18歳(♂)の美人局

靣音:Monet

文字の大きさ
上 下
8 / 36

08_始動

しおりを挟む
 居酒屋こだまで働き出してから、一週間が経った。

 とうとう今日は、秀利に初めて接触する日になる。大将には面接初日に、今日は休暇が欲しいという旨を伝えていた。金曜日が忙しいのは分かっているので、夜間会うのは最後にしたい。

——————————
秀利からメッセージ来た。秀利の予定に変更は無し。もう着替えた? 出来たら写真送ってみて
——————————

 香奈からだ。今日の為に買ったのは、体のラインが出る長袖ティーシャツと、ショートパンツに近いハーフパンツだ。元々体毛は少ない方だが、手足の毛は全て処理しておいた。

——————————
こんな格好で行こうと思ってます。駅までは上着の前を閉めて、下はハーフパンツの上から、ジャージでも穿いていこうかと……
——————————

 僕はそのメッセージと共に、自撮りした画像を送った。

——————————
いいじゃん、いいじゃん!! もうちょっと短いパンツの方が効果ありそうだけど、仕方ないわね・笑 あと、思い切ってリップグロス塗ってみたら? 佑くん、目元がキレイだから、口元だけで随分雰囲気変わると思うわよ。
——————————

 リップグロス……? スマホで検索してみた。なるほど、まるで口紅を塗っているように見える。ものによっては、千円もしないのか。とりあえず、香奈には途中で買ってみると返事を入れておいた。


***


——————————
今日の目的は、秀利とメッセージアプリで繋がる事。それだけで十分。ベストは秀利から声を掛けさせる。次点、佑くんが何かしら声を掛ける。それでも進展が無いようだったら、今日は諦める。
——————————

 今日の計画の一部を、往きの電車で読み返していた。

 もし、香奈に声を掛けられたタイミングが、居酒屋こだまで働き出した後だったら、なんて答えていただろう。

 僕は迷わず、ノーと答えたに違いない。こだまの居心地が良いのか、僕と相性が良かったのかは分からない。ただ、あの場所で働くのは本当に楽しい。客とのふれあいがこんなに良いものだなんて、それまでの僕には想像も付かなかった。

 働き出して一週間しか経たないが、今の正直な気持ちだ。こだまに暖かく迎え入れてくれた大将と響に対しては、後ろめたい気持ちで一杯だった。


 目的地の駅に着き、まずはトイレへ向かった。ドラッグストアで買ったグロスを塗るのと、下のジャージを脱ぐためだ。大将と響は店に入っているので会うことは無いが、店の常連客には会ってしまう可能性がある。なんとしても、今日中に秀利とメッセージアプリで繋がらなくては。

 駅から秀利を待ち構える場所までは、徒歩で5分程。この辺りでは一番大きな繁華街だ。金曜の夜ということもあり、多くの人でごった返している。

 すれ違う人たちの視線が気になった。普段とは違い、確実に見られている気がする。女子高生らしき2人組は、あからさまに僕を見て指を差した。「あの人、どっちだと思う?」そんな会話をしているのかもしれない。そんな数分間を耐えた後、目的の洋風居酒屋が見えてきた。

 その洋風居酒屋の入り口がしっかり見える場所で、僕は壁にもたれ秀利を待つ。香奈の予想時間までは、まだ30分程ある。出来れば早く出てきて欲しい。 


 壁にもたれて待つこと20分。思ったより早く、8人組のグループが店を出てきた。

 その中の一人、薄いグレーのスーツを着た長身の男性、秀利だ……僕は上着のファスナーを下ろし、体に張り付いたティーシャツを露わにした。

 彼らの声は聞こえないが、秀利は「次の店に行こう」と誘われているようだ。だが秀利は顔の前で手を振り、それを断ったように見える。その他のメンバーは秀利に頭を下げ、駅へと向かう彼を見送った。秀利が近づいてくる……僕の心臓が激しく脈を打ち始めた。

 秀利は正面を向いたまま歩み続ける。このままでは僕と目が合わないかもしれない。だが、僕の前を通り過ぎようというタイミングで、彼は僕に気付いた。

 その瞬間、秀利の目が大きく見開かれたのを、僕は見逃さなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

完結【R―18】様々な情事 短編集

秋刀魚妹子
恋愛
 本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。  タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。  好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。  基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。  同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。  ※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。  ※ 更新は不定期です。  それでは、楽しんで頂けたら幸いです。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

処理中です...