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【第五章】
先輩と花火と本当の気持ち④
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折よく高校受験も重なってたし、松原のことはもういいやって思った。
もともと自分の欲求を満たしたかっただけだからな。
そんな風にわりきるのは、簡単だった」
そこまで言って、佐竹先輩は、くくっと笑いだした。
「な、なんですか、先輩」
いきなり理由も分からずに笑いだされ、あせってその長身を見上げた。
すると先輩は、そんな私の頭を、大きな手のひらでポンポンと叩いてきた。
「と、思ったんだよ、オレ」
いくぶん笑いを含んだ口調で言いきって、先輩は私に向かって笑ってみせた。
いつものように、人懐こい笑みを。
「だけどさー、全然、簡単なことじゃなかった。
松原がさ、高校に行ってもあの調子で、世界中を敵に回すみたいな目ぇして、一人も友達つくらなくて、私は孤独が好きなのって態度してんのかなーって。
……そんなこと、考えたりして。
ひとつ気になりだしたら、止まらなくなってさ。
それで思い直したんだ、自分の気持ちをいちいち理由づけするのは馬鹿馬鹿しいって」
言いながら、私の頭にのせた手のひらでもって、私の髪をくしゃっとかきまぜる。
「好きなら好きで、いいじゃんってさ」
私を見つめて、つり上がりぎみの目もとを優しく細める。
「だからオレは、いまでも松原香緒里が好きなんだ」
───息が、止まりそうになった。
改めて、思いしらされた気がする。
この人はなんて真っすぐに、自分の気持ちをぶつけられる人なんだろう。
それでいて、相手に負担をかけない物言いに、しばらく言葉が見つからなかった。
ようやく口をついてでたのは、苦し紛れの皮肉でしかなかった。
「……ずいぶん、楽天的なことを言うんですね。
うらやましいです、先輩が」
「だーろー?
そしてオレの魅力を再確認する松原。
まさしく愛は勝つ」
「なんなんですか、それは。
言っておきますが、先輩のことを褒めたつもりはないですよ?」
「あれ? 違うの?」
まったくもう。すぐに調子にのるんだから。
けれども、やっぱりおかしくて、私は声を立てて笑いだした。
神社の境内に立ち並ぶ夜店を、冷やかしながら歩いていく、佐竹先輩。
そのあとを追いながら、時折、藍色の空に上がる花火を、見上げていた。
夜店が切れるあたりまで来た時、先輩が腕時計に目を落とし、それから私を見た。
「松原、これからちょっと付き合ってもらいたい所があるんだけど、いいかな?」
「……付き合う? どこにですか?」
「はっ。その目はオレを疑っているな!?
前にも言ったが、オレは本人の意思も考えないで」
「分かりました。茶化さなくて結構です。
どこに、付き合えばいいんですか?」
皆まで言わせずにさえぎると、佐竹先輩はわずかに目を細めて私を見た。
「夢見ヶ丘」
あまりにも穏やかで静かな声は、私の調子を狂わせた。
「今から、行くんですか?」
「ん」
短く佐竹先輩はうなずき返し、私の手を引いて歩きだした。
先輩……?
もともと自分の欲求を満たしたかっただけだからな。
そんな風にわりきるのは、簡単だった」
そこまで言って、佐竹先輩は、くくっと笑いだした。
「な、なんですか、先輩」
いきなり理由も分からずに笑いだされ、あせってその長身を見上げた。
すると先輩は、そんな私の頭を、大きな手のひらでポンポンと叩いてきた。
「と、思ったんだよ、オレ」
いくぶん笑いを含んだ口調で言いきって、先輩は私に向かって笑ってみせた。
いつものように、人懐こい笑みを。
「だけどさー、全然、簡単なことじゃなかった。
松原がさ、高校に行ってもあの調子で、世界中を敵に回すみたいな目ぇして、一人も友達つくらなくて、私は孤独が好きなのって態度してんのかなーって。
……そんなこと、考えたりして。
ひとつ気になりだしたら、止まらなくなってさ。
それで思い直したんだ、自分の気持ちをいちいち理由づけするのは馬鹿馬鹿しいって」
言いながら、私の頭にのせた手のひらでもって、私の髪をくしゃっとかきまぜる。
「好きなら好きで、いいじゃんってさ」
私を見つめて、つり上がりぎみの目もとを優しく細める。
「だからオレは、いまでも松原香緒里が好きなんだ」
───息が、止まりそうになった。
改めて、思いしらされた気がする。
この人はなんて真っすぐに、自分の気持ちをぶつけられる人なんだろう。
それでいて、相手に負担をかけない物言いに、しばらく言葉が見つからなかった。
ようやく口をついてでたのは、苦し紛れの皮肉でしかなかった。
「……ずいぶん、楽天的なことを言うんですね。
うらやましいです、先輩が」
「だーろー?
そしてオレの魅力を再確認する松原。
まさしく愛は勝つ」
「なんなんですか、それは。
言っておきますが、先輩のことを褒めたつもりはないですよ?」
「あれ? 違うの?」
まったくもう。すぐに調子にのるんだから。
けれども、やっぱりおかしくて、私は声を立てて笑いだした。
神社の境内に立ち並ぶ夜店を、冷やかしながら歩いていく、佐竹先輩。
そのあとを追いながら、時折、藍色の空に上がる花火を、見上げていた。
夜店が切れるあたりまで来た時、先輩が腕時計に目を落とし、それから私を見た。
「松原、これからちょっと付き合ってもらいたい所があるんだけど、いいかな?」
「……付き合う? どこにですか?」
「はっ。その目はオレを疑っているな!?
前にも言ったが、オレは本人の意思も考えないで」
「分かりました。茶化さなくて結構です。
どこに、付き合えばいいんですか?」
皆まで言わせずにさえぎると、佐竹先輩はわずかに目を細めて私を見た。
「夢見ヶ丘」
あまりにも穏やかで静かな声は、私の調子を狂わせた。
「今から、行くんですか?」
「ん」
短く佐竹先輩はうなずき返し、私の手を引いて歩きだした。
先輩……?
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