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「リズベットさーん!客間の掃除まで全部終わりました!」

客間の掃除が終わったフィネは玄関ホールに向かい、待っていた、リズベットのもとに駆けよる。

「フィネ、見てたわよ!」

振り返ったリズベットはガシッとフィネの手を握る。

「な、なんのことですか!?」

まったく自覚がないフィネはぽかんとするばかり。

「貴族としての所作は目も当てられないほどだったけど、追い返し方としてはばっちりよ!」

「フィオレンス公爵家の当主様のことですか?」

「ええ、あの後、公爵様肩を落として帰って行ったのよ。結局リリアナ様のところには行ったみたいだけど、アポなしの方の訪問は受け付けておりませんってバッサリと切り捨てられたそうよ!ざまあみろ!」

リリアナ信者のリズベットは凶悪な顔で言う。

「リズベットさん、顔が怖いです!」

「あ、ごめんなさい。じゃあ時間もないし所作について教えていくわね。」

「お願いします!」







「リリアナ様、とてもお綺麗です!」

一方その頃、リリアナの部屋では、実の姉である第三皇女ユフェリアから姉妹だけで行うお茶会、言い方を変えれば女子会に参加するために準備をしていた。

ドレスに着替えて、髪飾りをつけた。

「リリアナ様、お化粧はどうされますか?」

リリアナ専属の上級侍女ティニアは化粧箱を持ってきて尋ねる。

「姉妹だけの簡単なお茶会だもの。化粧は薄くよろしくね。」

「かしこまりました。」

ティニアは慣れた手つきでリリアナの化粧をしていく。

「できました!」

素早く他の侍女たちが等身大の鏡を持ってくる。

「まあ、綺麗ね。ありがとう!」

優しく微笑むリリアナに侍女たちは頬を染めた。

「もったいないお言葉です!」

「そろそろ時間ね。春の宮に行きましょう。」

リリアナは立ち上がると侍女達を引き連れて部屋から出て行く。

ルディスラ帝国皇帝アイザック・フィルア・ルディスラには五人の妃と一人の皇后がいる。

皇后は国内の有力公爵家の出身。

他の妃たちも国内の伯爵家以上の家の出身で、彼らの仲は良好そのものだ。

皇后シェリアには三人の皇女と一人の皇子がいる。

第一皇女ハル・フィルア・ルディスラ、第三皇女ユフェリア・フィルア・ルディスラ、第一皇子シスム、そして末っ子皇女のリリアナ。

「フィネったら。筋がいいわね。さすが貴族出身。あ、背筋が曲がってる!」

玄関ホールに到着して、そこには頭に一冊の本をのせたフィネがリズベットの指導のもと所作の授業に励んでいた。

「あれは・・・所作の授業というよりは淑女教育に近いわね。」

リリアナはどこか呆れたようにつぶやいた。

「あ、リリアナ様!?」

リリアナに気づき、ぎょっとしたような表情をしたリズベットは恐ろしい勢いで頭を下げた。

「リリアナ様?」

振り返ったフィネの頭から本が落下する。

「いてっ!」

足に本が落下しフィネは悶絶した。

「フィネ、大丈夫?」

心配そうな表情をしたリリアナにフィネは慌てて頭を下げた。

「大丈夫です!ご心配をおかけしまして申し訳ありません!。」

「よかった。痛くなったらすぐに言うのよ?」

「はい。」

リリアナは上級侍女たちを引き連れて秋の宮から出て行く。

フィネは頭を下げてリリアナも見送って、そして足の上に落ちた本を拾い上げて、もう一度頭の上にのせた。

「淑女教育ですか?」

後ろからサーシャの声がし、びくっと身を震わせたフィネの頭から再度本が落ちる。

「さ、サーシャ様!?」

リズベットが驚いたような表情をする。

「リリアナ様についていったのではないのですか?」

「私は本日は皇帝陛下に呼ばれていますので。」

サーシャは軽く会釈すると去って行く。

「皇帝陛下?サーシャ様ってどこかいい家柄の方なのですか?」

フィネはリズベットに尋ねた。

「いいえ、そういう話は聞かないわ。もともとはハル様の護衛騎士だったとしか。」

リズベットは首を振った。

「それなら、どうして・・・。」

「ええ、リリアナ様の護衛騎士のサーシャ様が陛下にお呼ばれするの?」

サーシャの事情を何一つ知らない二人の侍女はただただ首を傾げるばかりだった。







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