4 / 36
04_本名
しおりを挟む
涼香は信頼しあえるよう、個人情報を見せ合おうと提案した。
涼香は運転免許証を出し、僕はマイナンバーカードを取り出した。僕のマイナンバーカードをスマホで撮影する涼香に倣い、僕もWI-FIしか繋がらないスマホで彼女の免許証を撮影した。
免許証を見た僕は驚いた。
涼香という名前は本名では無かったからだ。本名は松本香奈。勝手に20代半ばと思っていたが、実際は32歳だった。
「ごめんね、偽名使ってて。答えがノーなら、この話し流れてたから。でも、これで私も嘘をつけない。これからは一心同体だからね」
彼女は今までと変わらない表情でそう言った。
そして旦那の情報も聞いた。名は松本秀利、年齢は37歳。
「松本ホールディングスって知ってるよね? 彼の実家は、創業者一族なのよ。彼も一応、社長なんてやらせて貰ってるけど、小さな子会社でね。そんな小さな会社にも関わらず、彼はお飾り社長でしかないの」
松本ホールディングスの名前は、高校を卒業したばかりの僕でも知っていた。地元が生んだ、数少ない大企業の一つだ。
秀利は松本4兄弟の末っ子らしい。長男が父のポジションを引き継ぎ、次男は新たな事業を展開していく中、秀利のみは凡庸で見込みも無いという。また、事業には関わっていないが、2歳上の長女もいるそうだ。
「そうか……子会社とは言え、社長だから慰謝料が跳ね上がるんですね……」
「違うよ、佑くん。まず、佑くんとの浮気現場を押さえた私は、長男の秀正さんに相談するの。秀利さんが男の子と、しかも10代の子と浮気してるってね。私は別れますって言うの。でも、黙って別れはしないって。この怒りを静めるには、週刊誌にこの情報を売るかもしれないとか、そんな脅しも交えつつね。こんな事が明るみに出たら、松本ホールディングスに大きな傷が付くのは確実。結果、私を黙らせるために大きな額を用意すると睨んでる」
涼香……いや、香奈は恐ろしい人だ。確かに、莫大な慰謝料を手に入れる事が出来そうな気がする。だが、これは立派な犯罪だろう。捕まってしまう可能性だって、十分にある。
「その……失敗しちゃうと捕まりますよね? これって」
「失敗? バレたらヤバいって事と言えば、こうやって佑くんと会ってる事くらいじゃない? 計画が始まったら、佑くんは佑くんで秀利に接近する。私は私で、探偵なんかに秀利と佑くんの事を調べさせる。だから、佑くんと会うのは今日が最後。次に連絡する時は、スマホでのやりとりになるかな」
「ぼ、僕はまだスマホの契約が済んでないです」
僕がそう言うと、香奈はバッグから封筒を取り出した。
「ここに50万円入ってる。これでスマホを契約して。もちろん、月々の支払いもね。台数は二台、佑くんと私の」
「ご、50万円ですか……」
「実は佑くんに会った携帯ショップで、新たな回線を申し込もうか迷ってたの。こういったやりとりをするためのね。でも、私名義の契約は極力無い方がいい。だからちょうど良かったの。スマホが手に入ったら、免許証の住所に送って。送付人の箇所は、もちろん佑くんの名前を書いちゃダメよ」
どうやって秀利に接近するのか、何かトラブルが起きたときはどうするのか、お金のやり取りはどうするのか、それは全てスマホが届いてからの連絡になると、香奈は言った。
「じゃ、今日はこのくらいで。って言うか、もう会うことは無いか。でも安心して、お金は必ず渡すから。……じゃ、佑くん。健闘を祈ってる」
そう言うと、香奈は昨日のように伝票を取り上げ、先に店を出て行った。
涼香は運転免許証を出し、僕はマイナンバーカードを取り出した。僕のマイナンバーカードをスマホで撮影する涼香に倣い、僕もWI-FIしか繋がらないスマホで彼女の免許証を撮影した。
免許証を見た僕は驚いた。
涼香という名前は本名では無かったからだ。本名は松本香奈。勝手に20代半ばと思っていたが、実際は32歳だった。
「ごめんね、偽名使ってて。答えがノーなら、この話し流れてたから。でも、これで私も嘘をつけない。これからは一心同体だからね」
彼女は今までと変わらない表情でそう言った。
そして旦那の情報も聞いた。名は松本秀利、年齢は37歳。
「松本ホールディングスって知ってるよね? 彼の実家は、創業者一族なのよ。彼も一応、社長なんてやらせて貰ってるけど、小さな子会社でね。そんな小さな会社にも関わらず、彼はお飾り社長でしかないの」
松本ホールディングスの名前は、高校を卒業したばかりの僕でも知っていた。地元が生んだ、数少ない大企業の一つだ。
秀利は松本4兄弟の末っ子らしい。長男が父のポジションを引き継ぎ、次男は新たな事業を展開していく中、秀利のみは凡庸で見込みも無いという。また、事業には関わっていないが、2歳上の長女もいるそうだ。
「そうか……子会社とは言え、社長だから慰謝料が跳ね上がるんですね……」
「違うよ、佑くん。まず、佑くんとの浮気現場を押さえた私は、長男の秀正さんに相談するの。秀利さんが男の子と、しかも10代の子と浮気してるってね。私は別れますって言うの。でも、黙って別れはしないって。この怒りを静めるには、週刊誌にこの情報を売るかもしれないとか、そんな脅しも交えつつね。こんな事が明るみに出たら、松本ホールディングスに大きな傷が付くのは確実。結果、私を黙らせるために大きな額を用意すると睨んでる」
涼香……いや、香奈は恐ろしい人だ。確かに、莫大な慰謝料を手に入れる事が出来そうな気がする。だが、これは立派な犯罪だろう。捕まってしまう可能性だって、十分にある。
「その……失敗しちゃうと捕まりますよね? これって」
「失敗? バレたらヤバいって事と言えば、こうやって佑くんと会ってる事くらいじゃない? 計画が始まったら、佑くんは佑くんで秀利に接近する。私は私で、探偵なんかに秀利と佑くんの事を調べさせる。だから、佑くんと会うのは今日が最後。次に連絡する時は、スマホでのやりとりになるかな」
「ぼ、僕はまだスマホの契約が済んでないです」
僕がそう言うと、香奈はバッグから封筒を取り出した。
「ここに50万円入ってる。これでスマホを契約して。もちろん、月々の支払いもね。台数は二台、佑くんと私の」
「ご、50万円ですか……」
「実は佑くんに会った携帯ショップで、新たな回線を申し込もうか迷ってたの。こういったやりとりをするためのね。でも、私名義の契約は極力無い方がいい。だからちょうど良かったの。スマホが手に入ったら、免許証の住所に送って。送付人の箇所は、もちろん佑くんの名前を書いちゃダメよ」
どうやって秀利に接近するのか、何かトラブルが起きたときはどうするのか、お金のやり取りはどうするのか、それは全てスマホが届いてからの連絡になると、香奈は言った。
「じゃ、今日はこのくらいで。って言うか、もう会うことは無いか。でも安心して、お金は必ず渡すから。……じゃ、佑くん。健闘を祈ってる」
そう言うと、香奈は昨日のように伝票を取り上げ、先に店を出て行った。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
完結【R―18】様々な情事 短編集
秋刀魚妹子
恋愛
本作品は、過度な性的描写が有ります。 というか、性的描写しか有りません。
タイトルのお品書きにて、シチュエーションとジャンルが分かります。
好みで無いシチュエーションやジャンルを踏まないようご注意下さい。
基本的に、短編集なので登場人物やストーリーは繋がっておりません。
同じ名前、同じ容姿でも関係無い場合があります。
※ このキャラの情事が読みたいと要望の感想を頂いた場合は、同じキャラが登場する可能性があります。
※ 更新は不定期です。
それでは、楽しんで頂けたら幸いです。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる