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19_シンハー
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秀利と会うのは早くても2週間後という事もあり、少しばかり心に余裕が出来た。
居酒屋こだまは、相変わらず盛況だ。翌日曜日は、ゴールデンウィークの中日のため、店を開ける事になっている。その代わり、連休明けの水曜日が臨時休業となった。
「そういや、水曜日に店を閉めても、佑の休日と被ってるのか。別の日に追加で休みとるか?」
「いえいえ、大丈夫です。今だって、大将や響さんに比べたらお休み貰ってますから」
「おー、偉いじゃん佑。そうだ、その水曜日に行かない? タイ料理」
響は僕に振り向き、そう言った。
「なんだよお前ら、いつそんな話してたんだ。タイ料理って、プルングニーに行くのか?」
「そうそう。お父さんも行く? 奢ってくれるなら大歓迎」
「んー、そうだな……俺も最近、外食してなかったからな。俺も一緒でいいか? 佑」
「も、もちろんです!」
そう答えたが、本当は響と二人きりになれると期待していた自分がいた。
ゴールデンウィーク中は怒濤の忙しさかと思ったが、そこまで混雑はしなかった。連休を利用して、遠出している人たちも多いのだろう。その反動なのか、連休最終日は多くの常連客で賑わった。
「佑くんって、こだまに来てどれくらいになんの? 2ヶ月くらい?」
「いえいえ、まだ1ヶ月弱ですよ。そんな長いこと働いてるように見えますか?」
「まだ、そんなもんか! もう、ずっと居るような気になってたよ。女将さんの顔も忘れそうだわ」
「敏さん、ひどーい。帰ったらお母さんに言いつけよ」
響に言われた常連客の敏さんは、「それは勘弁してくれ~」と戯けて見せた。
「それより、どうなの女将さん? 調子は良くなってるんでしょ?」
「うん。実のところ、店にも顔出せる感じなんだけどね。佑が頑張ってくれてるから、このまま休みな、って大将が言ってたところなの」
「え!? もしかして引退しちゃうって事?」
「そうそう、その方向で考えてるみたい」
女将さんの体調が良くなってきているのは聞いていた。だが、このまま店に出てこないかも知れないってのは今知った。近くで聞いていた常連客も、僕と同様に驚いていた。
もしかして僕は、自分で思っていたより期待されているのかもしれない。
それは……それは、とても嬉しい事だ。
***
ゴールデンウィーク明けの水曜日。今日はタイ料理店、プルングニーに行く日だ。居酒屋こだまの前で待ち合わせる事になっている。マンションを下りていくと、大将と響はタクシーを呼んで、既に待ってくれていた。
「は、早かったんですね、すみません!」
「いや、問題無いよ。俺たちが早く着きすぎたんだ。じゃ行こうか」
タクシーの後部座席に、大将、響、そして最後に僕が乗り込んだ。
大将の体が大きいからか、後部座席は少々窮屈だった。だが、そのお陰で僕と響の二の腕が触れる事になった。服越しとは言え、響に触れたのは初めてかもしれない。店に着くまでの間、僕はずっと二の腕から響を感じていた。
プルングニーというお店は、とても質素な造りだった。アルミサッシのガラス戸を、大将がガラガラと開け、僕たちも続く。
「タイ料理って、こんな感じのお店なんですね。もっと、ちゃんとした、何て言うか……」
「いやいや、タイ料理店も店によって全然違うぞ。この店は、こういうスタイルってだけで。ここは安くて美味いんだ。響もシンハーでいいか? 佑は何飲む?」
響はメニューを見ながら、「はーい」と答えた。気持ちはもう、料理の方へいっているようだ。僕はジンジャエールをお願いします、と大将に伝えた。
最初に運ばれてきたのは、大将たちのシンハーと僕のジンジャエールだった。
「シンハーってビールなんですか。そういうお酒があるのかと思ってました」
「まあ、知らなかったらそうなるわな。でも18歳でタイ料理を体験出来るなんて、俺からしたら羨ましいぞ。俺なんていい歳してからだな、タイ料理を初めて食べたのは」
「まあまあ、それより乾杯しましょ。じゃ皆さん、ゴールデンウィークはよく頑張りました、乾杯!」
響が音頭を取り、僕たちは乾杯をした。
居酒屋こだまは、相変わらず盛況だ。翌日曜日は、ゴールデンウィークの中日のため、店を開ける事になっている。その代わり、連休明けの水曜日が臨時休業となった。
「そういや、水曜日に店を閉めても、佑の休日と被ってるのか。別の日に追加で休みとるか?」
「いえいえ、大丈夫です。今だって、大将や響さんに比べたらお休み貰ってますから」
「おー、偉いじゃん佑。そうだ、その水曜日に行かない? タイ料理」
響は僕に振り向き、そう言った。
「なんだよお前ら、いつそんな話してたんだ。タイ料理って、プルングニーに行くのか?」
「そうそう。お父さんも行く? 奢ってくれるなら大歓迎」
「んー、そうだな……俺も最近、外食してなかったからな。俺も一緒でいいか? 佑」
「も、もちろんです!」
そう答えたが、本当は響と二人きりになれると期待していた自分がいた。
ゴールデンウィーク中は怒濤の忙しさかと思ったが、そこまで混雑はしなかった。連休を利用して、遠出している人たちも多いのだろう。その反動なのか、連休最終日は多くの常連客で賑わった。
「佑くんって、こだまに来てどれくらいになんの? 2ヶ月くらい?」
「いえいえ、まだ1ヶ月弱ですよ。そんな長いこと働いてるように見えますか?」
「まだ、そんなもんか! もう、ずっと居るような気になってたよ。女将さんの顔も忘れそうだわ」
「敏さん、ひどーい。帰ったらお母さんに言いつけよ」
響に言われた常連客の敏さんは、「それは勘弁してくれ~」と戯けて見せた。
「それより、どうなの女将さん? 調子は良くなってるんでしょ?」
「うん。実のところ、店にも顔出せる感じなんだけどね。佑が頑張ってくれてるから、このまま休みな、って大将が言ってたところなの」
「え!? もしかして引退しちゃうって事?」
「そうそう、その方向で考えてるみたい」
女将さんの体調が良くなってきているのは聞いていた。だが、このまま店に出てこないかも知れないってのは今知った。近くで聞いていた常連客も、僕と同様に驚いていた。
もしかして僕は、自分で思っていたより期待されているのかもしれない。
それは……それは、とても嬉しい事だ。
***
ゴールデンウィーク明けの水曜日。今日はタイ料理店、プルングニーに行く日だ。居酒屋こだまの前で待ち合わせる事になっている。マンションを下りていくと、大将と響はタクシーを呼んで、既に待ってくれていた。
「は、早かったんですね、すみません!」
「いや、問題無いよ。俺たちが早く着きすぎたんだ。じゃ行こうか」
タクシーの後部座席に、大将、響、そして最後に僕が乗り込んだ。
大将の体が大きいからか、後部座席は少々窮屈だった。だが、そのお陰で僕と響の二の腕が触れる事になった。服越しとは言え、響に触れたのは初めてかもしれない。店に着くまでの間、僕はずっと二の腕から響を感じていた。
プルングニーというお店は、とても質素な造りだった。アルミサッシのガラス戸を、大将がガラガラと開け、僕たちも続く。
「タイ料理って、こんな感じのお店なんですね。もっと、ちゃんとした、何て言うか……」
「いやいや、タイ料理店も店によって全然違うぞ。この店は、こういうスタイルってだけで。ここは安くて美味いんだ。響もシンハーでいいか? 佑は何飲む?」
響はメニューを見ながら、「はーい」と答えた。気持ちはもう、料理の方へいっているようだ。僕はジンジャエールをお願いします、と大将に伝えた。
最初に運ばれてきたのは、大将たちのシンハーと僕のジンジャエールだった。
「シンハーってビールなんですか。そういうお酒があるのかと思ってました」
「まあ、知らなかったらそうなるわな。でも18歳でタイ料理を体験出来るなんて、俺からしたら羨ましいぞ。俺なんていい歳してからだな、タイ料理を初めて食べたのは」
「まあまあ、それより乾杯しましょ。じゃ皆さん、ゴールデンウィークはよく頑張りました、乾杯!」
響が音頭を取り、僕たちは乾杯をした。
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