魔法少女に転生したけど、俺はオジサンです

第11話: 「魔王との決戦前夜、オッサンの涙」

異世界に転生してからというもの、俺は見た目は魔法少女、中身はオッサンとして、この世界で様々な戦いと日々を乗り越えてきた。筋トレとビール魔法、そしてオッサンギャグで異世界中に笑いと癒しを広げてきた俺、田中和也だ。しかし、そんな楽しい日々にもついに大きな試練が迫っていた。

「リリィ様、いよいよ魔王との決戦が近づいています…」

村長の厳しい言葉が、俺の心に重くのしかかる。ギャグやビールで人々を笑わせ、異世界での人気者となった俺だが、忘れちゃいけない。本来の目的は、この世界の魔王を倒すことだ。

夜、村の広場で一人座ってビールを飲んでいた。普段はこのビールの味が俺をリラックスさせ、心を落ち着かせてくれる。しかし、今日ばかりは違う。魔王との決戦を控え、どうにも心が落ち着かないのだ。

「俺に…本当に魔王を倒せるのか？」

これまでモンスターや魔王軍の指揮官たちを倒してきたが、相手は「魔王」だ。これまでとは桁違いの強さが予想される。それに、俺の魔法といえばビールやつまみ、そしてオッサン特有の筋力。はっきり言って、魔王を倒すための力としては頼りない。

「リリィ様…」

ふと声が聞こえて振り返ると、そこにはミナが立っていた。彼女はいつも俺を支えてくれる村の少女で、俺のギャグや魔法を心から信じてくれている。

「リリィ様、大丈夫ですか？」

「…ミナか。いや、大丈夫って言いたいところだけどな、正直、俺には魔王を倒せる自信がないんだよ」

ミナは驚いた表情で俺を見つめる。俺が弱音を吐くのは珍しいことだった。だが、魔王との決戦を前にして、さすがのオッサンでも心が揺らいでしまう。

「リリィ様は今までずっと私たちを守ってくれました。ビール魔法も筋力も、全部リリィ様の力です。それを信じていれば、魔王にも勝てるはずです！」

ミナの言葉に少し元気づけられた。だが、それでも不安は拭いきれない。俺は魔王との戦いで、果たして自分がどれほど役に立つのか。

「ありがとう、ミナ。でも…」

俺はため息をつきながらビールを一口飲んだ。こんな時、現実世界のことがふと思い浮かぶ。俺は45年間、ただ平凡な生活を送ってきた。特別なことなんて何もなかったし、失敗もたくさんしてきた。

「結局、俺はただのオッサンなんだよな…」

そう呟くと、ふと涙がこぼれ落ちた。異世界に転生してからは、魔法少女リリィとして色々なことがあったが、中身はやっぱりオッサンのままだ。転生しても、何も変わらないんじゃないかという思いが、心に押し寄せてくる。

「リリィ様…」

ミナは俺の隣に座り、静かに俺の肩に手を置いた。彼女は何も言わなかったが、その温かい手の感触が俺を少しだけ慰めてくれる。

「本当は…俺、こんな大役なんて荷が重いんだよ。でも、今さら逃げるわけにはいかないんだよな」

これまで異世界での戦いは、ビールやギャグでなんとか乗り越えてきたが、今回はそう簡単にはいかないだろう。魔王との決戦に向け、俺はこれまでの自分の人生を振り返り、心の中で静かに涙を流していた。

翌朝、村の人々は俺を見送るために集まっていた。みんなの期待に応えるため、俺は魔王との決戦に向かう準備を整えていた。

「リリィ様、どうか魔王を倒して、私たちに平和をもたらしてください！」

「リリィ様ならきっと勝てます！ 頑張ってください！」

村人たちの言葉が俺の背中を押す。俺は深呼吸をし、再び自分に言い聞かせた。

「そうだ…俺は、魔法少女リリィだ。中身はオッサンでも、この世界では俺が救世主なんだ…」

ビール魔法と筋力を駆使して、俺はこの異世界でできる限りのことをやるしかない。たとえ相手が魔王でも、俺は俺らしく戦うしかない。

ミナと村の人々の応援を背に、俺は魔王との決戦の場へと向かっていった。これまでの異世界生活のすべてをかけた、最後の大一番が始まろうとしている。

「行くぞ…オッサンの力、見せてやる！」

俺は拳を握りしめ、魔王との決戦に向かう覚悟を決めた。