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【第五章】
先輩と花火と本当の気持ち⑩
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そんな私の態度にちょっと笑いながら、先輩が立ち上がった。
その場で、伸びをする。
「いまじゃ、この通り背が伸びまくって、バレーボールやってるしな。
けど、セッターっていうポジションのこだわりって、そいつの球を活かしてやれなかったっていう、キャッチャーとしての心残りからなんだよな、きっと」
佐竹先輩の口からセッターをやっている理由が告げられて、そこで初めて納得がいった。
……そっか。
どちらも、
「エースを活かしてやる」
という意味においては、共通しているものね。
中学の時に気になっていたことが、ようやく解決して、とてもすっきりとした気分になった。
なーんだ、そうだったんだ……。
「───それより、松原」
と、佐竹先輩が、口調をガラリとかえてきた。にやっと笑う。
「妬いてただろ、さっき。オレの話を勘違いして聞いてて」
見透かすように突然だされた言葉に、落ち着きを取り戻したはずの胸が、ドキンと高鳴った。
そんな自分を隠すように、きっぱりと否定する。
「妬いてません!」
「照れるなって。
そーかー、松原はそういう解釈したんだ、オレの『修復不可能な相手の話』を。
へぇー」
なんだかやけに嬉しそうに一人で納得している先輩。
私は、ムッとして立ち上がった。
「私、帰ります。さようなら」
下駄を無理やり履いて、歩きだす。
同時に、ぴりっと足指に痛みが走り、バランスをくずしたところで身体を支えられた。
「無茶するなー、松原は。
もうだいぶ休んだから、家まで背負っていってやれるよ。
遠慮すんなって」
佐竹先輩は、苦笑まじりにやんわりと言う。
でも───でも……どうしよう。
意地を張ってこの手を振り払っても、ここから家までの距離を考えると、それは無謀な気がした。
しぶしぶ先輩を見上げる。
「よろしく……お願いします」
ぺこりと頭を下げる。
痛みに耐え兼ねたとはいえ、この態度は進歩かもしれない。
「そんな他人行儀なことすんなよなー。オレと松原の仲だろーが」
満面の笑みで、勝ち誇ったように言う佐竹先輩。
なんかちょっと、くやしいかも……。
そうは思いつつも、ふたたび先輩の背中に身を預けた。
さきほどまで静かだった通りに、まばらに人が増え始めた。
そうして、花火見物を終えて帰ろうとする人々のなかに、私たちも加わった。
たいていは親子連れが多かったけど、若い人の顔も何組か見える。
人の群れのなかで、このままの姿勢でいるには抵抗を覚えたものの、足の付け根の痛みは限界を越えている。
我慢するしか、なかった。
さいわい、みんな自分たちの会話に夢中のようで、他の人の視線が痛い、というようなことはなかった。
それでも恥ずかしさは否めず、私は先輩の背に顔を伏せるように近づけた。
唐突に、先輩が言った。
「松原。途中、寄り道しよーか」
さりげない口調。
なのに、その発言の裏側があからさまに透けてみえて、私は素っ気なく答えた。
「……いかがわしい場所に行きたいのなら、他の人を誘ってください。
私はここで下りますから」
その場で、伸びをする。
「いまじゃ、この通り背が伸びまくって、バレーボールやってるしな。
けど、セッターっていうポジションのこだわりって、そいつの球を活かしてやれなかったっていう、キャッチャーとしての心残りからなんだよな、きっと」
佐竹先輩の口からセッターをやっている理由が告げられて、そこで初めて納得がいった。
……そっか。
どちらも、
「エースを活かしてやる」
という意味においては、共通しているものね。
中学の時に気になっていたことが、ようやく解決して、とてもすっきりとした気分になった。
なーんだ、そうだったんだ……。
「───それより、松原」
と、佐竹先輩が、口調をガラリとかえてきた。にやっと笑う。
「妬いてただろ、さっき。オレの話を勘違いして聞いてて」
見透かすように突然だされた言葉に、落ち着きを取り戻したはずの胸が、ドキンと高鳴った。
そんな自分を隠すように、きっぱりと否定する。
「妬いてません!」
「照れるなって。
そーかー、松原はそういう解釈したんだ、オレの『修復不可能な相手の話』を。
へぇー」
なんだかやけに嬉しそうに一人で納得している先輩。
私は、ムッとして立ち上がった。
「私、帰ります。さようなら」
下駄を無理やり履いて、歩きだす。
同時に、ぴりっと足指に痛みが走り、バランスをくずしたところで身体を支えられた。
「無茶するなー、松原は。
もうだいぶ休んだから、家まで背負っていってやれるよ。
遠慮すんなって」
佐竹先輩は、苦笑まじりにやんわりと言う。
でも───でも……どうしよう。
意地を張ってこの手を振り払っても、ここから家までの距離を考えると、それは無謀な気がした。
しぶしぶ先輩を見上げる。
「よろしく……お願いします」
ぺこりと頭を下げる。
痛みに耐え兼ねたとはいえ、この態度は進歩かもしれない。
「そんな他人行儀なことすんなよなー。オレと松原の仲だろーが」
満面の笑みで、勝ち誇ったように言う佐竹先輩。
なんかちょっと、くやしいかも……。
そうは思いつつも、ふたたび先輩の背中に身を預けた。
さきほどまで静かだった通りに、まばらに人が増え始めた。
そうして、花火見物を終えて帰ろうとする人々のなかに、私たちも加わった。
たいていは親子連れが多かったけど、若い人の顔も何組か見える。
人の群れのなかで、このままの姿勢でいるには抵抗を覚えたものの、足の付け根の痛みは限界を越えている。
我慢するしか、なかった。
さいわい、みんな自分たちの会話に夢中のようで、他の人の視線が痛い、というようなことはなかった。
それでも恥ずかしさは否めず、私は先輩の背に顔を伏せるように近づけた。
唐突に、先輩が言った。
「松原。途中、寄り道しよーか」
さりげない口調。
なのに、その発言の裏側があからさまに透けてみえて、私は素っ気なく答えた。
「……いかがわしい場所に行きたいのなら、他の人を誘ってください。
私はここで下りますから」
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