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一周目の時間軸では(7)sideルディリーナ公爵夫人
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「お母様、どうにかできませんか?」
婚約か決まったあの日の夜、寝間着姿で私の部屋を訪れたハルはお気に入りのぬいぐるみを抱きしめて上目遣いでお願いしてきた。
あまりの可愛さに身悶えしそうだった。
目は涙で潤んでいて、恐ろしいほどの破壊力がある。
「ごめんなさい、ハル。王命を私たちは断ることができないの。許してちょうだい。」
ハルの瞳から大粒の涙がこぼれた。
「お母様、私、あんな人と結婚してずっと一緒にいなきゃ駄目なの?」
「ハル、あなたは皇太子殿下のことをあんな人と悪く言うけど、とても優しい人よ。礼儀正しくて、あなたと婚約するために何回も私たちにお願いしてきたの。とてもいい人だったわ。だからそんなに嫌がることなんてないのよ。」
私のその一言にハルは目を見開いた。ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる手を震わせた。
「ありえ、ない・・・。」
「どうしたの、ハル?」
「そんなわけない!!あんな、初対面であんなこと言う人がそんなことするわけない!!お母様は騙されてるの。皇太子様の外だけ見て内は何も見てない。あんなひどいこと言った人が私のこと好きだなんてありえない。」
ハルは首を大きく振って拒否する。
「ハル、落ち着いて。大丈夫だから。」
ハルの頭を優しくなでようとした。
「触らないで!!」
「えっ!?」
ハルの拒絶の声に私は驚いた。
体を震わせて、泣いて、いた。
「なにも、知らないくせに。なんであの人がいい人だって言えるの?上っ面しか見てないじゃない!!」
どうして、そんな・・・。
「お母様も、お父様も。どうしてうそばっか言うの!?勘違いばっかするの!?なんでちゃんと私の話聞いてくれないの!!」
心からの叫びだった。
「落ち着いて、ハル。ちゃんと話、聞くわ。だから・・・。」
「聞くだけじゃない!!どうせ信じてくれないくせに!!」
ああ、もう駄目だ。
今のハルに何を言っても聞いてくれない。
「皇太子様も嘘つき!私が、愛されてるわけがないのに。私の話ちゃんと聞いてくれないお父様とお母様、お兄様が私のこと愛してくれているわけがないのに!可愛がってくれているわけがないのに!!」
寝間着の袖で涙を拭いたハルは何も言わずそのまま部屋から出て行った。
なにも声をかけることができなかった。
手が震えていることに、今気づいた。
私は恐れていたのだ。
ハルが私を母と呼ばなくなることを。
子は母に追い詰められれば母と呼ばなくなる、という話を知り合いの夫人から聞いた。
とても悲しそうな顔をしていた。
その瞳は後悔で塗りつぶされていた。
多分、今の私は彼女と同じ顔をしているだろう。
ハルから拒絶された。
それは、とても悲しいことだった。
つらかった。
でも、つらいのは私だけ?
ハルもきっとつらいはず。
私にも、ハヴェスにもまともに取り合ってもらえず泣いていたあの子が一番つらいはずだ。
私はそれから何度もハルと話し合おうとした。
だけどその頃からハルの皇太子妃教育が中盤に差し掛かり、ろくに話す時間もとれなくなってしまった。
そんなこんなしているうちに、結婚式の日が来てしまった。
婚約か決まったあの日の夜、寝間着姿で私の部屋を訪れたハルはお気に入りのぬいぐるみを抱きしめて上目遣いでお願いしてきた。
あまりの可愛さに身悶えしそうだった。
目は涙で潤んでいて、恐ろしいほどの破壊力がある。
「ごめんなさい、ハル。王命を私たちは断ることができないの。許してちょうだい。」
ハルの瞳から大粒の涙がこぼれた。
「お母様、私、あんな人と結婚してずっと一緒にいなきゃ駄目なの?」
「ハル、あなたは皇太子殿下のことをあんな人と悪く言うけど、とても優しい人よ。礼儀正しくて、あなたと婚約するために何回も私たちにお願いしてきたの。とてもいい人だったわ。だからそんなに嫌がることなんてないのよ。」
私のその一言にハルは目を見開いた。ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめる手を震わせた。
「ありえ、ない・・・。」
「どうしたの、ハル?」
「そんなわけない!!あんな、初対面であんなこと言う人がそんなことするわけない!!お母様は騙されてるの。皇太子様の外だけ見て内は何も見てない。あんなひどいこと言った人が私のこと好きだなんてありえない。」
ハルは首を大きく振って拒否する。
「ハル、落ち着いて。大丈夫だから。」
ハルの頭を優しくなでようとした。
「触らないで!!」
「えっ!?」
ハルの拒絶の声に私は驚いた。
体を震わせて、泣いて、いた。
「なにも、知らないくせに。なんであの人がいい人だって言えるの?上っ面しか見てないじゃない!!」
どうして、そんな・・・。
「お母様も、お父様も。どうしてうそばっか言うの!?勘違いばっかするの!?なんでちゃんと私の話聞いてくれないの!!」
心からの叫びだった。
「落ち着いて、ハル。ちゃんと話、聞くわ。だから・・・。」
「聞くだけじゃない!!どうせ信じてくれないくせに!!」
ああ、もう駄目だ。
今のハルに何を言っても聞いてくれない。
「皇太子様も嘘つき!私が、愛されてるわけがないのに。私の話ちゃんと聞いてくれないお父様とお母様、お兄様が私のこと愛してくれているわけがないのに!可愛がってくれているわけがないのに!!」
寝間着の袖で涙を拭いたハルは何も言わずそのまま部屋から出て行った。
なにも声をかけることができなかった。
手が震えていることに、今気づいた。
私は恐れていたのだ。
ハルが私を母と呼ばなくなることを。
子は母に追い詰められれば母と呼ばなくなる、という話を知り合いの夫人から聞いた。
とても悲しそうな顔をしていた。
その瞳は後悔で塗りつぶされていた。
多分、今の私は彼女と同じ顔をしているだろう。
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つらかった。
でも、つらいのは私だけ?
ハルもきっとつらいはず。
私にも、ハヴェスにもまともに取り合ってもらえず泣いていたあの子が一番つらいはずだ。
私はそれから何度もハルと話し合おうとした。
だけどその頃からハルの皇太子妃教育が中盤に差し掛かり、ろくに話す時間もとれなくなってしまった。
そんなこんなしているうちに、結婚式の日が来てしまった。
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