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「まず、話をより理解して貰うためにも、お主らが二百年前の状況をどう理解しておるか教えてくれるか、あ、別に変に話を引っ張るつもりはないぞ」
ゴーダの問いかけに、フォーテとファナは顔を見合わせてから、まずはフォーテが話を始めた。
「その時期の状況ですか? 確か人間と魔族との大きな戦争があって、引き分けて停戦した時期ですよね?」
「第二次人魔大戦です。それ以降は友好関係というか、お互いあまり干渉せず、 棲み分けしている状態ですね……とは言え、個人レベルでは、まれに互いの領域に侵入して争いもあるようですが」
ファナがフォーテの話に補足を加える。二人の話に頷きながらゴーダは話始めた。
「うむ、それが心氣が禁止された事に大きく関わっておる。まず、人間と魔族の違いからじゃな。
昨日も言ったが、心氣と魔力は両立しない。どちらかを鍛えれば、どちらかが消滅する……ここまでは昨日話した通りだ。嬢ちゃんは初耳だろうけどな」
ゴーダの言葉に二人は頷きながら、静かに続きを待つ。
「そして、生まれつき心氣の素養を一切持たない、魔力のみを持って生まれる存在、それが魔族たちじゃ。
魔族が持つ魔力の才能は、人間を遥かに凌駕しておる、その為魔族の中でも特に力あるものには、人間が魔力をいくら鍛えても絶対に勝てん。
そして当時は、心氣の使い手もおらんかった。なので人間は、魔力を魔族ほどは使えない、劣化した存在だと思われておった」
現在、魔力が使える身としては、魔族より劣っているという感覚は、ファナには無かった。
ゴーダの話を聞き、それは単純に魔族と戦うことが無いというのが、主な理由なのではないかと思った。
現在、海を隔てた大陸に住む魔族とは生息圏も違うし、出会うこともない。
直近の戦争も対魔族ではなく、同じ大陸にすむ人間同士だ。それでさえフォーテやファナは戦争を知らない世代だ。
当然フォーテやファナも当時の魔族の恐ろしさは聞いたことがあるが、あくまでもお伽噺の怪物と変わらない認識だった。
「人間が魔族との戦線を辛うじて維持できたのは、数のおかげだ。
だが、強力な魔族や、その中でも特に力を持つ魔公や魔王、魔神と呼ばれる存在には何人……いや何十、何百人が束になっても勝てなかったのだ。
その為、人間達のなかでも特に魔力が高いものが、膨大な犠牲を払って異世界の扉を開き、強力な魔族に対抗できる可能性のある、一人の人間を召喚した。
彼こそが心氣と呼ばれる力の、この世界で最初の使い手『ハヤト』じゃ」
「ハヤト……この国の人間の名前ではありませんね」
「うむ。彼は突然召喚され、戦えと言われてメチャクチャ駄々をこねたと言われておる」
「そのエピソード、要ります?」
話すことに少し酔い始めていたゴーダは、フォーテの突っ込みなど華麗にスルーして続けた。
「というのも彼は彼で、元の世界で何やら戦っていて、それが一段落ついた頃だったらしい。とは言え困っている人間を放って置けない彼は、魔族達と戦い始めた。
その時に素養のある人間に、心氣を伝授したのだ」
「なるほど、心氣とは異世界からもたらされた力なのですね」
ゴーダの話に折角兄が良いタイミングで合いの手を入れたのに、ゴーダは「気持ちよく話しているのでちょっと黙ってて」みたいな感じで、先を続けたようにファナには見えた。
「そして彼は、仲間と共に魔族と戦い続け、魔族達を倒して奴等を本来の生息域へと追い返し、停戦に漕ぎ着けたのだ。
その後、彼は元の世界に帰った。
『もうイチイチ呼ばれるの面倒なので、何かあったらコレ使ってね』という言葉と、金色の腕輪を残して、な」
遠くを見るような目をしながら、話終えた雰囲気を醸し出すゴーダに、フォーテはここまでの感想を述べた。
「最後、締まらないエピソードですね……」
「まあその後、なんやかんやあって、心氣は禁止されたのじゃ」
「いや、そこ話して貰えませんかね?」
今日の兄のツッコミは冴えている、これも心氣に目覚めたからなのか、とファナは思った。
「停戦に際して、魔族の姫が王の妾として嫁いで来てな。
王はその姫の魅力にメロメロとなってしまったと言われておる。
たぶん『ねぇーん、王さまぁ、心氣恐いから禁止にしてぇ』とか言われたんじゃないかな。
あと、王族的には戦争に勝ったのを異世界人の手柄にしたくない、というのもあるだろうな」
「ああ……はい、そうですか……ちなみに他の国では?」
「他国には、当時も心氣は伝わっておらん。ワシは戦災孤児だった子供の頃、師匠に拾われ山奥で心氣を教わると共に、今の話を聞いたのだ」
「そうだったんですか……」
「それで、もしまた魔族が新たな王を擁立し、人間との戦争を始めたとしたら、この力が必要となると思った。そのために後継者探しのために、半年前に山を下りたという訳だ」
一通り聞き終えたあと、フォーテはファナを見た。するとファナはしばらく何かを考えている様子だったが──
「ちょっと、待っててください!」
唐突にそう言って道場を飛び出した。
その後ろ姿をしばらく見送ったあと、ゴーダがポツリと溢す。
「通報に行った……とかじゃないよね?」
「さあ?」
不安を抱えてしばらく二人が待っていると、ファナが戻ってきた。
不安ではないが、ファナもまた手に何かを抱えていた。その手には、フォーテが見たことのない素材で出来た、金の腕輪があった。
ゴーダの問いかけに、フォーテとファナは顔を見合わせてから、まずはフォーテが話を始めた。
「その時期の状況ですか? 確か人間と魔族との大きな戦争があって、引き分けて停戦した時期ですよね?」
「第二次人魔大戦です。それ以降は友好関係というか、お互いあまり干渉せず、 棲み分けしている状態ですね……とは言え、個人レベルでは、まれに互いの領域に侵入して争いもあるようですが」
ファナがフォーテの話に補足を加える。二人の話に頷きながらゴーダは話始めた。
「うむ、それが心氣が禁止された事に大きく関わっておる。まず、人間と魔族の違いからじゃな。
昨日も言ったが、心氣と魔力は両立しない。どちらかを鍛えれば、どちらかが消滅する……ここまでは昨日話した通りだ。嬢ちゃんは初耳だろうけどな」
ゴーダの言葉に二人は頷きながら、静かに続きを待つ。
「そして、生まれつき心氣の素養を一切持たない、魔力のみを持って生まれる存在、それが魔族たちじゃ。
魔族が持つ魔力の才能は、人間を遥かに凌駕しておる、その為魔族の中でも特に力あるものには、人間が魔力をいくら鍛えても絶対に勝てん。
そして当時は、心氣の使い手もおらんかった。なので人間は、魔力を魔族ほどは使えない、劣化した存在だと思われておった」
現在、魔力が使える身としては、魔族より劣っているという感覚は、ファナには無かった。
ゴーダの話を聞き、それは単純に魔族と戦うことが無いというのが、主な理由なのではないかと思った。
現在、海を隔てた大陸に住む魔族とは生息圏も違うし、出会うこともない。
直近の戦争も対魔族ではなく、同じ大陸にすむ人間同士だ。それでさえフォーテやファナは戦争を知らない世代だ。
当然フォーテやファナも当時の魔族の恐ろしさは聞いたことがあるが、あくまでもお伽噺の怪物と変わらない認識だった。
「人間が魔族との戦線を辛うじて維持できたのは、数のおかげだ。
だが、強力な魔族や、その中でも特に力を持つ魔公や魔王、魔神と呼ばれる存在には何人……いや何十、何百人が束になっても勝てなかったのだ。
その為、人間達のなかでも特に魔力が高いものが、膨大な犠牲を払って異世界の扉を開き、強力な魔族に対抗できる可能性のある、一人の人間を召喚した。
彼こそが心氣と呼ばれる力の、この世界で最初の使い手『ハヤト』じゃ」
「ハヤト……この国の人間の名前ではありませんね」
「うむ。彼は突然召喚され、戦えと言われてメチャクチャ駄々をこねたと言われておる」
「そのエピソード、要ります?」
話すことに少し酔い始めていたゴーダは、フォーテの突っ込みなど華麗にスルーして続けた。
「というのも彼は彼で、元の世界で何やら戦っていて、それが一段落ついた頃だったらしい。とは言え困っている人間を放って置けない彼は、魔族達と戦い始めた。
その時に素養のある人間に、心氣を伝授したのだ」
「なるほど、心氣とは異世界からもたらされた力なのですね」
ゴーダの話に折角兄が良いタイミングで合いの手を入れたのに、ゴーダは「気持ちよく話しているのでちょっと黙ってて」みたいな感じで、先を続けたようにファナには見えた。
「そして彼は、仲間と共に魔族と戦い続け、魔族達を倒して奴等を本来の生息域へと追い返し、停戦に漕ぎ着けたのだ。
その後、彼は元の世界に帰った。
『もうイチイチ呼ばれるの面倒なので、何かあったらコレ使ってね』という言葉と、金色の腕輪を残して、な」
遠くを見るような目をしながら、話終えた雰囲気を醸し出すゴーダに、フォーテはここまでの感想を述べた。
「最後、締まらないエピソードですね……」
「まあその後、なんやかんやあって、心氣は禁止されたのじゃ」
「いや、そこ話して貰えませんかね?」
今日の兄のツッコミは冴えている、これも心氣に目覚めたからなのか、とファナは思った。
「停戦に際して、魔族の姫が王の妾として嫁いで来てな。
王はその姫の魅力にメロメロとなってしまったと言われておる。
たぶん『ねぇーん、王さまぁ、心氣恐いから禁止にしてぇ』とか言われたんじゃないかな。
あと、王族的には戦争に勝ったのを異世界人の手柄にしたくない、というのもあるだろうな」
「ああ……はい、そうですか……ちなみに他の国では?」
「他国には、当時も心氣は伝わっておらん。ワシは戦災孤児だった子供の頃、師匠に拾われ山奥で心氣を教わると共に、今の話を聞いたのだ」
「そうだったんですか……」
「それで、もしまた魔族が新たな王を擁立し、人間との戦争を始めたとしたら、この力が必要となると思った。そのために後継者探しのために、半年前に山を下りたという訳だ」
一通り聞き終えたあと、フォーテはファナを見た。するとファナはしばらく何かを考えている様子だったが──
「ちょっと、待っててください!」
唐突にそう言って道場を飛び出した。
その後ろ姿をしばらく見送ったあと、ゴーダがポツリと溢す。
「通報に行った……とかじゃないよね?」
「さあ?」
不安を抱えてしばらく二人が待っていると、ファナが戻ってきた。
不安ではないが、ファナもまた手に何かを抱えていた。その手には、フォーテが見たことのない素材で出来た、金の腕輪があった。
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