王太子様は敵国の精霊使いにご執心

ルー

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第一章 精霊使い

戦場の悪魔

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怒号が鳴り響く戦場に立ったアーサー・ヒースクリフ・ランピードは厳しい表情で戦場を見つめた。

「わざわざ来てくれてありがとう。」

アーサーの隣に立ったシオン・ユークリウッドが言うと、アーサーは微笑んだ。

「当然だよ。親友の国の危機に何もしない人がいるか。」

「それは建前で、本当はあの精霊使いを見たいだけなんでしょ。」

シオンがあきれ顔で言う。

「あはは、半々だよ。」

アーサーが笑う。

「それにしても、ラピスラズリ大帝国がユークリウッド皇国を攻めてくるだなんて。あの名君らしかぬ行動だね。」

アーサーが考え込む。

「それなら、こっちに非があるよ。」

シオンが悔し気に言う。

「なにがあったの?」

「兄上が冤罪でミリアナ嬢を悪者にして婚約破棄したことは知ってるよね?」

シオンが尋ねるとアーサーはうなずいた。

「知ってるよ。馬鹿なことをしてるなとは思ってたけど。」

「父上と母上は兄上を廃嫡にして公爵家に謝ったんだけど、公爵家からは何の返事も来なくて、気づいた時にはミリアナ嬢と公爵家はラピスラズリ大帝国に助けを求めていたんだ。つまり、皇家からの謝罪文が届いていなかったということだ。何よりもまずかったのはミリアナ嬢がラピスラズリ大帝国の有力貴族アズルシャ大公家の一人娘であったことだ。」

「つまり、ミリアナ嬢は公爵家に養子に入っていたってことだよね?」

アーサーが確認するとシオンはうなずいた。

「そういうこと。それで怒った大公は皇帝に直訴した。忠実な臣下の頼みならと皇帝は軍を動かした。だけどランピード王国が加勢するとは思はなかったから今は劣勢っていう所かな?」

「ということは、精霊使いがでてくるかもしれないっていうことだよね?楽しみだな。」

アーサーが朗らかに笑う。

「アーサー、負けるかもしれない戦いでニコニコ笑っている人初めて見たよ。」

シオンがあきれ顔で言う。

「あ、ごめんね?」

アーサーの軽い謝罪にシオンは苦笑いする。

「で、出たー!」

戦場の一角から悲痛な叫び声が聞こえた。

「なにが出たんだ?」

いち早く反応したシオンに一人の騎士が通信具をもって駆け寄る。

「大変です!戦場の悪魔が現れました!」

通信具からひどく慌てた男の声が聞こえる。

「戦場の悪魔?」

戦場の悪魔という言葉に反応したアーサーはひどく驚いた。

「それで?戦況は?」

シオンが通信具先にいる味方に尋ねた。

。」

男の言葉に違和感を覚えたのはアーサーだった。

「君、今どこにいるの?」

「え、戦場ですが・・・。」

男の戸惑ったような声が通信具から流れる。

「そうじゃなくて、戦場のどこにいるのか聞いてるんだけど。」

アーサーのいらだったような声があたりに響く。

「も、申し訳ありません!ユークリウッド皇国とラピスラズリ大帝国との国境近くにいます。」

男の焦ったような声にシオンが戸惑った。

「君、何を言ってるのかな?前衛は国境よりも奥に行ってたはずだけど。それに、国境近くに通信具を持った騎士は配置していないなぁ。」

シオンの言葉に通信具の向こうにいる男の気配が変わった。慌てたような雰囲気からずっしりと重い殺気に変わった。

「もしかして、君、ラピスラズリ大帝国の騎士?」

シオンが尋ねると通信具の向こうにいる男は笑った。

「正解ですよ。滑稽なものですよね。まあ、時間稼ぎができたのでそれでいいですけどね・・・。」

「時間稼ぎだと?それはどういうことだ!」

怒鳴るシオンを男は嘲笑う。

「そのままの意味ですよ。大将閣下の魔法陣が発動するまでの時間稼ぎです。」

「なん・・・だと・・・!」

シオンが絶句する。

「シオン伏せろ!」

アーサーが怒鳴り声をあげ、慌ててシオンが地面に伏せる。直後遠くの空に巨大な魔法陣が現れ、真っ白に光ると次の瞬間無数の巨大な火の玉が空を覆っていた。

「なんだあれは・・・。」

最初に魔法陣が発動するための衝撃波が来て、次に来るのはあの火の玉だ。

「衝撃波だけでもとんでもない威力だったというのにそこにあの火の玉が来たらひとたまりもない!」

シオンが通信具を口元に寄せる

「全軍に通達する!早急にその場を離れ、身の安全を確保しろ!」
次々と通信具から了解という短い返事が届く。火の玉は放たれることなく上空をぐるぐると回っている。

「なぜすぐに放たないのだ?」

戸惑ったようにシオンが言う。

「逃げる猶予をくれているのか、狙いを定めているだけなのか・・・。シオン、とりあえず逃げよう!」

アーサーはシオンとともに馬に飛び乗り、ユークリウッド皇国側に逃げていく。

「普通は射程距離は5キロほどだが・・・。」

「普通じゃないからね。軽く10キロは超えるんじゃあないかな。」

シオンとアーサーは互いに頷く。

「ここら辺が安全かな。」

ようやく馬をとめたアーサーとシオンの周りにはユークリウッド皇国とランピード王国の連合軍の面々が集まってきた。

「どうしますか、シオン参謀、アーサー大佐。」

そのうちの一人、連合軍の指揮を任されているルゼラ・ヴィンが言った。

「いったん引くしかないね。あの魔法がある限りは迂闊に近づけない。」

アーサーが残念そうに言った。

「引くとしても、逃げ場はないも同然だね。」

前には戦場の悪魔、後ろにはユークリウッド皇国最大の河ユフェニス河がある。

「わたっている最中に攻撃されたら一巻の終わりだ。とりあえず応急処置になるが・・・けがをしている者のみ河を渡らせ、避難させろ。無事な者はここに残れ!精霊使いは多重結界を張れ!」

シオンの言葉に次々と騎士たちは動き出す。けがをしている者を手助けし、河を渡らせる者、多重結界を張るために精霊を呼び出すもの・・・様々だった。怪我人を全員避難させてからすぐだった。

「来ます!」

精霊使いのうちの一人が声をあげ、集まった30人ほどの精霊使い達が一斉に詠唱する。

「大きいな・・・。」

シオンは迫りくる火の玉をこわばった表情で見つめた。

「どれだけ耐えられるかが勝敗の分れ目だね。」

「合計50発くらいだから半分耐えられればそれでよしだね。もう半分は・・・無理かもしれないね。」

アーサーとシオンは顔を見合わせた。緊張に体が震える。

「くっ!」

火の玉が一斉に多重結界にぶつかり、衝撃で地面を揺らす。あまりの勢いにいっきに結界が破られる。30枚あった結界が今はたった5枚だ。

「これは・・・無理かもしれないね。」

半分あきらめ気味にシオンが言う。

「皆、精霊使い以外はいったん引いて!倒れてる精霊使いは連れて行って!」

代わりにアーサーが指示を出す。

「はい!」

騎士たちはいっせいに返事をすると動きだした。

「エレノア、あとどのくらい耐えられる?」

アーサーが振り返りざまに一人の精霊使いに尋ねた。

「もってあと10分です。」

エレノア・ヒースクリフ・ランピードは言った。

「お兄様も早く逃げてください!」

エレノアは必至の形相で言う。

「そんなことできない!妹をおいて逃げるだなんて!」

アーサーが怒鳴る。シオンが周りを見回して言った。

「騎士はあらかた逃げたようだね。火の玉は残り10発前後。全部受け止めたら結界を解除して逃げるよ。アーサーと僕は河の向こうにいるから。」

「分かりました。」

エレノアが答える。

「アーサー、行こう。」

シオンがアーサーに言う。

「でも、エレノアをおいて逃げるのは・・・。」

渋るアーサーにシオンは諭すように言う。

「逃げるわけじゃあない。僕たちは河の向こうで待ってるだけだ。」

アーサーが下を向く。

「わかった。」

アーサーがうなずき、シオンがほっとしたように言う。

「じゃあ行こうか。」

シオンとアーサーは河をわたりきり、河の向こう側からエレノア達5人の精霊使いを見つめた。

「頼む・・・あと5発だけだ。もってくれ!」

アーサーはじっと火の玉を見つめた。

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