王太子様は敵国の精霊使いにご執心

ルー

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第一章 精霊使い

ラピスラズリ大帝国へ

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「頼む・・・あと5発だけもってくれ!」

アーサーはじっと火の玉を見つめた。残りの5発の火の玉はいっせいにエレノア達へと襲い掛かってきた。

「くっ!」

精霊使い達が苦し気に息をつく。自身のもてる限りの魔力をすべて放出して防いでいる。

「エレノア!」

苦し気な表情をしたエレノアを見てアーサーが身を乗り出す。やっと火の玉の攻撃が終わり、猛攻がいったんやむ。精霊使い達は結界を外すと走って河をわたる。そして待ち構えていたアーサーとシオンと一緒に走って逃げて行った。








「逃げていきましたね。どうしますか?」

ラピスラズリ大帝国側で軍の大佐のユリウス・ミーネが尋ねた。

「深追いはよくないわ。」

白いローブを着た銀髪の少女は冷静に状況を判断する。

「私はいったん皇都に戻るわ。またなんかあったら連絡して頂戴。」

少女はユリウスに言う。

「かしこまりました。大将閣下もお気を付けて。」

ユリウスは頭を下げ少女を見送った。





「敗北・・・か。一応こちらから謝罪文を送ったが読んでいる保証はない。次に備えるよう騎士に伝えておけ。」

ランピード王国の国王セドリック・ヒースクリフ・ランピードは難しい顔をする。

「僕はとりあえずエレノアが無事だったのでそれでよかったです。」

アーサーが言うとエレノアが気恥ずかし気に言う。

「お兄様ったら私の心配ばかりなさるのですよ。恥ずかしくて!」

「まあ、かわいがられているのだから喜びなさい、エレノア。」

セドリックの隣に座るランピード王国の王妃アイリスは優しく微笑む。

「そういうものなのですね。」

エレノアは不満そうにうなずいた。

「詳しいことは決まり次第知らせる。一度解散だ。」

セドリックの言葉に王族、軍関係者たちはいっせいに席を立つ。

「お兄様、今からお茶しませんか?」

会議室を出たアーサーにエレノアが駆け寄ってくる。

「エレノア、ごめんね。僕は今から用事があるからお茶できないんだ。また今度にしてくれる?」

アーサーは困ったように言う。

「・・・。」

エレノアは無言でポトリと涙を落とす。

「エレノア!?」

ぎょっとするアーサーにエレノアは言う。

「どうしてもだめなんですか?」

「わかった、10分だけだよ。」

アーサーは渋々うなずいた。

「では、私の宮に来てくださいませ!」

心底嬉しそうに笑ったエレノアに手を引かれ、アーサーはエレノアの住む宮、春の宮へと行った。


エレノア専属のメイドが置いたお菓子をおいしそうに食べるエレノアをアーサーは真顔で見つめた。

「お兄様?お食べにならないのですの?」

お菓子にも紅茶にも手を付けようとしないアーサーを不思議に思ったのかエレノアが尋ねた。

「あ、いや。もちろん食べるよ。」

にっこりと笑ったアーサーを見てエレノアが言う。

「お兄様。何か隠し事をしておりませんか?」

「な、何のことかな?」

視線を他所に向けたアーサーにエレノアはため息をつく。

「バレバレなのです。お兄様は嘘が下手ですから。」

あきらめたアーサーは言った。

「ちょっとラピスラズリ大帝国に行こうかなと思っているんだ。」

「はあ!?」

突然の宣言にエレノアは素っ頓狂な声をあげ、アーサーの顔を凝視した。

「お兄様、冗談ですよね。」

しばらくしてエレノアがひきつったような表情で尋ねた。

「いや、冗談ではないけど。」

真面目な表情で言ったアーサーにエレノアはあきらめたような表情になった。

「それで、ラピスラズリ大帝国に行く理由は何なのですか?」

「戦場の悪魔に求婚したいから。」

アーサーの答えをきいたエレノアは言う。

「お父様には?」

「もちろん秘密だよ。言えるわけがない。」

アーサーが首を振ったのを見てエレノアはほっとする。これで言うと言われたらたまったもんじゃない。

「それで、いつたつのですか?」

「今日の夜にでも。」

「私の誘いを断ったのはこれが理由ですか・・・。」

呆れたような表情でエレノアはため息をつく。

「もし、戦場の悪魔さんに会えて求婚できたとしても結婚できるかは別ですからね。」

「わかっている。」

アーサーが頷くのを見た後にエレノアはぼやく。

「全くお兄様はこんな時期に敵国に行くだなんて。捕虜にされる可能性もあるのに・・・。」

「父上にはうまく言っておいてくれる?」

アーサーが頼むとエレノアはうなだれる。

「わかりましたわ。軍会議の方もでしょう。お父様に怒られるのが目に見えてますわ。」

「そういうことでよろしくね。こっちは側近には伝えておくから。」

「わかりました。」

エレノアはうなずいた。

「じゃあ。」

アーサーは席を立つと自分の宮、冬の宮へと護衛と側近を連れて戻っていった。

「殿下、正気ですか?」

宮に戻って開口一番にそういったのはアーサーの側近のシリウスだった。

「正気だよ。連れて行くのはシリウスとレイだけだから。」

「護衛一人だけですか?」

アーサーの言葉に目を剝いたシリウスは思わず言う。

「そうだよ。あまり大所帯で行っても怪しがられるだけだからね。」

アーサーが言う。

「断られるとは微塵も考えてないのですね。」

シリウスは呆れ顔で言う。絶対的な自信を持つ主君にはどれだけ苦労させられてきたことかと内心ぼやく。

「・・・考えていなかったよ。」

アーサーが深刻な表情で言う。

「いや、求婚するんですから、断られる可能性は十分ありますよね!?」

シリウスは思わず叫ぶ。

「悪かった。断られたら、どうして駄目なのか聞き、改善するよ。」

悪びれずに言うアーサーにシリウスは肩を落とす。

「つまり受け入れてくれるまで帰るつもりはないと言いたいのですね。」

「当然そうだろう。」

自信満々に言うアーサーにシリウスは内心これは大変なことになるぞとは思いながらも成り行きに身を任せていた。


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