古代の生け贄少女を救って、一緒に魔物討伐に出る物語!

靣音:Monet

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出発

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 アトリが外に出る決心が付くと、俺たちは宿泊に使っていた家屋を出た。外は変わらずの晴天だ。

「この晴天、また続くのかな……もう嫌だぜ、生け贄になるのは」

 クイナは右手でひさしを作ると、恨めしそうに太陽を見た。

「大丈夫だ、安心しろ。俺とユヅルが付いてるじゃないか」

「そうですよ、クイナ。いまはゲン様とユヅル様がいらっしゃるんです。魔物を退治して、昔のような平和な村を私たちで取り戻すのです。
——あ、村のみんなが集まってる」

 村の出入り口付近、俺たちを見送るためか、多くの人達が詰めかけていた。アトリとクイナはゲンにうながされ、皆の元へと駆けていった。


「ゲン……なんだよ、あのクイナたちのコスチュームは……目のやり場に困って戦闘どころじゃ無いんだけど」

「ハハハ……ああ見えて、ベースはゲーム用の市販コスチュームなんけどな。ああいうのは、酔ってる時に注文しちゃいかんな、ハハハ」

 いい歳して、笑って誤魔化すつもりらしい……

 しかし……

 二人のコスチューム、実は気に入ってしまっている俺もいた。

 ゲンは俺自身の延長……趣味が合うのは当然か……



 俺たちも村の出入り口に着くと、多くの村民に囲まれた。どうやら、昨日の件で礼を言いたいようだ。

「ゲン様、ユヅル様、昨日は誠にありがとうございました……アトリ様とクイナ様を、どうか宜しくお願いいたします……」

 腰が大きく曲がった老婆はそう言った。

 アトリ様、クイナ様か……彼女たちは長老の孫だ、そう呼ばれるのが自然なのだろう。彼女たちが多くの人に囲まれているのを見て、皆から愛されているんだなと感じた。

「アトリ様。これ、私が作ったお守りなの……あんまりキレイに出来なかったけど、魔物に負けないように祈りを込めて作ったから……貰ってくれる……?」

 少女が、アトリに手作りだというお守りを手渡した。

「ありがとう、ラン……これのお陰で、きっと私は怪我一つしないわ。時間が無かった中、大変だったでしょう。ありがとう、本当にありがとう……」

 アトリはその場にかがむと、力一杯少女を抱きしめた。

 クイナの方には、二人の男の子がいた。

「クイナ様! 弟と一緒に集めてたクコの実、持って行ってくれ! その代わり、その代わり……帰ってきたら、また遊んでくれよな……」

 そう言った男の子の横で、「うんうん」と鼻息荒く頷いているのが弟なのだろう。クイナもアトリと同じように屈むと、クコの実とやらを一つまみした。

「アタシはこれだけ貰っておくよ。残りはお前たちが持っておきな。ありがとう、ヒガラ。ありがとう、ヒタキ」

 クイナが言うと、弟のヒタキはクイナに抱きついた。兄のヒガラは、もうそんな歳じゃないと強がっているのだろうか。口を強く結んだまま、その場に突っ立ている。

「ヒガラ、お前もおいで」

 兄のヒガラも抱きつくと、兄弟はワーンと大きな声で泣き出した。



 食料など、多くのもの手渡そうとする長老を丁寧に断り、俺たちはラーク村を出た。そうそう、アトリたちの村はラーク村というらしい。

 見えなくなるまで手を振る村民たちに、俺とゲンは最後まで手を振り続けた。そんな俺たちとは裏腹に、先を行くアトリとクイナは一度も振り返ろうとはしない。

 アトリ達は気付いていないのかも……歩を速め、声を掛けようとする俺を、ゲンは俺の肩を掴んで止めた。

 ゲンは無言で首を横に振る。

 彼女たちの肩は小さく震えていた。


***


「よし……これくらいの広さがあれば練習もしやすいだろう。お前たちの武器の使い方を今から説明するぞ。皆、リュックを開けてくれ」

 村から15分程歩いた頃、ひらけた場所に着くとゲンが言った。それぞれが肩からリュックを下ろし、中のものを取り出す。

「では、まずユヅルから……ユヅルは剣で戦って貰う。そのさやを左腰に装着して、つかを右手に持ってくれ。鞘ってのは剣を収納する部分で、柄っていうのは剣の持ち手の事だ」

 ああ、これの事か。鞘は極端に短く、柄は持ち手だけで、刀身にあたる部分が無かった。とりあえず、言われたまま鞘を左腰に装着する。

「で、その持ち手を、左腰の鞘に収める」

 持ち手を鞘に近づけると、『ガチン!』と言う音がした。短くて不格好だが、まるで左腰に日本刀を差しているようだ。

「ここからが大事だぞ。その持ち手を引き抜く際、どんな剣にしたいかイメージしながら引き抜け。やってみろ」

 ……ん?

 どんな剣にしたいか? こんな鞘の長さじゃ、剣の長さなんて知れている。そのイメージのまま、俺は剣を引き抜いた。

「おおっ!」「凄いです!」

 クイナとアトリが歓声を上げる。何も無かった持ち手の先に、短剣のような刀身が現れた。

「……ダメダメ、全然ダメ。ユヅルはそんな剣で戦いたいのか? もっと長いのや、もっと格好良いものを想像して抜いて見ろ」

 もっと格好良いものを想像して、か……

 確かにいま出現している短剣は、俺がイメージしたそのものだった。

 なるほど、そういう事か……

 俺は持ち手を鞘に戻し、再び勢いよく引き抜いた。

「これでどうだっ!!」

 現れた長剣は2メートルを超え、刀身には燃えたぎる炎が渦巻いていた。まさしく、俺が想像した通りの剣が生成されていた。

 アトリとクイナは驚きのあまり声も出ないようだ。その隣で、ゲンはウンウンと笑顔で頷いている。

 ハハハ……なるほど、これが未来のゲームってやつか。

 くっそ面白いじゃないか。
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