8 / 17
8
しおりを挟む
「リリアナ様、先ほどぶりでございます。」
お茶会の会場である春の宮へと足を進めるリリアナ達一行に、声をかけた者がいた。
お察しの通り、アポなし突撃をしたアーサー・ルネ・フィオレンス公爵が秋の宮と皇宮の渡り廊下、皇宮側の出入り口のところに立っていた。
「アーサー、あなたまだいたの?」
リリアナがあきれ顔で言う。
「お話したいことがありまして。」
「申し訳ないのだけど、私これからお姉様たちとのお茶会があるのよ。悪いのだけど後日でもよろしいかしら?」
リリアナが微笑むとアーサーはしぶしぶうなづいた。
「それでは明日またお会いしましょう。」
リリアナはアーサーの脇を通って、皇宮の中に足を踏み入れる。
皇宮の中は豪華絢爛そのものだった。
調度品はもちろん絵画も一流の職人が手掛けた作品だと一目でわかるほどの出来栄えだ。
それだけではない。
階段手すりやドアノブにいたるまですべて最高級品だ。
手すりに彫られた綺麗な模様はリリアナの大好きな物の一つだった。
さてルディスラ帝国皇都は皇宮を中心とした円状の都市である。
皇都のうち、皇宮以外の場所は三つに分けられる。
皇族街、貴族街、平民街だ。
皇族街は第七皇女リリアナの住む秋の宮、第三皇女ユフェリアが住む春の宮、第一皇子シスムが住む夏の宮、第一皇女ハルが住む冬の宮がある。
そして側妃、つまり皇妃三人の子、第二皇女と第四皇女、第五皇女はハルの住む冬の宮に居を構えている。
他の皇子と第六皇女は皇族街にそれぞれの宮を持っている。
しかしこの三人は自分たちは将来は軍人になる、というような根っからの脳筋であるためそんな豪華な宮はいらないと、皇族街に平民が住むような一軒家をたてようとしたのだ。
それを咎めた皇帝が何ならすでに軍人であるハルのところで寝泊まりし、剣や精霊術に関して教えてもらえということでハルの宮に居を構えている。
実際、ハルは仕事が忙しくほとんど宮には帰らないので、皇帝の思惑は外れたと言える。
今回お茶会が開かれるのは第三皇女ユフェリアが住む春の宮だ。
つまり主催者はユフェリアだ。
この実の姉はやることなすことが大胆なので、リリアナ達姉妹はいつもひやひやしていた。
今回、お茶会に呼ばれた時も、主催者がユフェリアだと聞いて、リリアナが青ざめたほどだった。
秋の宮は皇宮の西に、春の宮は皇宮の東にある。
つまり真逆なのだ。
皇宮は皇帝、皇后、皇妃たちが住むところであるためとにかく大きく、広い。
そこを端から端まで歩くとなると恐ろしい時間を要するのだ。
「リリアナ様、やはり馬車を用意した方が良かったのではないでしょうか?」
リリアナの後ろからついていく侍女のうちの一人が声をかけた。
「いいのよ、運動にもなるでしょう?」
リリアナの言葉に侍女たちは大きくうなづいた。
そのまま歩くこと20分。
ようやく皇宮の端が見えてきた。
そこから渡り廊下が伸びていて、その先に淡いピンク色の建物が見えた。
春の宮だった。
春の宮に到着し、宮の扉を守る護衛騎士にリリアナは名乗った。
「リリアナ様ですね。お待ちしていました、どうぞこちらへ。」
護衛騎士はリリアナを茶会の会場となっている庭に案内した。
「まあ、リリアナ!待っていたのよ!」
やって来たリリアナに気づいた第三皇女ユフェリアはドレスの裾をたくし上げて走って来た。
あまりの奇行にリリアナは呆気にとられた。
「お、お姉様!?」
他の皇女たちも驚いたような表情をする。
「お姉様、はしたないです。」
「そんなこと気にしなくていいのよ!ここには私達姉妹しかいないんだから!」
ユフェリアは皇女らしかぬ大声を出す。
実際は、リリアナを案内した護衛騎士、そしてリリアナ専属侍女たちがいる。
他の皇女の侍女は既に控室にいるようでこの場にはいなかった。
「さあ、リリアナ座って。今日皆に集まってもらったのは理由があるのよ。」
リリアナを椅子に座らせると、ユフェリアは芝居ががった様子で言う。
「早く本題に入りなさい。能天気で皇女教育もろくにせず遊び惚けているあなたと違って、私は忙しいのだから。」
そんなユフェリアに嫌味を何重にも重ねた棘のある声がかけられた。
「ハル姉様!そんなこと言わないでちゃんと私の話を聞いてください!」
「あー、はいはい。」
頬を膨らませて怒るユフェリアにハルはめんどくさそうに顔をそむけた。
「まったく、いい年してまだ子供のつもりなのかしら・・・?」
実際ユフェリアは結婚適齢期真っ只中の18歳。
本来なら婚約者の一人や二人・・・二人いたらだめだが・・・いてもおかしくはない。
しかしユフェリアにはほとんど縁談が来ないのだ。
理由は皇女教育をまったく身に着けていないこの無知さに、素直すぎる性格、そして精神年齢が幼すぎるからだ。
何度も教育係が変えられても、どの教育係も一週間で根を上げた。
「今日は、リリアナに特別なプレゼントがあります!」
そういった瞬間、リリアナの表情が固まった。
他の皇女たちの表情も固まっている。
ユフェリアの言うプレゼントは碌なものがないことは姉妹であればだれでも知っていることだった。
―――――――――――――――――――――――
更新遅くなりました。
学校のテストが控えているので更新はゆっくり遅めになります。
申し訳ありません。
お茶会の会場である春の宮へと足を進めるリリアナ達一行に、声をかけた者がいた。
お察しの通り、アポなし突撃をしたアーサー・ルネ・フィオレンス公爵が秋の宮と皇宮の渡り廊下、皇宮側の出入り口のところに立っていた。
「アーサー、あなたまだいたの?」
リリアナがあきれ顔で言う。
「お話したいことがありまして。」
「申し訳ないのだけど、私これからお姉様たちとのお茶会があるのよ。悪いのだけど後日でもよろしいかしら?」
リリアナが微笑むとアーサーはしぶしぶうなづいた。
「それでは明日またお会いしましょう。」
リリアナはアーサーの脇を通って、皇宮の中に足を踏み入れる。
皇宮の中は豪華絢爛そのものだった。
調度品はもちろん絵画も一流の職人が手掛けた作品だと一目でわかるほどの出来栄えだ。
それだけではない。
階段手すりやドアノブにいたるまですべて最高級品だ。
手すりに彫られた綺麗な模様はリリアナの大好きな物の一つだった。
さてルディスラ帝国皇都は皇宮を中心とした円状の都市である。
皇都のうち、皇宮以外の場所は三つに分けられる。
皇族街、貴族街、平民街だ。
皇族街は第七皇女リリアナの住む秋の宮、第三皇女ユフェリアが住む春の宮、第一皇子シスムが住む夏の宮、第一皇女ハルが住む冬の宮がある。
そして側妃、つまり皇妃三人の子、第二皇女と第四皇女、第五皇女はハルの住む冬の宮に居を構えている。
他の皇子と第六皇女は皇族街にそれぞれの宮を持っている。
しかしこの三人は自分たちは将来は軍人になる、というような根っからの脳筋であるためそんな豪華な宮はいらないと、皇族街に平民が住むような一軒家をたてようとしたのだ。
それを咎めた皇帝が何ならすでに軍人であるハルのところで寝泊まりし、剣や精霊術に関して教えてもらえということでハルの宮に居を構えている。
実際、ハルは仕事が忙しくほとんど宮には帰らないので、皇帝の思惑は外れたと言える。
今回お茶会が開かれるのは第三皇女ユフェリアが住む春の宮だ。
つまり主催者はユフェリアだ。
この実の姉はやることなすことが大胆なので、リリアナ達姉妹はいつもひやひやしていた。
今回、お茶会に呼ばれた時も、主催者がユフェリアだと聞いて、リリアナが青ざめたほどだった。
秋の宮は皇宮の西に、春の宮は皇宮の東にある。
つまり真逆なのだ。
皇宮は皇帝、皇后、皇妃たちが住むところであるためとにかく大きく、広い。
そこを端から端まで歩くとなると恐ろしい時間を要するのだ。
「リリアナ様、やはり馬車を用意した方が良かったのではないでしょうか?」
リリアナの後ろからついていく侍女のうちの一人が声をかけた。
「いいのよ、運動にもなるでしょう?」
リリアナの言葉に侍女たちは大きくうなづいた。
そのまま歩くこと20分。
ようやく皇宮の端が見えてきた。
そこから渡り廊下が伸びていて、その先に淡いピンク色の建物が見えた。
春の宮だった。
春の宮に到着し、宮の扉を守る護衛騎士にリリアナは名乗った。
「リリアナ様ですね。お待ちしていました、どうぞこちらへ。」
護衛騎士はリリアナを茶会の会場となっている庭に案内した。
「まあ、リリアナ!待っていたのよ!」
やって来たリリアナに気づいた第三皇女ユフェリアはドレスの裾をたくし上げて走って来た。
あまりの奇行にリリアナは呆気にとられた。
「お、お姉様!?」
他の皇女たちも驚いたような表情をする。
「お姉様、はしたないです。」
「そんなこと気にしなくていいのよ!ここには私達姉妹しかいないんだから!」
ユフェリアは皇女らしかぬ大声を出す。
実際は、リリアナを案内した護衛騎士、そしてリリアナ専属侍女たちがいる。
他の皇女の侍女は既に控室にいるようでこの場にはいなかった。
「さあ、リリアナ座って。今日皆に集まってもらったのは理由があるのよ。」
リリアナを椅子に座らせると、ユフェリアは芝居ががった様子で言う。
「早く本題に入りなさい。能天気で皇女教育もろくにせず遊び惚けているあなたと違って、私は忙しいのだから。」
そんなユフェリアに嫌味を何重にも重ねた棘のある声がかけられた。
「ハル姉様!そんなこと言わないでちゃんと私の話を聞いてください!」
「あー、はいはい。」
頬を膨らませて怒るユフェリアにハルはめんどくさそうに顔をそむけた。
「まったく、いい年してまだ子供のつもりなのかしら・・・?」
実際ユフェリアは結婚適齢期真っ只中の18歳。
本来なら婚約者の一人や二人・・・二人いたらだめだが・・・いてもおかしくはない。
しかしユフェリアにはほとんど縁談が来ないのだ。
理由は皇女教育をまったく身に着けていないこの無知さに、素直すぎる性格、そして精神年齢が幼すぎるからだ。
何度も教育係が変えられても、どの教育係も一週間で根を上げた。
「今日は、リリアナに特別なプレゼントがあります!」
そういった瞬間、リリアナの表情が固まった。
他の皇女たちの表情も固まっている。
ユフェリアの言うプレゼントは碌なものがないことは姉妹であればだれでも知っていることだった。
―――――――――――――――――――――――
更新遅くなりました。
学校のテストが控えているので更新はゆっくり遅めになります。
申し訳ありません。
0
お気に入りに追加
1,354
あなたにおすすめの小説
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
【完結】王子は聖女と結婚するらしい。私が聖女であることは一生知らないままで
雪野原よる
恋愛
「聖女と結婚するんだ」──私の婚約者だった王子は、そう言って私を追い払った。でも、その「聖女」、私のことなのだけど。
※王国は滅びます。
【完結】もう辛い片想いは卒業して結婚相手を探そうと思います
ユユ
恋愛
大家族で大富豪の伯爵家に産まれた令嬢には
好きな人がいた。
彼からすれば誰にでも向ける微笑みだったが
令嬢はそれで恋に落ちてしまった。
だけど彼は私を利用するだけで
振り向いてはくれない。
ある日、薬の過剰摂取をして
彼から離れようとした令嬢の話。
* 完結保証付き
* 3万文字未満
* 暇つぶしにご利用下さい
もう一度7歳からやりなおし!王太子妃にはなりません
片桐葵
恋愛
いわゆる悪役令嬢・セシルは19歳で死亡した。
皇太子のユリウス殿下の婚約者で高慢で尊大に振る舞い、義理の妹アリシアとユリウスの恋愛に嫉妬し最終的に殺害しようとした罪で断罪され、修道院送りとなった末の死亡だった。しかし死んだ後に女神が現れ7歳からやり直せるようにしてくれた。
もう一度7歳から人生をやり直せる事になったセシル。
ある愚かな婚約破棄の結末
オレンジ方解石
恋愛
セドリック王子から婚約破棄を宣言されたアデライド。
王子の愚かさに頭を抱えるが、周囲は一斉に「アデライドが悪い」と王子の味方をして…………。
※一応ジャンルを『恋愛』に設定してありますが、甘さ控えめです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる