古代の生け贄少女を救って、一緒に魔物討伐に出る物語!

靣音:Monet

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二人は有名人

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 クイナのパンチよって宙に浮かされた魔物は、肉塊となって消えてしまった。クイナ達はそれを確認するまでもなく、真っ先に俺の所へ駆け寄ってきた。

「だ、大丈夫か、ユヅル!」「お、お怪我は無いですか!?」

 怪我は無い。身体は痛いが、怪我は無い。

 ただ、それよりも……

 何の役にも立たなかった自分自身が辛かった。

「だ、大丈夫、全然大丈夫。それより、アトリの魔法もクイナのパンチも凄かったな……バトル初戦とは思えなかった」

「ユヅルの言う通りだ。二人とも見事だったぞ。俺とユヅルの方がよっぽど足を引っ張ってた」

「いえいえ、そんな……ゲン様の攻撃のお陰で、私も炎を放つチャンスが出来たのですから」

「そして、そのお陰でアタシはパンチを打てた! 良いコンビネーションだったな!」

 くっ、くそっ……

 何一つ出来なかった上に、俺だけ攻撃を受けるとは……

「でも流石、神の使いだな。あんな巨体に体当たりされたのに、すぐ起き上がったのには驚いたぞ。なあ、アトリ」

「本当です。私なんて、ユヅル様はもう立てないんじゃないかって、思ったくらいですから……」

 確かに、あれだけの体当たりを受けてすぐに立ち上がれば驚くだろう。きっと、このコスチュームのお陰に違いない。

「まあ初戦だし、良く出来た方だと思う。それより、リストバンドをチェックしてみてくれ。さっき倒した魔物の情報が入ってる」

 本当だ、レベルアップの通知が来ていた。

「凄いな……今の敵を倒しただけで、レベルが5まで上がったのか!」

「……え? 体当たりされただけのユヅルも、レベルが上がってるのか?」

 きっと、悪気は無い……クイナは悪気があって言ってるんじゃない……

 だが、それが逆にこたえた。

「ハハハ……俺たちはチーム戦だから、誰が活躍しようとそういう仕組みになってるんだ。我慢してくれ、クイナ」

「なんで我慢なんてするんだよ、アタシの分もユヅルに反映されるなんて最高じゃないか」

 クイナは笑って、そう言った。

 ……ま、待ってろ、クイナ。今度は俺が、

 クイナに経験値をプレゼントしてやる。


「ちなみに、今の魔物が10段階で言うと、5くらいの強さだな。最初の敵にしては、かなりの強敵だった。自信持っていいぞ」

「さ……さっきの魔物で5なのですか……? 6から上はもっと強いって事なのですね……」

「ああ、そうだ。しかも、ラスボス……ここでは、魔王と呼ぼうか。そいつに限っては、10段階の更にその上だ。どんどん勝利を重ねて、もっと強くなろう」

 そうだ、こんな所でくじけている場合じゃ無い……

「……やるぞっ、次は絶対に俺が倒す!」

 そう言って上げた俺の拳に、クイナとアトリも拳を重ねてくれた。



 初戦を終え、俺たちは次の魔物の場所へと向かっていた。今は俺たちが前列を行き、クイナとアトリが後列を歩いている。

「言うまい、言うまいとは思っていたが、ユヅルは良いなチヤホヤされて……まあ、ユヅルたちは歳も近いし、こうなる事は想定していたけども」

 77歳のゲンでもこんな事を考えるのか……ちょっと意外だった。

「……そうだよ、ゲンの言う通り、歳が近いからだよ」

「いや、それだけじゃないと思うぞ。特にクイナなんて、ユヅルに気があるとしか……まあ、どっちにしても、あの二人に好かれるなんて羨ましい」

「——もしかして、ゲンはアトリとクイナに会いたくてタイムリープしたとか?」

 俺のセリフに対し、ゲンはギョッとした顔をした。

 まあ、元々俺とアトリとクイナで魔物討伐に出るシナリオを描いてたくらいだ。きっと、そういう事なのだろう。

「ま、まあ、正直に言うとな……二人は、未来じゃ有名人っていうのもあるし」

「二人が有名人!? ど、どういう事?」

「ああ……そういや、タイムリープに関して、説明してない事だらけだったな……俺たちの時代はタイムリープだけでなく、過去の情報もアーカイブとして閲覧する事が出来るんだ。まあ、ざっくり説明すると……」

 ゲンはそう言うと、未来のタイムリープ事情について話してくれた。内容をまとめると、こんな感じだ。

◎タイムリープの技術が確立して以来、映像&音声で過去を閲覧出来るようになった。

◎基本、誰でも閲覧出来る(無料部分は少ない)ただし、プライバシーを考慮して、閲覧出来るのは西暦1900年より過去のみ。それでも、先祖が明るみになるなどの理由で、トラブルは多々起きているとのこと。

◎ドーバ島が発見されたのは、海底調査などではなく、この技術のおかげ。


「まあ、そんな感じでドーバ島が発見され、多くの人々が興味津々でドーバ島の歴史を閲覧したわけだ。群を抜いて進んだ文明、その文明が沈んでいく瞬間……ドーバ島はあまりもドラマチックだった。
——そしていつだったか、アトリとクイナの生け贄儀式があった事を発見した奴が現れた。彼女たちのルックスも相まって、瞬く間に二人は有名になったんだ」

「その……怖くて聞けなかったんだけど、もし俺たちがこの時代に来てなかったら、アトリとクイナは……?」

「ああ……彼女たちは焼かれて死んだ。しかも、雨が降ったのはそれから1週間も後の事だ。全くもって、彼女たちは無駄死にだったんだ……」

「……み、見たの? 彼女たちが死ぬところ……?」

「いや、流石にそこはAI判定で閲覧制限されている。——まあ、されていなかったとしても、見ることは無かっただろうが」

 後ろを振り返ると、アトリとクイナが談笑していた。

 彼女たちは生きている……

 俺たちはここに来て良かったんだ、心底そう思えた。


「じゃ、その内、他のタイムリーパーとも会いそうだね。人気なんでしょ? 彼女たち」

「いや、もう既に沢山来ているはずだ。だが、他のタイムリーパーと出会う事は無い。タイムリープする度に、パラレルワールドが生成されるからな。もしかして、別のパラレルワールドでは、クイナは助けて貰った他の男に抱きついているかもしれないぞ」

 クイナが、他の男に抱きつく……? 

 確かに、クイナならあるかもしれない……

 俺は会ったことも無い、未来の男に嫉妬していた。
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