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本日2話目です。
―――――――――――――――――――――――――
「昨日ぶりね、アーサー。」
「はい、昨日ぶりでございますリリアナ様。」
昨日の約束通り、アーサー・ルネ・フィオレンス公爵はやって来た。
「それで?なんの用で?」
ソファーに座って侍女がいれた紅茶を一口飲み、そして言う。
「来月ひらかれるパーティーのリリアナ様のエスコートをしたいと思いまいりました。」
その一言を聞き、リリアナは考え込む。
「まだパートナーは決まっていないとお聞きしまして。」
「ええ、確かに決まってないけれど、すぐにアーサーにするとは言えないわ。」
リリアナは熟考の末判断を下す。
「それは心得ております。」
アーサーは鷹揚にうなづいた。
「それにしてもなんの心変わりかしら?昔は確かによく遊んでいたけれど、意地悪しかしなかったじゃない。人の肩に虫を乗っけたり、わざわざ虫を見せに来たり。どこから拾ってきたのか分からない猛獣の子を見せたり。」
昔の記憶を思い出すリリアナにアーサーは恥ずかしそうにうつむいた。
「その節はまことに申し訳ありませんでした。」
「昔はもっと気安く話しかけてくれたのにね。ため口だったし。」
「そ、それは、幼かったので位、身分というものをきちんと理解していなかったためだと思います。」
アーサーは慌てて弁解する。
「でも、こうして敬語で話されると違和感しかないわ。今まで通りでいいのよ?」
「・・・そうはおっしゃいましても、私は一臣下、リリアナ様は皇族であせられます。たかだか公爵がリリアナ様にため口なんて畏れ多いことです。」
「今背中がぞわっとしたわ。」
「なんでですか!?」
リリアナの言葉にアーサーはぎょっとする。
「あなたが敬語を使っているのが良くないみたい。生理的に無理だわ。」
「ええ・・・?」
困惑するアーサーにリリアナは言った。
「ということでアーサー、あなた今日、今から私には敬語は使わないでちょうだい。決定事項よ。」
「2人だけの時は構いませんが、公式の場では遠慮したく思います。」
「ええ、それでいいから、敬語はやめてね?」
リリアナの笑顔の圧力にアーサーはうなづかざるをえなかった。
「わかりまし・・・分かった。」
「そう、それでいいの。」
リリアナは満足そうにうなづいた。
そしてアーサーが去って行って、入れ替わりに第一皇女ハル・フィルア・ルディスラが入ってくる。
「ハル姉様!!」
それこそアポなしの突撃だった。
慌てたように侍女たちが紅茶を片付ける。
「ああ、何も出さなくていいわ。」
ハルはリリアナの向かいのソファーに座る。
「お姉様がアポなしで来るだなんて・・・。しかも軍の制服で・・・。」
いつもハルがリリアナの宮を訪れるときは必ず精霊術師団の服を着ていた。
しかし今日は珍しく聖騎士団(軍のエリート中のエリート)の制服を着ている。
「ごめんなさい、急に押しかけて。急ぎの案件だったから。」
そう前置きをして、
「あなた、ヴァイン王国から帰るときどこか寄ったかしら?宿も含めて寄ったところがあるのなら教えてちょうだい。」
真面目な顔で言った。
「私は・・・一晩中馬車を走らせていたのでどこにも寄ってないです。」
リリアナは困惑したような表情で言った。
「ヴァイン王国とルディスラ帝国の国境付近の町イレカンディスの宿屋の主人がね、あのパーティー会場があった日にあなたが泊ったって言ってるのよ。お金は後で払うからって。同様のことが他のところでもおこっているのよ。」
「私の名前を使ったということですか?」
「ええ、でもヴァイン王国の第三王子は国王からにらまれて動けないでしょう?そのお相手のお方も同様ね。だから一体誰の仕業なのかと思って・・・。」
ハルが悩まし気にため息をつく。
「お姉様・・・。」
心配そうにリリアナがハルの顔を覗き込む。
「アポなしで来てごめんなさいね。詳しいことはこっちで調べてみるから。」
「はい。お気をつけて。」
ハルがあわただしく去って行き、リリアナは不安そうな表情のままうつむいていた。
そしてリリアナの不安は的中してしまうのだった。
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「昨日ぶりね、アーサー。」
「はい、昨日ぶりでございますリリアナ様。」
昨日の約束通り、アーサー・ルネ・フィオレンス公爵はやって来た。
「それで?なんの用で?」
ソファーに座って侍女がいれた紅茶を一口飲み、そして言う。
「来月ひらかれるパーティーのリリアナ様のエスコートをしたいと思いまいりました。」
その一言を聞き、リリアナは考え込む。
「まだパートナーは決まっていないとお聞きしまして。」
「ええ、確かに決まってないけれど、すぐにアーサーにするとは言えないわ。」
リリアナは熟考の末判断を下す。
「それは心得ております。」
アーサーは鷹揚にうなづいた。
「それにしてもなんの心変わりかしら?昔は確かによく遊んでいたけれど、意地悪しかしなかったじゃない。人の肩に虫を乗っけたり、わざわざ虫を見せに来たり。どこから拾ってきたのか分からない猛獣の子を見せたり。」
昔の記憶を思い出すリリアナにアーサーは恥ずかしそうにうつむいた。
「その節はまことに申し訳ありませんでした。」
「昔はもっと気安く話しかけてくれたのにね。ため口だったし。」
「そ、それは、幼かったので位、身分というものをきちんと理解していなかったためだと思います。」
アーサーは慌てて弁解する。
「でも、こうして敬語で話されると違和感しかないわ。今まで通りでいいのよ?」
「・・・そうはおっしゃいましても、私は一臣下、リリアナ様は皇族であせられます。たかだか公爵がリリアナ様にため口なんて畏れ多いことです。」
「今背中がぞわっとしたわ。」
「なんでですか!?」
リリアナの言葉にアーサーはぎょっとする。
「あなたが敬語を使っているのが良くないみたい。生理的に無理だわ。」
「ええ・・・?」
困惑するアーサーにリリアナは言った。
「ということでアーサー、あなた今日、今から私には敬語は使わないでちょうだい。決定事項よ。」
「2人だけの時は構いませんが、公式の場では遠慮したく思います。」
「ええ、それでいいから、敬語はやめてね?」
リリアナの笑顔の圧力にアーサーはうなづかざるをえなかった。
「わかりまし・・・分かった。」
「そう、それでいいの。」
リリアナは満足そうにうなづいた。
そしてアーサーが去って行って、入れ替わりに第一皇女ハル・フィルア・ルディスラが入ってくる。
「ハル姉様!!」
それこそアポなしの突撃だった。
慌てたように侍女たちが紅茶を片付ける。
「ああ、何も出さなくていいわ。」
ハルはリリアナの向かいのソファーに座る。
「お姉様がアポなしで来るだなんて・・・。しかも軍の制服で・・・。」
いつもハルがリリアナの宮を訪れるときは必ず精霊術師団の服を着ていた。
しかし今日は珍しく聖騎士団(軍のエリート中のエリート)の制服を着ている。
「ごめんなさい、急に押しかけて。急ぎの案件だったから。」
そう前置きをして、
「あなた、ヴァイン王国から帰るときどこか寄ったかしら?宿も含めて寄ったところがあるのなら教えてちょうだい。」
真面目な顔で言った。
「私は・・・一晩中馬車を走らせていたのでどこにも寄ってないです。」
リリアナは困惑したような表情で言った。
「ヴァイン王国とルディスラ帝国の国境付近の町イレカンディスの宿屋の主人がね、あのパーティー会場があった日にあなたが泊ったって言ってるのよ。お金は後で払うからって。同様のことが他のところでもおこっているのよ。」
「私の名前を使ったということですか?」
「ええ、でもヴァイン王国の第三王子は国王からにらまれて動けないでしょう?そのお相手のお方も同様ね。だから一体誰の仕業なのかと思って・・・。」
ハルが悩まし気にため息をつく。
「お姉様・・・。」
心配そうにリリアナがハルの顔を覗き込む。
「アポなしで来てごめんなさいね。詳しいことはこっちで調べてみるから。」
「はい。お気をつけて。」
ハルがあわただしく去って行き、リリアナは不安そうな表情のままうつむいていた。
そしてリリアナの不安は的中してしまうのだった。
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