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ハルがリリアナの宮に突撃してから三日経った日の午後、皇族たちは全員謁見の間に集められていた。

「何故呼ばれたのか分からない者をいるだろう。」

皇帝アイザック・フィルア・ルディスラはそう前置きをして話始めた。

「隣国ヴァイン王国から国王の名で書かれた手紙が届いた。すでにハルに調査を任せてはいたが、こんなにも早くヴァイン王国から手紙が来るとは思ってもいなかった。私の落ち度だ。」

「それで、一体何があったのですか?」

しびれを切らしたシスム・フィルア・ルディスラが尋ねた。

「ヴァイン王国とルディスラ帝国の国境付近の町イレカンディスにてリリアナの名前を使った泥棒被害が出ている。」

「どういうことですか?リリアナの名前を使って盗みを働いているということですか?」

話をいまいち理解できなかった第二皇女サクラ・フィルア・ルディスラが眉根を寄せた。

「いいや、最初の被害はリリアナがヴァイン王国からルディスラ帝国へと帰った日の夜に起こった。詳しい話は本人を呼んでいるから彼に聞くように。」

そういってアイザックは手招きした。

するとおずおずと平民姿の気弱そうな男性が現れた。

「ええと、僕はイレカンディスで両親から継いだ宿屋を経営しているんですけど、その日は珍しく町に豪華な馬車が来ていて、最初は僕も『ルディスラ帝国に行く高位貴族の馬車かな』程度におもってたんです。そのまま馬車を走らせれば三十分ちょっとで国境につきますから泊まらないだろうなと思ってたんです。でも僕の宿屋の前で馬車が泊って綺麗な人が降りてきて『一日でいいから泊めてくださらない?』と言ってきたんです。僕の宿屋ではお客様の名前を把握するために名簿に名前を書いてもらっているのです。その人が書いた名前は『リリアナ・フィルア・ルディスラ』でした。目を疑いました。ルディスラ帝国のお姫様がこんな庶民用の宿屋を選んだんだんだろうと不思議に思っただけでさすがに聞くことはできませんでした。イレカンディスには貴族用のお宿が一つあって、そこに泊まればいいのになんでだろうしか思いませんでした。貴族用の宿屋は前払いですが庶民用の宿屋は後払い、つまり宿屋から出るときに払う仕組みなんです。だから次の日昨日のお客様、リリアナ様をお待ちしていたんですがいつになっても降りてこなかったんです。不審に思って部屋に行ってみたらもぬけの殻でした。荷物はありませんでしたし代金も当然ながら置いてませんでした。今までこんなことなかったので領主様に届け出ればいいということはわかっていたのですが・・・僕は見た目からして気弱で、なめられがちなので怖くて届け出ることができなかったんです。それでとりあえず引退した両親に相談してみたら、肩を怒らせて領主様のお屋敷に行ってしまいました。無事に戻って来たのでほっとしてそれからは思い出さないようにしてたんですけど、でも、最近になって僕と同じような被害にあった宿屋がイレカンディス以外にもあることが噂になって、おかしいと思ったんです。本当にリリアナ・フィルア・ルディスラ様の仕業なのだろうかって。」

一通り話し終わって、男性はうつむいた。

「一つ聞きたいのだけど、この中にあなたが泊めたそのリリアナという方はいるかしら?」

ハルが尋ねると、男性は顔をあげ、皇族を一通り見た後首をふった。

「いません。本当のリリアナ様はどなたなのですか?」

「私です。」

リリアナは恐る恐る手をあげて前に出る。

「髪色は同じですが目の色が違います。紫色でした。」

その言葉を聞き、ユフェリアが息を飲んだ。

「それ、エニシャじゃ・・・。」

そのつぶやきを拾ったアイザックがユフェリアを見る。

「知り合いか?」

「・・・はい。ヴァイン王国の伯爵令嬢ですエニシャ・ルース、ルース家の次女です。第三王子殿下に心酔してました。」

「つまり第三王子が頼んだら絶対に従うと?」

アイザックの問いにユフェリアはうなづいた。

「はい、どんなことを頼まれても、私は絶対に第三王子殿下の願いを叶えるって張り切ってましたから。」

「ほぼそれで決まりだな。第三王子がエニシャ・ルースにリリアナのふりをするように頼み、それをエニシャ嬢はそれを受け入れた・・・と。この線が濃厚だな。」

「その線以外に見つかっていませんが?」

ハルがあきれ顔でつっこむ

「その線が濃厚なのは認めますが他の線を調べなくていいのですか?例えば我が帝国貴族が裏切っている、とか。」

「その線もなくはないが、そんな時間はないのだ。」

アイザックはそう言うとハルにヴァイン王国国王からの手紙を渡した。

「貴国の第七皇女リリアナ・フィルア・ルディスラ殿下が起こした事件について説明していただきたく・・・ね。もういっそのこと攻め込んでしまえばいいのでは?話し合いより楽です。イライラしなくてすみますから。」

ハルは笑顔で毒を吐く。

「冗談でもそんなことを言うのはやめなさい。」

実母である皇后シェリア・フィルア・ルディスラに諫められハルは肩をすくめた。

「はい。」

「それで、だ。ハルにすべて任せてしまう形にはなるが、エニシャ・ルースについて調べて欲しい。その時間どこで何をしていたのか。証言がなければ決まりだ。」

アイザックの言葉にハルは肩を落とす。

「あー、やっぱり一番面倒な仕事は私にまわってくるのよね・・・。」

愚痴りながらハルは謁見の間から去って行く。

のんびりしている暇も惜しいと言いたげな表情だった。












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