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三組目 吟遊詩人と踊り子

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 とある淫魔、キブリーは悩んでいた。その淫魔は両片想いの男女をセッ○スしないと出られない部屋にブチ込みその様子を見るのが何よりも好きな気持ちの悪い男であった。いつものように良さげな男女を見繕う作業に取り掛かっていたキブリーだが……。

「おねショタはいい……おねいさんとショタの組み合わせは黄金と同価値と言っても過言ではない……でも……」

 キブリーは悩んでいた。とても、とても悩んでいた。頭を抱え深刻な表情を浮かべる姿は厳しい大きな角と相まって謎の迫力がある。

 ちなみにキブリーが何故これほどまでに悩んでいるのかというと……。

「リアルおねショタをあの部屋にブチ込んだら犯罪ですぞ!!!!!」

 しょーもない事だった。そもそもどんな二人組でも拉致&性行為強要は犯罪である。だがこの場にそれをツッコむ者はいなかった。

「でも見たい!! ショタがどうすればいいのか分からず固まっているのを優しく導くえっちなおねいさんが見たい! でも性知識がないリアルショタにそんなことさせちゃだめぁー!!!!!」

 謎基準の良識に苦しみながら魔族はもんどりを打つ。手足をダバダバと動かしヘドバンする姿はさながら真夏の炎天下で死にかけているセミの最後の抵抗の様であり見苦しいことこの上なかった。

「マセガキショタおねは別ジャンルだしショタじじい系も今の気分じゃねぇ………Hey 水晶玉クン! ませてるから性知識はあるしおねいさんの事が好きなので意識しまくってるショタとショタの事を弟のように思ってたのにふとした時に男を感じてしまい動揺しそうなおねいさんの二人組いるぅ!? なんかこうセッ○スしちゃっても悲惨な空気にならずハッピーエンドになりそうなやつぅ!!!」
『少々お待ちください。検索中………………あ、いました。拉致りますか?』
「え!? マジでいた!? 拉致る拉致る!!そして抱けぇ!!!!! 」

 つい先程までの苦悩はどこへやら。キブリーは魔力を使い強制的におねいさんとショタ……もとい踊り子と吟遊詩人の二人組をいつものごとく拉致るのであった。



   ◇◇◇



「え? ここはいったい…………へ?」
「あら?あらあら……?」

 酒場での仕事が終わり泊まっていたホテルに戻った直後に拉致された二人は謎のピンク色空間withベッドにポカンとしていた。しかしデカデカと書かれている『セッ○スしないと出られない部屋』という文字を見て吟遊詩人のショタは床にひっくり返った。

「セセセセッ………って!?」
「あらあらまあまあ……」

 吟遊詩人ほどではないが隣にいた踊り子も動揺しているのか瞬きを何度も繰り返している。

「これってアレかしら。この頃噂になってるあの……」
「ふぇ……? 噂って……?」
「とある魔族が両想……男女を拐ってえっちなことさせてるんですって」
「え、えっちなこと………!?」
「変な噂だと思ってたけど本当だったのねぇ」

 真っ赤になってあわあわしている吟遊詩人に反して踊り子は困ったわぁと言いながら備え付けのハート型のベッドに座り脚を組む。元々踊りの為ほとんど下着に近いほど露出度の高い衣装を身に纏っているのもありその仕草と気怠げな雰囲気だけでも大層艶っぽいものであった。

(確か噂だとセッ○スしても構わないくらい好きあってる人達が拐われるって話だったけど……わたしソッチの趣味があったのかしら……? 確かにこの子は可愛いけど……)

 街を転々としながら踊りの仕事をしていた事もあり踊り子は魔族の噂を正確に把握していた。しかし自分もそれに当てはまるのかと想定すると些か疑問があった。踊り子にとって吟遊詩人は弟のような存在だと認識していたからだ。真っ赤になった吟遊詩人をまじまじと見つめると吟遊詩人の顔は更に赤みを増した。その初々しい反応に踊り子はクスリと笑った。

「ふふふ。困っちゃったわね」
「……本当に困ってるんですか?」
「ええ。どうしましょう。……そもそもキミはあの文字の意味分かるかしら?」
「あの文字って……」
「セッ○スのこと」
「……わ、分かりますよ。馬鹿にしてるんですか」
「そういうわけじゃないけど。念の為、ね?」
「……むぅ」
「でもそうなの……分かるくらいにオトナになったのねぇ……」

 露骨な子ども扱いに拗ねたのか唇を尖らせる吟遊詩人に踊り子は出会った時の事を思い出していた。

 踊り子と吟遊詩人が出会ったのは二年ほど前の事。立ち寄った村の酒場で緊張しながらも一生懸命竪琴を弾いていた子どもがいた。酒場を経営していた両親の手伝いをしたいと得意分野であった音楽を奏でていたのだ。

 美しい音色に惹かれ戯れにその音楽に合わせて踊ると驚きながらも呼応するように演奏を続ける姿を見て確信した。自分にとっての『音』はこの子なのだと。

(……うーん…………でもまだこの子は子どもだし……)

 踊り子は性に関してに寛容でそれなりの浮名を流していたが吟遊詩人はまだ幼く共に旅をする事が決まった時に彼の両親に色々と頼まれている事もありそういう目で見る事はよくない事だと思っていた。とはいえずっとこの部屋にいるのも現実的ではない。どうしたものかと踊り子がベッドに寝転がると吟遊詩人が視線を逸した。

(やっぱり目に毒だよこの格好……!)

 胸を申し訳程度に隠しているブラジャー形態の布は豊かな膨らみを隠しきれていないし下半身のパンツの上には綺羅びやかなコインと共に一応布が巻かれているがシースルーなので逆に色気を倍増させている。その扇情的な姿は歩くだけで男達を誘惑しているといっても過言ではなかった。

 吟遊詩人にとってもそれは同様なのでこうして目の前で無防備でいられると困ってしまうのだ。

(……うう………ダメだ、抑えないと……)

 初めて会った時から綺麗なおねいさんだ、と幼いながらにドキドキしていた吟遊詩人だが最近は第二次性徴の影響か敬意や純粋な好意の中に欲望が交じるようになってしまっていた。

(……でもぼくなんて向こうからしたら子どもなんだろうな)

 吟遊詩人は自身の手のひらを見下ろす。少しずつ成長はしているもののその手はまだ踊り子よりも小さかった。手だけではない。背も、足の大きさも、恋愛の経験も何もかも足りなかった。

 それは年齢によるものなので仕方ない事なのだがそれでも悔しいと感じるのがお年頃というものだった。

「んー、ねえ。ハグしてみましょ?」
「へ? ハグ、ですか?」
「ええ。セッ○スって色んな表現があるでしょう? 寝るとか抱き合うとか」
「あ、ああ。なるほど……」
「わたしね。キミには幸せになってもらいたいの。こんな変な事に巻き込まれて大切な『初めて』を消費させたくない。だからそうしなくていいなら別の方法を試したくて」
「…………ありがとうございます」

 踊り子の言葉は心から吟遊詩人の幸せを願って紡がれていた。その想いは嬉しいが大人としての線を引かれたようで吟遊詩人は寂寥感に苛まれながらも力なく頷いた。ぎこちなくベッドに上がり踊り子と抱き合った。

(や、柔らかい……こ、この感触胸が当たって……!!)

 肉感的で柔らかな双丘の感触と触れ合う体のぬくもりが全身に伝わりジワリと汗が滲む。心臓が全身に血液を巡らせる音が速まり息が少し乱れた。

(……っ……大きくなったのね。体つきも逞しくなって……)

 吟遊詩人が踊り子に興奮するように踊り子もまた吟遊詩人の成長に心を乱された。まだ柔らかさは残ってはいるものの鍛えだしたからか筋肉の硬さも感じられる腕がぎゅっと踊り子の背中に回る。

「……何も起きませんね?」
「そうねぇ。眠ってみる?」
「……このまま、ですか」
「ええ。嫌?」
「嫌というか……困ります。ドキドキして眠れません」
「あらまあ」
「わ、笑わないでくださいよ。正直今も大変なんですから……」
「大変? ……あら」

 吟遊詩人の緊張した様子を微笑ましく眺めていた踊り子だったがふと体に違和感を覚えた。下半身に小さいながらも硬いナニカが当たっているのだ。その正体を分からないほど踊り子は初心ではないので本当にオトナになったのねぇとからかい交じりに耳元で囁くと吟遊詩人は耳の裏側まで赤く染まった。

「し、仕方ないじゃないですか。そんな露出の多い格好の……す、好きな人に密着されたら……」
「……好きな人?」
「……こんな変な場所で言うつもりはなかったんですが………好きです。初めて会った時からずっと、ずーっと好きでしたっ!」
「───っ─!!」

 吟遊詩人の実直な愛の告白に踊り子は強い衝撃を受けた。それは体中が電撃を浴びせられたような、痺れるような衝撃だった。自分の中の理性だとか良識だとか罪悪感すらも吹き飛ばしてしまうくらい歓喜している自分にあ然としながらも踊り子は気まずげに視線を逸らす吟遊詩人の頬を撫でる。

「ごめんなさい。わたし、キミの前ではいいおねいさんでいたかったんだけど……」
「はい……?」
「悪いおねいさんだったみたい♡」
「んっ!?」

 スイッチが入ってしまった踊り子は吟遊詩人の頬を優しく両手で包み込み唇を重ねた。ちゅっ、ちゅっと小鳥のさえずりのような軽いキスを何度もした後、クタクタになった吟遊詩人に覆いかぶさる。

「……だいじょーぶ。おねいさんに任せなさい?」
「……は、はい…………」

 結局踊り子の教えの元、吟遊詩人は一人前の男になったのであった。



 それから一人前の『男』にしてもらった吟遊詩人が「責任を取ります……!!」 と踊り子の両親の元に挨拶に行きむしろ踊り子自身が「お前何小さな子誑かしてんだ!」と叱られる事になるのだがそれはまた別のお話である。



   ◇◇◇



「やっぱりおねショタなんだよなぁ!!!!!!!!!!!!!」

 部屋での一部始終を眺めていたキブリーは最初の葛藤をすっかり忘れて室内を走り回っていた。数少ない良識すら失い己の性癖を満たせて満足している単純かつ悪辣な男である。

『あの』
「なんだね水晶玉クン。今日は随分おしゃべりですな」
『貴方様はいつもこういう事をされていますが……淫魔であるのに『そういう』お相手はいらっしゃらないのですか』
「グハッ!? なんでそんな酷いコト言うのぉ!? いねーよそんなもん!! それにぃー、俺はエロい事したいんじゃなくて両片想いの二人組がアレコレ悩みながらも相手への好意と欲望から結局ヤルことヤル姿と過程と結果が見たいんですぅ!!!!!!」
『……なるほど。理解しました。貴方様は理解不能です』
「どっちそれ!?」

 キブリーと水晶玉はそんなしょうもない会話をした後次なるターゲットを探すのであった。
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