上 下
12 / 17

12

しおりを挟む
本日2話目です。

―――――――――――――――――――――――――
「昨日ぶりね、アーサー。」

「はい、昨日ぶりでございますリリアナ様。」

昨日の約束通り、アーサー・ルネ・フィオレンス公爵はやって来た。

「それで?なんの用で?」

ソファーに座って侍女がいれた紅茶を一口飲み、そして言う。

「来月ひらかれるパーティーのリリアナ様のエスコートをしたいと思いまいりました。」

その一言を聞き、リリアナは考え込む。

「まだパートナーは決まっていないとお聞きしまして。」

「ええ、確かに決まってないけれど、すぐにアーサーにするとは言えないわ。」

リリアナは熟考の末判断を下す。

「それは心得ております。」

アーサーは鷹揚にうなづいた。

「それにしてもなんの心変わりかしら?昔は確かによく遊んでいたけれど、意地悪しかしなかったじゃない。人の肩に虫を乗っけたり、わざわざ虫を見せに来たり。どこから拾ってきたのか分からない猛獣の子を見せたり。」

昔の記憶を思い出すリリアナにアーサーは恥ずかしそうにうつむいた。

「その節はまことに申し訳ありませんでした。」

「昔はもっと気安く話しかけてくれたのにね。ため口だったし。」

「そ、それは、幼かったので位、身分というものをきちんと理解していなかったためだと思います。」

アーサーは慌てて弁解する。

「でも、こうして敬語で話されると違和感しかないわ。今まで通りでいいのよ?」

「・・・そうはおっしゃいましても、私は一臣下、リリアナ様は皇族であせられます。たかだか公爵がリリアナ様にため口なんて畏れ多いことです。」

「今背中がぞわっとしたわ。」

「なんでですか!?」

リリアナの言葉にアーサーはぎょっとする。

「あなたが敬語を使っているのが良くないみたい。生理的に無理だわ。」

「ええ・・・?」

困惑するアーサーにリリアナは言った。

「ということでアーサー、あなた今日、今から私には敬語は使わないでちょうだい。決定事項よ。」

「2人だけの時は構いませんが、公式の場では遠慮したく思います。」

「ええ、それでいいから、敬語はやめてね?」

リリアナの笑顔の圧力にアーサーはうなづかざるをえなかった。

「わかりまし・・・分かった。」

「そう、それでいいの。」

リリアナは満足そうにうなづいた。

そしてアーサーが去って行って、入れ替わりに第一皇女ハル・フィルア・ルディスラが入ってくる。

「ハル姉様!!」

それこそアポなしの突撃だった。

慌てたように侍女たちが紅茶を片付ける。

「ああ、何も出さなくていいわ。」

ハルはリリアナの向かいのソファーに座る。

「お姉様がアポなしで来るだなんて・・・。しかも軍の制服で・・・。」

いつもハルがリリアナの宮を訪れるときは必ず精霊術師団の服を着ていた。

しかし今日は珍しく聖騎士団(軍のエリート中のエリート)の制服を着ている。

「ごめんなさい、急に押しかけて。急ぎの案件だったから。」

そう前置きをして、

「あなた、ヴァイン王国から帰るときどこか寄ったかしら?宿も含めて寄ったところがあるのなら教えてちょうだい。」

真面目な顔で言った。

「私は・・・一晩中馬車を走らせていたのでどこにも寄ってないです。」

リリアナは困惑したような表情で言った。

「ヴァイン王国とルディスラ帝国の国境付近の町イレカンディスの宿屋の主人がね、あのパーティー会場があった日にあなたが泊ったって言ってるのよ。お金は後で払うからって。同様のことが他のところでもおこっているのよ。」

「私の名前を使ったということですか?」

「ええ、でもヴァイン王国の第三王子は国王からにらまれて動けないでしょう?そのお相手のお方も同様ね。だから一体誰の仕業なのかと思って・・・。」

ハルが悩まし気にため息をつく。

「お姉様・・・。」

心配そうにリリアナがハルの顔を覗き込む。

「アポなしで来てごめんなさいね。詳しいことはこっちで調べてみるから。」

「はい。お気をつけて。」

ハルがあわただしく去って行き、リリアナは不安そうな表情のままうつむいていた。

そしてリリアナの不安は的中してしまうのだった。













しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完)愛人を作るのは当たり前でしょう?僕は家庭を壊したいわけじゃない。

青空一夏
恋愛
私は、デラックス公爵の次男だ。隣国の王家の血筋もこの国の王家の血筋も、入ったサラブレッドだ。 今は豪商の娘と結婚し、とても大事にされていた。 妻がめでたく懐妊したので、私は妻に言った。 「夜伽女を3人でいいから、用意してくれ!」妻は驚いて言った。「離婚したいのですね・・・・・・わかりました・・・」 え? なぜ、そうなる? そんな重い話じゃないよね?

離婚しようですって?

宮野 楓
恋愛
十年、結婚生活を続けてきた二人。ある時から旦那が浮気をしている事を知っていた。だが知らぬふりで夫婦として過ごしてきたが、ある日、旦那は告げた。「離婚しよう」

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

逆行令嬢は聖女を辞退します

仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。 死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって? 聖女なんてお断りです!

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

頑張らない政略結婚

ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」 結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。 好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。 ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ! 五話完結、毎日更新

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

処理中です...