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01_出会い
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「申し訳ございません、クレジットカード、もしくは銀行口座をお持ちで無いお客様は、ご契約頂けない規約になっておりまして……」
「現金ならあるんです、半年分を前払いなんかじゃ無理でしょうか?」
「申し訳ございません、そういう規約となっておりますので……とりあえず、銀行口座を開設されてからもう一度お越し頂ければと。——また、お客様が未成年の場合でしたら、こちらの注意書きもご参照ください」
「わ、分かりました、ありがとうございます……」
注意書きとやらを受け取った僕は、格安回線を謳う携帯ショップを出た。
マイナンバーカードと現金さえ持っていれば、契約出来ると思い込んでいた。お金があっても出来ない事がある。18歳の僕は、その事実を初めて知った。
「ちょっとちょっと、お兄さん? お兄さんでいいのよね?」
店を出てしばらくすると、背後から声を掛けられた。振り返ると、清楚な雰囲気を醸し出した綺麗な女性がいる。歳は20代半ばくらいだろうか。
「ぼ、僕の事でしょうか?」
「あ、やっぱり男の子なんだね! ちょっと今時間いい? 良かったら、そこの喫茶店入らない?」
僕は女性に間違われる事が度々あった。背は低いし、マメにカットしない髪型のせいもあるかもしれない。そもそも顔が中性的なのだ。
「時間ならありますけど……どんな用件でしょうか?」
「時間あるのね! じゃ、続きは中で話しましょ!」
彼女はそう言うと、半ば強引に僕を喫茶店に押し込んでしまった。
「ごめんね、乱暴な誘い方しちゃって。コーヒーでいい? コーラとかのがいいかな?」
彼女はそう言うとタバコに火を付けた。
清楚な見た目とは裏腹に、とても美味しそうにタバコの煙を吸い込む。
「じゃ、コーラお願いします。えーと、それよりお話しって……」
「まあまあ。飲み物来たら話すから。もうちょっと待ってね」
彼女は再び、タバコの煙を深く吸い込んだ。
最近では珍しい、古めかしい喫茶店だった。広いとは言えない店内では、他の客席からも煙が立ち上がっている。
「ケータイ、契約出来なかったんだね。クレカとか無いんだ。今いくつなの? まだ高校生?」
どうやら彼女は、携帯ショップでのやりとりを見ていたらしい。
「3月で18歳になったばかりで、高校卒業したところです。この4月から社会人……って言っても、仕事も何も決まってないんですけど」
「そうなんだ。親は? ケータイの契約くらい手伝ってくれてもいいのに」
「高校卒業と同時に、家を出ていけって言われて。もう一人で生きて行けるだろうって。一応、新居の契約金と、6ヶ月分の家賃だけは払ってくれたんですけど」
「ハハハそうなんだ、面白い家庭だね。って事は、一人暮らしなんだ?」
「え、ええ……って言っても、一人暮らしを始めたのは昨日からですけど」
「昨日からなんだ! 一人暮らしはお金掛かるからねー。手持ちのお金はどのくらいあるの?」
彼女はサラッとそんな質問を織り交ぜてきた。普通、初対面でこんな質問を投げかけてくるだろうか? 戸惑いながらも、僕は正直に答えていた。
「……30万円です。これも親が卒業祝いって言って渡してくれました」
「30万円かー。一瞬で無くなるだろうね。仕事も決まってないなら、なおさら。で、親とは仲良いの? 一応、お金も出してくれてるし、親密なんだよね?」
「どうでしょう……多分、僕に一人暮らしをさせたのは、新しい彼女と一緒に住みたいだけなんだと思います。まあ、僕もあの家にずっと居たいとは思いませんでしたが……」
「そっか。……じゃあさ、そろそろ本題に入るけど、お金欲しい?」
ずっと笑みを浮かべていた彼女が、初めて神妙な面持ちを見せた。
僕は何かの詐欺に、巻き込まれようとしているのだろうか。頭を過ったのはそんな事だった。
「そ、そりゃ欲しいですけど……仕事か何かですか?」
「仕事か……仕事と言えば仕事なのかな。——ハッキリ言っちゃうと、ちょっとグレー。いや、かなりグレーかもしんない。その代わり、成功すれば君の……そう言えば名前は?」
「い、伊藤佑です」
「ユウくんね、良い名前じゃん。ユウってどんな漢字?」
「に……にんべんに右って書きます」
「あ、この字か。シンプルで良い字だね」
彼女はスマホに僕の名前を入力しているようだった。
「ああ、もうこんな時間か。佑くん、明日また出てこられる? えーと、この喫茶店の前に。時間は……午前11時。大丈夫?」
「は、はい、大丈夫です」
「じゃ、続きはまた明日話すから。それから、この話は誰にも言っちゃダメよ。絶対に」
そんなセリフを残すと彼女は伝票を取り上げ、さっさと喫茶店を出て行ってしまった。
……そう言えば、彼女の名前はなんて言うのだろうか。
「現金ならあるんです、半年分を前払いなんかじゃ無理でしょうか?」
「申し訳ございません、そういう規約となっておりますので……とりあえず、銀行口座を開設されてからもう一度お越し頂ければと。——また、お客様が未成年の場合でしたら、こちらの注意書きもご参照ください」
「わ、分かりました、ありがとうございます……」
注意書きとやらを受け取った僕は、格安回線を謳う携帯ショップを出た。
マイナンバーカードと現金さえ持っていれば、契約出来ると思い込んでいた。お金があっても出来ない事がある。18歳の僕は、その事実を初めて知った。
「ちょっとちょっと、お兄さん? お兄さんでいいのよね?」
店を出てしばらくすると、背後から声を掛けられた。振り返ると、清楚な雰囲気を醸し出した綺麗な女性がいる。歳は20代半ばくらいだろうか。
「ぼ、僕の事でしょうか?」
「あ、やっぱり男の子なんだね! ちょっと今時間いい? 良かったら、そこの喫茶店入らない?」
僕は女性に間違われる事が度々あった。背は低いし、マメにカットしない髪型のせいもあるかもしれない。そもそも顔が中性的なのだ。
「時間ならありますけど……どんな用件でしょうか?」
「時間あるのね! じゃ、続きは中で話しましょ!」
彼女はそう言うと、半ば強引に僕を喫茶店に押し込んでしまった。
「ごめんね、乱暴な誘い方しちゃって。コーヒーでいい? コーラとかのがいいかな?」
彼女はそう言うとタバコに火を付けた。
清楚な見た目とは裏腹に、とても美味しそうにタバコの煙を吸い込む。
「じゃ、コーラお願いします。えーと、それよりお話しって……」
「まあまあ。飲み物来たら話すから。もうちょっと待ってね」
彼女は再び、タバコの煙を深く吸い込んだ。
最近では珍しい、古めかしい喫茶店だった。広いとは言えない店内では、他の客席からも煙が立ち上がっている。
「ケータイ、契約出来なかったんだね。クレカとか無いんだ。今いくつなの? まだ高校生?」
どうやら彼女は、携帯ショップでのやりとりを見ていたらしい。
「3月で18歳になったばかりで、高校卒業したところです。この4月から社会人……って言っても、仕事も何も決まってないんですけど」
「そうなんだ。親は? ケータイの契約くらい手伝ってくれてもいいのに」
「高校卒業と同時に、家を出ていけって言われて。もう一人で生きて行けるだろうって。一応、新居の契約金と、6ヶ月分の家賃だけは払ってくれたんですけど」
「ハハハそうなんだ、面白い家庭だね。って事は、一人暮らしなんだ?」
「え、ええ……って言っても、一人暮らしを始めたのは昨日からですけど」
「昨日からなんだ! 一人暮らしはお金掛かるからねー。手持ちのお金はどのくらいあるの?」
彼女はサラッとそんな質問を織り交ぜてきた。普通、初対面でこんな質問を投げかけてくるだろうか? 戸惑いながらも、僕は正直に答えていた。
「……30万円です。これも親が卒業祝いって言って渡してくれました」
「30万円かー。一瞬で無くなるだろうね。仕事も決まってないなら、なおさら。で、親とは仲良いの? 一応、お金も出してくれてるし、親密なんだよね?」
「どうでしょう……多分、僕に一人暮らしをさせたのは、新しい彼女と一緒に住みたいだけなんだと思います。まあ、僕もあの家にずっと居たいとは思いませんでしたが……」
「そっか。……じゃあさ、そろそろ本題に入るけど、お金欲しい?」
ずっと笑みを浮かべていた彼女が、初めて神妙な面持ちを見せた。
僕は何かの詐欺に、巻き込まれようとしているのだろうか。頭を過ったのはそんな事だった。
「そ、そりゃ欲しいですけど……仕事か何かですか?」
「仕事か……仕事と言えば仕事なのかな。——ハッキリ言っちゃうと、ちょっとグレー。いや、かなりグレーかもしんない。その代わり、成功すれば君の……そう言えば名前は?」
「い、伊藤佑です」
「ユウくんね、良い名前じゃん。ユウってどんな漢字?」
「に……にんべんに右って書きます」
「あ、この字か。シンプルで良い字だね」
彼女はスマホに僕の名前を入力しているようだった。
「ああ、もうこんな時間か。佑くん、明日また出てこられる? えーと、この喫茶店の前に。時間は……午前11時。大丈夫?」
「は、はい、大丈夫です」
「じゃ、続きはまた明日話すから。それから、この話は誰にも言っちゃダメよ。絶対に」
そんなセリフを残すと彼女は伝票を取り上げ、さっさと喫茶店を出て行ってしまった。
……そう言えば、彼女の名前はなんて言うのだろうか。
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