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お兄様には見る目があるのに!
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父の取り出した二冊の本を渡されたフォーテは、その表紙を確認する。
どちらも表紙はやや薄汚れ、経年による変化を感じさせる。
一冊は「取り扱い説明書翻訳版」
もう一冊は「心氣について」
と記載があった。
とりあえず、「取り扱い説明書翻訳版」と書かれた本を開いてみる。そこにはあまり上手くない、むしろ下手な、書きなぐったような判別に苦労しそうな字と、あまり上手いとは言えない絵が記載している。
その絵を見て、フォーテは何となく学校の課題で小さい頃に描いた、両親の似顔絵を思い出した。絵のクオリティはその程度のものと大差がないと思った。
内容を深く見る前に、もう一冊「心氣について」という本を開く。
こちらは普通に読める。著者を確認するとゼローテ=チュードとあることから、代々伝わる家訓を残したとされる、ご先祖様が記した書物だとわかった。
「これは?」
父のサンテに確認する。
「それはチュード家に代々伝わる書だ。お前の疑問は、その二冊の本を読めば大体わかるだろう。
まだ家督を譲る気はもちろんないが、その本は心氣の使い手であるお前に渡しておく」
「わかりました」
「とりあえず、それを読み終わったらまた話そう、今日はここまでだ。私もまだやり残した仕事がある」
そう言って、サンテは机の書類に目を戻す。
フォーテとファナは父上に挨拶してから退出した。部屋の外でファナが
「お兄様、一緒に謝っていただき、ありがとうございます」
と頭を下げ、おやすみの挨拶をしてからそれぞれの部屋へと別れた。
フォーテは自室に戻り、書斎ではちらりとしか中身を確認しなかった「取り扱い説明書翻訳版」の方を開く。
これはどうやら、マギレスチェンジャーの機能について書かれてあるようだ。字がお世辞にも読みやすいとは言えず、その上恐らくマギレスチェンジャーが造られた世界の言葉を、無理に翻訳しているため、理解が難しそうだ。
もしこれが、異世界から召喚された「ハヤト」が記したものであるなら、そもそもこの世界にはない単語や、概念の翻訳に苦労しているはずだ。フォーテはそう推理して、この本は今後、フォーテ自身がさらに翻訳するような形で、長期的に読み進めた方が良いだろうと結論付ける。
もう一方の本を開く。
読み進めると、ゴーダに説明された心氣の特徴と一致する部分が多い。
書いてある内容は伝聞ではなく、著者自身の体験として書かれているようだ。そこからわかるのは、やはり先祖が心氣を使っていたということだ。
フォーテは読み進めながら、色々あったこの二日間の事を考えていると、いつの間にか眠りに落ちていた。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
翌日、フォーテは本を鞄に入れてゴーダの道場へと向かう。師匠にも見てもらえば、色々な発見があるかもしれない。
ファナもフォーテに着いてきた。恐らく心氣が対魔族用の能力だと理解はしていても、違法ということで少し心配なのだろう、とフォーテは思った。
もうすぐ道場だ、というところで──
「あら、兄妹でお出掛け? ファナちゃん昨日道場に来なかったけど、どうしたの?」
後ろから声をかけられ、正確には『あら、兄妹で~』の『あ』辺りで超反応でフォーテは振り向いていた。
「マチルダおはよう!」
超反応で振り向いたフォーテが、愛しい許嫁に挨拶をした。
「お、おはよう……あなた、まるで魔力で強化されたかのような、振り向き見せたわね……あと、あなたじゃなくて、ファナちゃんに話しかけたんだけど。ファナちゃん、おはよう」
ファナは返事をする前に、嬉しそうに、それこそ犬なら、ちぎれるほど尻尾を振っているかのような兄にイライラしながらも、マチルダのどこが良いのよ、という気持ちで考える。
まず、外見。キツい印象はあるが、美人としてあげても良いだろう。次に性格。兄に許嫁として紹介される前から道場で付き合いがあるが、後輩の面倒見もよく、慕われている。なにより物事をハッキリ言うところは、自分とは違い尊敬できる美点だ。
うん、さすがお兄様、人を見る目がある。マチルダは許嫁として紹介されるなら、素晴らしい人物だ。
しかし圧倒的な欠点がある! 兄の良さがこの女には見抜けない! だから結局兄には相応しくない! 有罪! 有罪! 有罪!
──といった感情は一切表に出さず、ファナは挨拶を返した。
「マチルダ先輩、おはようございます。しばらくおやすみすると思います」
「そうなの? ファナちゃんが来ないと寂しいけど、しょうがないわね、じゃあね」
そう言ってマチルダは立ち去った。その後ろ姿を、フォーテは寂しそうに見ていた。
「お兄様、道場にいきましょ?」
ファナが引きずるように、ゴーダの道場に連行した。
(心氣で強くなって、あの女を見返してあげてください!)
ファナはもう、心氣に反対する気持ちは無くなっていた。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
それから一年間、フォーテは本を読み、ゴーダの元で修行し、さらに心氣を高めた。その結果ゴーダからも「もうワシを越えた」と評価された。
「取り扱い説明書翻訳版」についてはまだ分からないこともあるが、相手に心氣を叩き込む方法はマスターした。魔力の多い相手ほど、心氣を叩き込むのは効果的ということだった。
修行の成果を見せるため、フォーテは父サンテと手合わせをした。
その勝負は、マギレスチェンジャーを使用することなく、フォーテの圧勝だった。
結果、サンテはフォーテが自分以上の──つまり王国最強と認め、周囲から自分に、身内贔屓という非難が集まるのを承知で、フォーテを騎士団へと入団させた。
「心氣の事がバレたらヤバイから、上手く隠せよ」
そこは、フォーテに丸投げしながら。
どちらも表紙はやや薄汚れ、経年による変化を感じさせる。
一冊は「取り扱い説明書翻訳版」
もう一冊は「心氣について」
と記載があった。
とりあえず、「取り扱い説明書翻訳版」と書かれた本を開いてみる。そこにはあまり上手くない、むしろ下手な、書きなぐったような判別に苦労しそうな字と、あまり上手いとは言えない絵が記載している。
その絵を見て、フォーテは何となく学校の課題で小さい頃に描いた、両親の似顔絵を思い出した。絵のクオリティはその程度のものと大差がないと思った。
内容を深く見る前に、もう一冊「心氣について」という本を開く。
こちらは普通に読める。著者を確認するとゼローテ=チュードとあることから、代々伝わる家訓を残したとされる、ご先祖様が記した書物だとわかった。
「これは?」
父のサンテに確認する。
「それはチュード家に代々伝わる書だ。お前の疑問は、その二冊の本を読めば大体わかるだろう。
まだ家督を譲る気はもちろんないが、その本は心氣の使い手であるお前に渡しておく」
「わかりました」
「とりあえず、それを読み終わったらまた話そう、今日はここまでだ。私もまだやり残した仕事がある」
そう言って、サンテは机の書類に目を戻す。
フォーテとファナは父上に挨拶してから退出した。部屋の外でファナが
「お兄様、一緒に謝っていただき、ありがとうございます」
と頭を下げ、おやすみの挨拶をしてからそれぞれの部屋へと別れた。
フォーテは自室に戻り、書斎ではちらりとしか中身を確認しなかった「取り扱い説明書翻訳版」の方を開く。
これはどうやら、マギレスチェンジャーの機能について書かれてあるようだ。字がお世辞にも読みやすいとは言えず、その上恐らくマギレスチェンジャーが造られた世界の言葉を、無理に翻訳しているため、理解が難しそうだ。
もしこれが、異世界から召喚された「ハヤト」が記したものであるなら、そもそもこの世界にはない単語や、概念の翻訳に苦労しているはずだ。フォーテはそう推理して、この本は今後、フォーテ自身がさらに翻訳するような形で、長期的に読み進めた方が良いだろうと結論付ける。
もう一方の本を開く。
読み進めると、ゴーダに説明された心氣の特徴と一致する部分が多い。
書いてある内容は伝聞ではなく、著者自身の体験として書かれているようだ。そこからわかるのは、やはり先祖が心氣を使っていたということだ。
フォーテは読み進めながら、色々あったこの二日間の事を考えていると、いつの間にか眠りに落ちていた。
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翌日、フォーテは本を鞄に入れてゴーダの道場へと向かう。師匠にも見てもらえば、色々な発見があるかもしれない。
ファナもフォーテに着いてきた。恐らく心氣が対魔族用の能力だと理解はしていても、違法ということで少し心配なのだろう、とフォーテは思った。
もうすぐ道場だ、というところで──
「あら、兄妹でお出掛け? ファナちゃん昨日道場に来なかったけど、どうしたの?」
後ろから声をかけられ、正確には『あら、兄妹で~』の『あ』辺りで超反応でフォーテは振り向いていた。
「マチルダおはよう!」
超反応で振り向いたフォーテが、愛しい許嫁に挨拶をした。
「お、おはよう……あなた、まるで魔力で強化されたかのような、振り向き見せたわね……あと、あなたじゃなくて、ファナちゃんに話しかけたんだけど。ファナちゃん、おはよう」
ファナは返事をする前に、嬉しそうに、それこそ犬なら、ちぎれるほど尻尾を振っているかのような兄にイライラしながらも、マチルダのどこが良いのよ、という気持ちで考える。
まず、外見。キツい印象はあるが、美人としてあげても良いだろう。次に性格。兄に許嫁として紹介される前から道場で付き合いがあるが、後輩の面倒見もよく、慕われている。なにより物事をハッキリ言うところは、自分とは違い尊敬できる美点だ。
うん、さすがお兄様、人を見る目がある。マチルダは許嫁として紹介されるなら、素晴らしい人物だ。
しかし圧倒的な欠点がある! 兄の良さがこの女には見抜けない! だから結局兄には相応しくない! 有罪! 有罪! 有罪!
──といった感情は一切表に出さず、ファナは挨拶を返した。
「マチルダ先輩、おはようございます。しばらくおやすみすると思います」
「そうなの? ファナちゃんが来ないと寂しいけど、しょうがないわね、じゃあね」
そう言ってマチルダは立ち去った。その後ろ姿を、フォーテは寂しそうに見ていた。
「お兄様、道場にいきましょ?」
ファナが引きずるように、ゴーダの道場に連行した。
(心氣で強くなって、あの女を見返してあげてください!)
ファナはもう、心氣に反対する気持ちは無くなっていた。
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それから一年間、フォーテは本を読み、ゴーダの元で修行し、さらに心氣を高めた。その結果ゴーダからも「もうワシを越えた」と評価された。
「取り扱い説明書翻訳版」についてはまだ分からないこともあるが、相手に心氣を叩き込む方法はマスターした。魔力の多い相手ほど、心氣を叩き込むのは効果的ということだった。
修行の成果を見せるため、フォーテは父サンテと手合わせをした。
その勝負は、マギレスチェンジャーを使用することなく、フォーテの圧勝だった。
結果、サンテはフォーテが自分以上の──つまり王国最強と認め、周囲から自分に、身内贔屓という非難が集まるのを承知で、フォーテを騎士団へと入団させた。
「心氣の事がバレたらヤバイから、上手く隠せよ」
そこは、フォーテに丸投げしながら。
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