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壱 かりそめの花嫁
汝と我の契りと為す【三】
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気づけば操り人形さながらに、首を縦に何度も振っていた。
それまで、強い力でもって瞳子の口を覆っていた虎太郎の手が、外される。脱力した瞳子は、膝からくずおれた。
「……すまなかった」
急に取り込めた酸素に咳き込む瞳子の背中をさすりながら、虎太郎が言った。
「な……にが……ッ、すま、な……かっ、……た、よ!」
信じた途端の裏切り行為に対する苦い想いを抱え、瞳子は力の入らない手で虎太郎の胸を叩く。目には、生理的な反射で浮かんだ涙がにじむ。
「見せるつもりはなかった。
……瞳子は、生まれ育った場所に帰りたいんだろう?」
「当たり、まえ……で、しょう……ッ!」
「……なら、いま見たものは、忘れてくれ」
そう告げた虎太郎の表情は、彼らに対する怒りを忘れさせるには十分なほど、憂いを帯びていた。
(は? 何? どういうこと……?)
「“神獣”の真実の名を初めて知り得るのは“契りの儀”を交わした相手、つまり、“花嫁”なんですよ」
「イチ」
「いえ、これだけは言わせてもらいます。
貴女がセキ様に【声に出さずに伝えられるまで】、誰も知り得ないことを貴女は知ってしまった訳です。
これが、どういうことかお解りになりますか?」
もったいつけた言い方にムッとしていると、答えを要しない口調でイチが続けた。
「貴女がセキ様に真名を伝えられなければ、セキ様ご自身は永久にご自分の名を知ることはない、ということになるのですよ」
思わず、虎太郎を振り返る。
気まずそうに視線をそらし、虎太郎は立ち上がった。
「ちょっと! 何その責任重大な感じ!
だいたい、声にださないで伝えるって、どういうことよ? さっきの──」
と、先ほど見た虎太郎の真の名だという漢字二文字を口にしようとした。が。
「──。──?
……って! なんで言えないのよーッ!!」
瞳子の絶叫が、虚しく辺りに響いた。
それまで、強い力でもって瞳子の口を覆っていた虎太郎の手が、外される。脱力した瞳子は、膝からくずおれた。
「……すまなかった」
急に取り込めた酸素に咳き込む瞳子の背中をさすりながら、虎太郎が言った。
「な……にが……ッ、すま、な……かっ、……た、よ!」
信じた途端の裏切り行為に対する苦い想いを抱え、瞳子は力の入らない手で虎太郎の胸を叩く。目には、生理的な反射で浮かんだ涙がにじむ。
「見せるつもりはなかった。
……瞳子は、生まれ育った場所に帰りたいんだろう?」
「当たり、まえ……で、しょう……ッ!」
「……なら、いま見たものは、忘れてくれ」
そう告げた虎太郎の表情は、彼らに対する怒りを忘れさせるには十分なほど、憂いを帯びていた。
(は? 何? どういうこと……?)
「“神獣”の真実の名を初めて知り得るのは“契りの儀”を交わした相手、つまり、“花嫁”なんですよ」
「イチ」
「いえ、これだけは言わせてもらいます。
貴女がセキ様に【声に出さずに伝えられるまで】、誰も知り得ないことを貴女は知ってしまった訳です。
これが、どういうことかお解りになりますか?」
もったいつけた言い方にムッとしていると、答えを要しない口調でイチが続けた。
「貴女がセキ様に真名を伝えられなければ、セキ様ご自身は永久にご自分の名を知ることはない、ということになるのですよ」
思わず、虎太郎を振り返る。
気まずそうに視線をそらし、虎太郎は立ち上がった。
「ちょっと! 何その責任重大な感じ!
だいたい、声にださないで伝えるって、どういうことよ? さっきの──」
と、先ほど見た虎太郎の真の名だという漢字二文字を口にしようとした。が。
「──。──?
……って! なんで言えないのよーッ!!」
瞳子の絶叫が、虚しく辺りに響いた。
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