魔法少女に転生したけど、俺はオジサンです

卍ェリーナジョリー

文字の大きさ
上 下
6 / 12

第6話: 「少女らしい魔法!? 無理です」

しおりを挟む
異世界に転生して、見た目は魔法少女、でも中身は45歳の独身オッサンの俺、田中和也。今までビールやつまみを召喚する魔法、オッサン特有の筋力を駆使して、この異世界でなんとか生き抜いてきた。村の人々の悩みをオッサン的な知恵で解決する「お悩み相談室」も好評だ。

だが、村長に「リリィ様は素晴らしい魔法をお使いになる」と言われるたびに、俺は心の中で葛藤していた。だって、俺の魔法はまったく魔法少女らしくない。もっとこう、キラキラした「魔法少女らしい」魔法を使わないと、このままオッサンキャラが固まってしまう気がする。

そんな俺の葛藤を察したのか、村の少女ミナがまたもや元気よく俺に話しかけてきた。

「リリィ様! 今日も魔法の訓練をしましょう!」

「…またか?」

ミナはすっかり俺を「魔法の達人」だと思い込んでいるが、俺の魔法はビールやつまみ関係ばかり。しかも筋力を駆使してモンスターを倒してきたけど、これじゃ俺が魔法少女だという設定がどこかに行ってしまう。

「ミナ…どうやら俺には、魔法少女っぽい魔法を使う才能がないかもしれないんだ…」

俺は正直に告白した。中身はオッサンだし、どうしても可愛い魔法なんて想像すらできない。しかし、ミナは全く気にしていない様子でにこやかに笑っている。

「そんなことありませんよ、リリィ様! 魔法少女だっていろいろなタイプがいるんです。自分らしい魔法を見つければいいんですよ!」

「自分らしい…?」

それは、オッサンとしての「俺らしさ」を指しているのか? ビールと筋力が俺の「魔法少女らしさ」だと言われたら、それはそれでショックだ。

そこで俺は、試しに**「少女らしい魔法」** を本気で試してみることにした。見た目は魔法少女なんだから、少しくらい女の子っぽい可愛らしい魔法を使ってもいいだろう。

「よし、やってみるか…」

俺はまず、手をかざして心の中で「キラキラ輝くピンクのハート」とか、「可愛い羽が舞い上がるような魔法」をイメージしながら魔力を込めてみた。少し恥ずかしいが、これも魔法少女としての宿命だ。

「出ろ! ハートビーム!」

だが、現れたのは…やはりビールの缶だった。しかも、冷たくキラキラ光るビール缶が俺の手元にぽんと現れる。

「うわあっ…またビールかよ!」

俺は自分で叫びたくなった。やっぱり俺には少女らしい魔法なんて無理だ。だが、ミナは不思議そうに俺の手元のビール缶を見ている。

「リリィ様、これはすごいです! 魔法少女がビールを召喚できるなんて、素晴らしいじゃないですか!」

「いや、違う…! 俺が欲しいのはこんなもんじゃなくて、もっと可愛くてキュートな…」

そう言いかけた時、突然遠くから大きな叫び声が聞こえてきた。

「モンスターが来たぞー!」

どうやら、またしても村を襲うモンスターが現れたらしい。俺は内心ため息をつきながらも、これが「魔法少女リリィ」としての務めだと自分に言い聞かせ、再び戦いの準備を整えた。

村の外れに向かうと、そこには巨大なグリフォンがいた。空を飛びながら、鋭い爪で村を攻撃しようとしている。これまでのオーガとは違い、空中戦を強いられそうだ。

「くそっ、空を飛んでる相手には筋力じゃ対抗できないぞ…」

ビール缶を投げつけても、空高く飛んでいる相手には当たらないだろう。俺はしばらくグリフォンの動きを見つめていたが、何か別の手を考えるしかない。

「飛んでる敵には、遠距離攻撃しかないな…」

俺は再び、何とかして魔法少女らしい「遠距離攻撃魔法」を発動しようと手をかざした。しかし、やはり頭に浮かぶのはビールや枝豆といったオッサン的なイメージばかり。

「くそ、なんで俺はこうもオッサンなんだ…!」

だが、その時ふとひらめいた。遠距離攻撃が必要ならば、俺の筋力をさらに強化し、「オッサン的パワー」を駆使してビールを飛ばすのはどうだろうか? 俺は試しに、自分の筋力を全開にしてビール缶を投げてみた。

「よし…いくぞ! ビールボンバー!」

俺は全力でビール缶を投げつけた。すると、そのビール缶はまるでロケットのような速度で飛び上がり、空を飛ぶグリフォンに直撃! ビールの爆発音と共に、グリフォンは驚いて空中でバランスを崩し、地面に落ちた。

「う、うまくいった…!」

俺は思わず歓声を上げた。ビールボンバーが空中の敵にも通用するとは思わなかった。グリフォンは地面に倒れ込み、動けなくなっている。

「リリィ様、すごいです! あんな強力な魔法を…!」

ミナは感動した様子で俺を見つめているが、正直言って俺はまだ納得していなかった。やっぱり、これじゃ「オッサン的」な力が主役で、魔法少女らしさはゼロだ。だが、どうやらこの世界では、俺のオッサン魔法が「魔法少女リリィ」として認められているようだ。

「これでいいのか…?」

そんな疑問を抱きつつも、グリフォンを倒したことに安心した俺は、再び村に戻ることにした。魔王討伐への道はまだ遠いが、俺は少しずつこの世界に自分の居場所を見つけつつある気がする。

次の日、村人たちは俺を「最強の魔法少女」としてさらに崇め立てるようになった。しかし、俺の心の中では「魔法少女らしい魔法」が使えないことに対する葛藤が消えることはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうやら世間ではウイルスが流行っているようです!!

うさ丸
SF
高校卒業を切っ掛けに、毒親との縁を断ちきり他県の田舎の山奥にある限界集落で新生活スローライフをスタートした。 順調だと思われた生活に異変が。都心で猛威を振るったウイルスが暴走、感染した人々が狂暴化し魔の手が迫って来る。逃げるべきか、それともこの場に留まるべきか。

未来から来た美女の俺

廣瀬純一
SF
未来から来た美女が未来の自分だった男の話

日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。

スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。 地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!? 異世界国家サバイバル、ここに爆誕!

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...