツを置いていくと、クイナと山林へ入っていった。


 基本、床用のパーツと、壁及び天井用のパーツだけで出来るのか……これなら、誰にでも出来そうだ。

 床用のパーツを設置すると、パタパタとパネルが広がって地面を覆っていった。そしてしばらく経つと、そのパネルは硬化しながら厚みを増しはじめた。

「ア、アトリ……もう乗ってもいいみたいだよ」

 俺とアトリは、恐る恐る出来た床に乗ってみた。驚くほど、しっかりとしている。試しにドンドンと足踏みをしたが、まるで大理石の床のようにビクともしなかった。

「さ、流石ですね、ユヅル様……私には一体、何が何やら……」
 
 アトリはそう言ったが、俺だってそうだ。

 一体、何が何やら……

 壁及び天井用のパーツは、使う枚数で室内の広さや天井の高さが変わるようだ。レイアウト変更は簡単に出来るようなので、とりあえずは全員が入れる程の一室にしておいた。

「なんて素敵……風は通さないし、一生ここに住めそうです」

 玄関を開けて中に入ると、アトリは物珍しそうに室内を歩き回った。中はテントというより、立派な室内だ。広い上に、天井も高い。

 ペラペラだった壁のパーツも、試しにドンドンと叩いてみた。想像通り、頑丈な壁へと変化していた。

「ユヅル様……一体、これはどういう仕組みなんでしょうか?」

 天井を見上げながら尋ねるアトリに、俺は「さあ」と笑って答えるしかなかった。
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