古代の生け贄少女を救って、一緒に魔物討伐に出る物語!

靣音:Monet

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二つの想定外

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「なあ、ゲン……計画は順調に進んでるって事でいいんだよね……?」

 俺たちは、長老たちが用意してくれた部屋のベッドで横になっていた。ゲンは天井を見つめたまま、俺の問いに答えない。答えにくい事でもあるのだろうか。

「……ゲン。もしかして、嘘をついてる事とかある?」

「嘘か……そういや、ワインは全然美味しくなかった。お前と一緒で、俺も美味いと嘘をついた」

「ゲン……」

「ハハハ……すまん、すまん。他にちゃんと言わなきゃいけない事がある」

 そう言うと、ゲンは起き上がってベッドの上であぐらを掻いた。俺もゲンに合わせてベッドの上に座る。

「正直な話……想定外の事が二つ起きている。まずは、魔物のことだ」

 喉がゴクリと鳴った。ゲンの渋い表情……きっと、どちらも良い話ではないはずだ。

「この島にいる魔物たち……実は俺がいたものなんだ。最初は小さな卵のようなもので、時間が経てば孵化し、やがて大きくなる」

 ゲンがじっと俺の顔を見ている。「理解出来るか?」そんな表情だ。

「未来には大人用の遊びとして、実体化するモンスターやロボットを倒すゲームがある。人間同士でやるサバイバルゲームの敵を、モンスターやロボットに代替だいたいさせるようなものだ。プレイヤーは銃や剣、魔法なんかを使って攻略していく。——ここまでで、質問あるか?」

 俺が首を左右に振ると、ゲンは続けた。

「そのモンスター達も攻撃はしてくるが、俺たちが怪我をする事は決して無い。そんな事があったら、即刻販売停止になるからだ。しかし、それでは真剣味に欠けるからと、色々なメーカーからMODが出ている。ユヅルならMODは分かるな?」

「あ、ああ……ゲームのデータやグラフィックを改変出来るものだよね。もしかして、魔物を強化するMODを追加したとか……?」

「……その通りだ。俺は魔物達にMODを仕込んだ。『凶暴化MOD』『繁殖用MOD』『ラスボス巨大化MOD』などだ。安心安全だったゲームを、俺は凶悪なものに変えてしまった。村人たちに本気で怖がって欲しかったのと、俺も刺激を求めていたのかもしれん。
——だが、言い訳をさせて欲しい。どのMODも認可されているものだったんだ。どのレビューを見ても、怪我をしたなんてものは一つも無かった」

 ゲンは「はぁ……」と大きなため息を一つくと、話を続けた。

「なのに、ドーバ島で起こっている現実は、建物を壊され、けが人まで出ている。あくまで噂であって欲しいが、死者まで出たって言うじゃ無いか。
——冷静に考えたら、プレイ中にオンラインで制御されていたって事だろうな。こんなこと、ユヅルの時代でも気付きそうな事だ……」

 確かにそうだろう……オンラインサーバーはおろか、通信手段も無いこの時代。魔物たちは応答の無い通信を、延々と行っていたのかもしれない。

「——ところでさ、魔物を蒔いたってのはいつの話?」

「今日の事だ。お前が寝ている間に、1年前のドーバ島に飛んでいる。そこで魔物を蒔いてきた」

「ど、どういう事……?」

「ユヅルと一緒にタイムリープした最初の場所は、1万と1年前のドーバ島って事だ。そこで俺は魔物を蒔き、1年後のドーバ島に再びタイムリープした。ユヅルが目を覚ましたのは、そのタイミングだ」

 なるほど……ゲンが魔物を蒔いている間、俺はずっと寝ていたという事か……

 タイムリープする事によって、意識が無くなるのかと思っていたが、ゲンに眠らされていたのかもしれない。

「ドーバ島に着いた時、ゲンがあまり驚いていない理由が分かったよ。そういや、着替えも既に終わっていたしね」

「すまん、ユヅル……安全に遊べるゲームと信じていたから、魔物の正体は黙っていようと思っていたんだ。悪かった」
 
 ゲンは俺に頭を下げた。



「……で、ゲン。もう一つの想定外とは?」

「ああ、ホウクって奴の事だ。ドーバ島は今、イーヴル王国というのが全国を統治している。イーヴル王国の王はイグル……イグルはホウクの兄だ」

 なるほど……ホウクというのは、そこまでの人物だったのか。

「そんな人物が、こんな村に立ち寄ったりするとはね……」

「ああ、あれには俺も驚いた。奴らに会う時は、城で勲章でも貰う時だろうって思ってたくらいだ。『魔物を退治してくれてありがとうございます』ってな」

 ゲンの話によると、北の城がイグル、南の城がホウクの居城になっているらしい。ホウクの城は、この村からほど近い場所にあるとの事だ。

「——で、ここからが想定外の話になる。正直俺は、イーヴル王国の奴らも思い通りに出来ると考えていた。神の使いとして現れて、恵みの雨を降らせるんだからな。その上、明日からは魔物討伐にも出る。
——だが、それは甘かったようだ。今日の態度を見ていると、魔物より厄介な相手になるかもしれん」

 魔物に会ってもいない段階で言うのも何だが、俺もそんなが感じがする。人間ほど怖いものもない。

「……で、どうするの? 明日から、魔物討伐に出るんでしょ?」

「もしも……もしもだ。ユヅルが戻りたいと思うのなら、それぞれの時代に戻ってもいいと思っている。俺はともかく、お前を危険に晒すわけにはいかない」

「一度戻ってから、出直すって事?」

 ゲンは静かに首を横に振った。

「残念ながら、タイムリープには莫大な金が掛かる。クレジット的には、俺たちがそれぞれの時代に戻る分しか残っていない。再び、1年前のドーバ島に行き来する余裕さえ無いんだ」

「も、もし俺たちが今、自分たちの世界に戻ったら……?」

「アトリとクイナはホウクにさらわれ、島民は魔物たちに全滅させられるかもしれない。俺たちがこの時代から消えたところで、この世界線は消えはしない。俺とユヅルが現れたパラレルワールドとして、ずっと時間は進み続ける」

 なんて事だ……

 これでは俺たちは助けに来たどころか、被害だけ振りまいた事になる。

 神の使いどころか、悪魔の使いじゃないか……

「——ゲン、俺は残るよ。アトリやクイナ、島民たちを放ってはおけない」

「ありがとうユヅル、よく言ってくれた……本当はお前だけでも戻してあげれば良かったんだが……」

 俺はゲンの肩に優しく手を掛けた。
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