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今日はヴァイン王国立学園の卒業パーティー。
ルディスラ帝国から学園に入学し、ちょうど昨日卒業した第七皇女リリアナ・フィルア・ルディスラは煩わし気に前に立つ無礼もいい所な婚約者を睨み見る。
つい先程まで、友人たちと仲良く歓談していた時の笑顔とはまったく違う冷たい表情に婚約者であるヴァイン王国第三王子イージス・ヴァインは顔を強張らせた。
もともとリリアナはとても優しく友達思いの皆から好かれているそんな人だ。
それゆえにここまで冷たい顔で婚約者を見るだなんて一体何事だ、と卒業生たちが集まってくる。
「リリアナ、君との婚約を破棄したい。」
堂々と、周りの目を気にせずにイージスは言った。
「あら、私が友人と歓談しているところに割り込んでいうことがそれですの?」
リリアナは扇で口元を隠し、冷たい瞳でイージスを見つめる。
「まず最初に言うことは何ですの?エスコートしなくてすみませんですわよね、浮気男様?」
嫌味がたっぷりと含まれた言葉にイージスは顔を歪めた。
「浮気だと?これは真実の愛だ。」
「まあ、真実の愛・・・ですか?口ではどうとでも言えますもの。信用できませんわ。まあ、真実の愛はまだ聞き流せますわ。」
リリアナはパチンと音を鳴らして扇を閉じる。
「婚約破棄とはどういうことですの?」
「真実の愛を見つけたから、ルシアと結ばれたいから婚約破棄をする。おかしいか?」
イージスはエスコートしている浮気相手ルシア・ビビアン男爵令嬢の腰に手を回す。
「ふざけているのですか?」
可憐なリリアナの口から恐ろしいほどに低い声が出る。
いつもは優しいリリアナの怒りの一端に触れて、イージスはびくりと肩を震わせる。
「婚約破棄?婚約解消ではなくて?破棄にすればどうなるのか分からないあなたではないでしょう?」
「汚名はこちらがかぶる。だから真実の愛を認めてくれないか?」
イージスがプライドも何もかも捨て去り懇願した。
「私、真実の愛とか心底どうでもいいのですわ。だってこの婚約は政略もいい所ですもの。国王に土下座で頼まれなければ断っていましたわ。」
リリアナは扇を開き、口元を隠し、微笑む。
「イージス様、あなた何か勘違いをしているようですわね。」
「勘違い?」
意味が分からないと言いたげに首を傾げるイージスにリリアナ言い放った。
「私をどこかのしがない公爵令嬢とでも思っておりましたか?」
「そなたはアルフェン公爵家の一人娘だろう?」
イージスの答えにリリアナは絶対零度の視線をイージスを含め慌てて近づいてくる国王と王妃に向けた。
「ふざけるのも大概になさいませ。私はルディスラ帝国第七皇女リリアナ・フィルア・ルディスラと申しますわ。何度も名乗っているはずですわ。ああ、それと婚約破棄の件、喜んで承りますわ。」
「帝国!?そんな話聞いてない!」
自分の婚約者、もう婚約破棄はなされているのだから元婚約者というべきだろうか、の本当の身分を知り、顔面蒼白になったイージスにつかつかと歩み寄った王妃はその頬をはたいた。
「母上!?」
驚いたように実母である王妃クリスティーナ・ヴァインを見つめるイージスにクリスティーナは静かに言った。
「あなたがこんなに馬鹿な子だっただなんて知らなかったわ。帝国と縁が結べるように努力した私たちの三年を無駄にするだなんて。こんな子私の子だと思いたくないわ!」
最後、声を荒げたクリスティーナの肩に国王ティンゼルは優しく手を置き、止めた。
「やめるんだクリスティーナ。体に障る。」
「ですけど、ティンゼル様!私の子がなんてことを!もうこの国は立ち行かなくなってしまいますわ!」
クリスティーナは両手で顔を覆う。
それもそのはず、確かにイージスは第三王子だが上に二人いた兄は既に病死している。
そのため婚約破棄を告げるまでは、イージスは実質王太子と言ってっもおかしくなかった。
けれど大国ルディスラ帝国との縁談を破談にしたイージスははっきり言って王としての資格はない。
真実の愛に溺れ、王子として、婚約者として、為政者としての役割を果たさなかった、放棄した。
「イージス、そなたを廃嫡とする。王家からも追放する。明後日までに王宮から立ち去れ。そこの真実の愛の相手である令嬢も一緒だ。」
その言葉を聞き、イージスは青ざめた。
「父上!冗談ですよね?今王室には子は僕しかいないのですよ!それなのにたった一人の後継者を廃嫡にしてしまったらそれこそこの国は終わりです。」
「安心しろ、イージス。お前がいなくとも大丈夫だ。今クリスティーナは第四子を妊娠している。男児であれば国王として、女児であれば婿を取り女王として国を治める。それに万が一クリスティーナが流産、死産した場合でも王弟がいる。王弟の子もいる。確かに今の私の子はお前だけだが、後継者として名があがっているのはお前だけではなかった。」
衝撃的な発言にイージスは黙り込んだ。
「僕に弟が・・・。」
「ね、ねえ、イージス様?大丈夫なんだよね?私達結婚出来るんだよね?」
心配そうにルシアはイージスに尋ねた。
「あ、ああ。たぶん・・・。」
「何が多分だ。お前たちの結婚は決定事項だ。」
イージスの言葉をどのように理解したのかルシアはイージスに抱き着いた。
「イージス様、やったー!結婚できる!すっごく嬉しい!私王太子妃になるんだよ!」
飛び上がって喜ぶルシアの姿にクリスティーナは眉をひそめた。
「あの子、話を聞いていたのかしら?イージスは廃嫡されて平民になることが決まっているのに。」
「クリスティーナ、放っておけ。それよりも今しなければいけないことがある。」
ティンゼルとクリスティーナはリリアナに深々と頭を下げた。
「私の息子が失礼をし、申し訳ございません。どうか帝国のお慈悲に縋りたく。」
(私の息子が婚約破棄という失礼なことをして申し訳ございません。婚約破棄の件については謝罪、慰謝料を払いますのでどうか帝国との同盟だけは破棄しないでください。)
「・・・。」
リリアナは無言でティンゼルとクリスティーナを見つめる。
「かまいません、そう言いたいところですけど私の一存では決められませんわ。同盟は二ヶ国間の信頼の証拠ですもの。どうしても破棄されたくないのならお父様に伺ってみればよろしいのでは?」
リリアナはどこか困ったように返事をした。
「私が出す条件を飲んでくださるのでしたら、私からお父様に破棄しないように口添えをしましょう。」
「本当ですか!?」
ティンゼルとクリスティーナはほっとしたように一つ息をついた。
「ところでその条件とは?」
「イージス様の廃嫡はよろしいと思いますわ。お父様も全面的に賛成するでしょう。けれど私、元とはいえ婚約者が平民となって苦しい生活を送るのを見るのは耐えられないのです。」
(イージス様を廃嫡するという罰は私も、お父様もよろしいと思いますわ。けれど、イージス様を平民とするというのは少々夢見が悪うございますわ。)
リリアナの言葉にティンゼルは目を丸くした。
「イージス様を平民にするのはおやめいただきたいのです。」
リリアナは言った。
「それではイージス様の罰が軽くなってしまいます。」
ティンゼルが心配そうに言う。
しかしリリアナは微笑んだ。
「大丈夫ですわ。私がいいと言っているのですから。私の意志をお父様もお母様も尊重してくださいますもの。あとで平民にしろだなんていうわけがありませんわ。」
「そこまでおっしゃるなら・・・。」
ティンゼルはしぶしぶうなづいた。
「リリアナ様。」
リリアナは呼ばれて振り返った。
そこには幼いころから自分に護衛騎士として仕えてくれた軍人の姿があった。
「サーシャじゃない。久しぶりね、一体何の御用なの?」
白を基調とした軍服に身をつつんだ女性サーシャは手に持っていた手紙をリリアナに渡した。
「皇帝陛下並びに皇后陛下からです。」
「あら、お父様とお母様から?」
封を開け、折りたたまれた手紙をひろげ、内容に目を通す。
我らが愛おしい娘リリアナへ
昨日学園を卒業したと聞いた。卒業おめでとう。学園での生活、婚約者との現状など聞かせて欲しい。今回はサーシャを使者として行かせた。そのことに関しても話があるからパーティーが終わったらすぐに帰って来なさい。お土産も楽しみにしているよ♪それはそうと先月アーサーが公爵位を継いだんだ。よく一緒に遊んでいたから伝えておくよ。家族一同リリアナの帰りを首を長くして待っているよ。
リリアナのパパ、アイザックとリリアナのママ、シェリアより
ルディスラ帝国から学園に入学し、ちょうど昨日卒業した第七皇女リリアナ・フィルア・ルディスラは煩わし気に前に立つ無礼もいい所な婚約者を睨み見る。
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もともとリリアナはとても優しく友達思いの皆から好かれているそんな人だ。
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リリアナは扇で口元を隠し、冷たい瞳でイージスを見つめる。
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「まあ、真実の愛・・・ですか?口ではどうとでも言えますもの。信用できませんわ。まあ、真実の愛はまだ聞き流せますわ。」
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「婚約破棄とはどういうことですの?」
「真実の愛を見つけたから、ルシアと結ばれたいから婚約破棄をする。おかしいか?」
イージスはエスコートしている浮気相手ルシア・ビビアン男爵令嬢の腰に手を回す。
「ふざけているのですか?」
可憐なリリアナの口から恐ろしいほどに低い声が出る。
いつもは優しいリリアナの怒りの一端に触れて、イージスはびくりと肩を震わせる。
「婚約破棄?婚約解消ではなくて?破棄にすればどうなるのか分からないあなたではないでしょう?」
「汚名はこちらがかぶる。だから真実の愛を認めてくれないか?」
イージスがプライドも何もかも捨て去り懇願した。
「私、真実の愛とか心底どうでもいいのですわ。だってこの婚約は政略もいい所ですもの。国王に土下座で頼まれなければ断っていましたわ。」
リリアナは扇を開き、口元を隠し、微笑む。
「イージス様、あなた何か勘違いをしているようですわね。」
「勘違い?」
意味が分からないと言いたげに首を傾げるイージスにリリアナ言い放った。
「私をどこかのしがない公爵令嬢とでも思っておりましたか?」
「そなたはアルフェン公爵家の一人娘だろう?」
イージスの答えにリリアナは絶対零度の視線をイージスを含め慌てて近づいてくる国王と王妃に向けた。
「ふざけるのも大概になさいませ。私はルディスラ帝国第七皇女リリアナ・フィルア・ルディスラと申しますわ。何度も名乗っているはずですわ。ああ、それと婚約破棄の件、喜んで承りますわ。」
「帝国!?そんな話聞いてない!」
自分の婚約者、もう婚約破棄はなされているのだから元婚約者というべきだろうか、の本当の身分を知り、顔面蒼白になったイージスにつかつかと歩み寄った王妃はその頬をはたいた。
「母上!?」
驚いたように実母である王妃クリスティーナ・ヴァインを見つめるイージスにクリスティーナは静かに言った。
「あなたがこんなに馬鹿な子だっただなんて知らなかったわ。帝国と縁が結べるように努力した私たちの三年を無駄にするだなんて。こんな子私の子だと思いたくないわ!」
最後、声を荒げたクリスティーナの肩に国王ティンゼルは優しく手を置き、止めた。
「やめるんだクリスティーナ。体に障る。」
「ですけど、ティンゼル様!私の子がなんてことを!もうこの国は立ち行かなくなってしまいますわ!」
クリスティーナは両手で顔を覆う。
それもそのはず、確かにイージスは第三王子だが上に二人いた兄は既に病死している。
そのため婚約破棄を告げるまでは、イージスは実質王太子と言ってっもおかしくなかった。
けれど大国ルディスラ帝国との縁談を破談にしたイージスははっきり言って王としての資格はない。
真実の愛に溺れ、王子として、婚約者として、為政者としての役割を果たさなかった、放棄した。
「イージス、そなたを廃嫡とする。王家からも追放する。明後日までに王宮から立ち去れ。そこの真実の愛の相手である令嬢も一緒だ。」
その言葉を聞き、イージスは青ざめた。
「父上!冗談ですよね?今王室には子は僕しかいないのですよ!それなのにたった一人の後継者を廃嫡にしてしまったらそれこそこの国は終わりです。」
「安心しろ、イージス。お前がいなくとも大丈夫だ。今クリスティーナは第四子を妊娠している。男児であれば国王として、女児であれば婿を取り女王として国を治める。それに万が一クリスティーナが流産、死産した場合でも王弟がいる。王弟の子もいる。確かに今の私の子はお前だけだが、後継者として名があがっているのはお前だけではなかった。」
衝撃的な発言にイージスは黙り込んだ。
「僕に弟が・・・。」
「ね、ねえ、イージス様?大丈夫なんだよね?私達結婚出来るんだよね?」
心配そうにルシアはイージスに尋ねた。
「あ、ああ。たぶん・・・。」
「何が多分だ。お前たちの結婚は決定事項だ。」
イージスの言葉をどのように理解したのかルシアはイージスに抱き着いた。
「イージス様、やったー!結婚できる!すっごく嬉しい!私王太子妃になるんだよ!」
飛び上がって喜ぶルシアの姿にクリスティーナは眉をひそめた。
「あの子、話を聞いていたのかしら?イージスは廃嫡されて平民になることが決まっているのに。」
「クリスティーナ、放っておけ。それよりも今しなければいけないことがある。」
ティンゼルとクリスティーナはリリアナに深々と頭を下げた。
「私の息子が失礼をし、申し訳ございません。どうか帝国のお慈悲に縋りたく。」
(私の息子が婚約破棄という失礼なことをして申し訳ございません。婚約破棄の件については謝罪、慰謝料を払いますのでどうか帝国との同盟だけは破棄しないでください。)
「・・・。」
リリアナは無言でティンゼルとクリスティーナを見つめる。
「かまいません、そう言いたいところですけど私の一存では決められませんわ。同盟は二ヶ国間の信頼の証拠ですもの。どうしても破棄されたくないのならお父様に伺ってみればよろしいのでは?」
リリアナはどこか困ったように返事をした。
「私が出す条件を飲んでくださるのでしたら、私からお父様に破棄しないように口添えをしましょう。」
「本当ですか!?」
ティンゼルとクリスティーナはほっとしたように一つ息をついた。
「ところでその条件とは?」
「イージス様の廃嫡はよろしいと思いますわ。お父様も全面的に賛成するでしょう。けれど私、元とはいえ婚約者が平民となって苦しい生活を送るのを見るのは耐えられないのです。」
(イージス様を廃嫡するという罰は私も、お父様もよろしいと思いますわ。けれど、イージス様を平民とするというのは少々夢見が悪うございますわ。)
リリアナの言葉にティンゼルは目を丸くした。
「イージス様を平民にするのはおやめいただきたいのです。」
リリアナは言った。
「それではイージス様の罰が軽くなってしまいます。」
ティンゼルが心配そうに言う。
しかしリリアナは微笑んだ。
「大丈夫ですわ。私がいいと言っているのですから。私の意志をお父様もお母様も尊重してくださいますもの。あとで平民にしろだなんていうわけがありませんわ。」
「そこまでおっしゃるなら・・・。」
ティンゼルはしぶしぶうなづいた。
「リリアナ様。」
リリアナは呼ばれて振り返った。
そこには幼いころから自分に護衛騎士として仕えてくれた軍人の姿があった。
「サーシャじゃない。久しぶりね、一体何の御用なの?」
白を基調とした軍服に身をつつんだ女性サーシャは手に持っていた手紙をリリアナに渡した。
「皇帝陛下並びに皇后陛下からです。」
「あら、お父様とお母様から?」
封を開け、折りたたまれた手紙をひろげ、内容に目を通す。
我らが愛おしい娘リリアナへ
昨日学園を卒業したと聞いた。卒業おめでとう。学園での生活、婚約者との現状など聞かせて欲しい。今回はサーシャを使者として行かせた。そのことに関しても話があるからパーティーが終わったらすぐに帰って来なさい。お土産も楽しみにしているよ♪それはそうと先月アーサーが公爵位を継いだんだ。よく一緒に遊んでいたから伝えておくよ。家族一同リリアナの帰りを首を長くして待っているよ。
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