「錬金術師の母、異世界育児日記」

第6話: 「ルーカスの秘密」

平穏な日々が戻りつつある村の中で、リナは再び穏やかな日常を取り戻していた。フィンとカリーナも盗賊団との戦いの後、一層母親であるリナへの信頼を深め、彼女の言いつけをしっかりと守るようになっていた。そんな中、リナの心の中には、もう一人の息子――ルーカスのことが気になり始めていた。
ルーカスはまだ幼く、他の子供たちのように元気いっぱいではあるが、どこか独特な空気を纏っている。言葉も少なく、静かな子供であるが、リナは彼の目に何か深い感情や力が秘められているのを感じていた。
ある日のことだった。リナが自宅の作業場で次の錬金術の研究を進めていると、ルーカスが突然、彼女の側にやって来た。彼はいつもと変わらない無邪気な顔をしていたが、その日、何かが違うことにリナは気づいた。
「どうしたの？ルーカス？」
リナは優しく問いかけたが、ルーカスは何も言わずにリナの傍に立ち続けた。ただ、彼の目はリナが作り出している錬金術の道具に向けられている。その視線は、まるでそれを理解しているかのようだった。
「これ、気になる？」
ルーカスがコクリと小さく頷く。リナはその反応に少し驚きながらも、彼が興味を持っていることに気づいた。
「じゃあ、少し手伝ってもらおうかしら？」
リナは簡単な作業をルーカスに見せながら、彼に道具の使い方を教え始めた。ルーカスは真剣な表情でリナの動きを見つめ、その小さな手で器用に道具を操作していく。リナは驚いた。彼の手つきはまるで、錬金術をすでに知っているかのように自然だった。
「ルーカス……あなた、もしかして……」
リナが声をかけようとしたその瞬間、突然、周囲の空気が震え始めた。部屋の中に何か見えない力が渦巻いているのを感じたリナは、驚いてルーカスを見つめた。彼の手からは、淡い光が発せられていた。
「これは……魔法？」
リナの心は激しく揺れ動いた。ルーカスが持っているこの力――それは錬金術とも違う、純粋な魔法の力のようだった。リナはそれまで、彼が特別な力を持っているのではないかと感じていたが、実際に目の前でその力を目にすることになるとは思っていなかった。
「ルーカス、あなたは……魔法を使えるのね。」
リナは混乱しながらも、落ち着いて彼に話しかけた。しかし、ルーカスは何も答えず、ただじっとリナを見つめていた。その表情には、まだ自分自身でも理解していない力への戸惑いと不安が混じっているように見えた。

リナはその夜、ルーカスと二人きりで話すことにした。暖炉の前で、ルーカスを膝の上に座らせながら、彼の頭を優しく撫でた。
「ねぇ、ルーカス。今日、あなたが見せてくれた光……あれはどこから出てきたの？」
ルーカスはしばらく黙っていたが、やがて小さな声で答えた。
「……わかんない。でも、前から時々、出るんだ。」
リナは彼の言葉に耳を傾けながら、彼がこの力にどう向き合ってきたのかを考えていた。幼いながらに、この力が何か特別なものであることを感じ取っていたのかもしれない。しかし、リナは彼を恐れさせたくはなかった。
「怖かった？」
ルーカスは小さく頷いた。その表情を見て、リナの胸は痛んだ。彼が自分の持つ力を恐れていることが分かったからだ。
「でも、大丈夫よ。ルーカスは悪いことをしているわけじゃない。この力はきっと、素晴らしいものよ。私と一緒に、少しずつ学んでいこう。」
リナはそう言いながら、ルーカスの手を握った。彼の手は小さく、温かい。リナは彼を守りながら、この力を制御する方法を教えていく決意を固めた。

それから数日後、リナはルーカスに魔法を学ばせるための特訓を始めた。彼女自身、魔法に関する知識は限られていたが、錬金術と組み合わせれば何とか手がかりが掴めるはずだと考えていた。
最初に試したのは、彼の魔力の制御だ。リナは錬金術で作り出した小さな物体をルーカスに見せ、それを彼の魔法の力で動かしてもらう練習を始めた。ルーカスは最初こそ戸惑っていたが、次第にその力を上手にコントロールできるようになっていった。
「そう、上手よ！もう少し力を抜いて……」
リナの指示に従って、ルーカスは魔力を集中し、錬金術で作られた小さな石を宙に浮かせた。その様子を見たリナは、彼が本当に特別な才能を持っていることを実感した。

フィンとカリーナも、ルーカスの力を知るようになっていた。最初は驚いていた二人も、次第にルーカスを応援するようになった。
「ルーカス、すごいよ！魔法が使えるなんてかっこいい！」
フィンは弟の成長を見て、誇らしげに声をかけた。カリーナも嬉しそうに笑い、ルーカスのそばで彼を見守っていた。
リナはそんな子供たちの姿を見て、家族の絆が一層深まっていくのを感じていた。彼女自身も、母親としての役割をしっかりと果たしながら、子供たちの成長を見守ることができる喜びを噛み締めていた。

しかし、リナは同時に不安も感じていた。この世界にはまだ多くの未知の要素があり、ルーカスの持つ魔力が何を意味しているのか、完全には理解できていなかった。彼がどのような運命を辿ることになるのか、リナはその未来を知ることができない。
「でも、どんなことがあっても、私がこの子たちを守る……」
リナはそう心に誓いながら、再び研究室へと向かった。これから先、ルーカスが持つ魔力がどのような影響をもたらすのか、その答えを探すために彼女はさらに深く魔法の研究を進めていくことにした。