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【第五章】
先輩と花火と本当の気持ち③
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もっと他に、先輩に似合う女の人がいるはずなのに。
どうしてこの人は、私の側になんか、いるんだろう?
───だから、甘えている。
甘えて、しまっている……。
私の言葉をどう受け取ったのか、佐竹先輩はちょっと笑った。
「なんだよ。松原、妬いてんのかー?
昼間のヤツは、そういうんじゃなくてさ。
部の勧誘で勝手に向こうが付きまとってきただけで、オレはずーっと、松原一筋だって」
絶やさない笑みに、なんだか無性に腹が立って、その場に立ち止まる。
頭に血がのぼったような気がした。
「───もう……いいです。
私なんか、放っておいてください!
これ以上、私に、構わないでっ……!」
強く言いきるつもりのところで、不覚にも視界が涙でにじんだ。
───苦しかった。
先輩は……与太郎くん───あの頃の、タロちゃんに、似ていて。
一緒にいると、自分から手放した日々を、取り戻せるような気がして。
でも、だから、終わりにしたい……!
いつまでも『タロちゃん』の幻影を、佐竹先輩のなかに追っている自分が、赦せなかった。
いま、こうして久しぶりに先輩と一緒にいて、また同じ過ちを繰り返そうとしている、自分が。
───打ち上げ花火の音が、遠くのほうから聞こえてくる。
「……始まったみたいだな。行こうか、松原」
ポン、と。
肩に置かれた手を、一瞬、振り払いかけた。
けれども、やけに子供じみた行為に思えて、息をついて取りやめる。
先輩から顔を背けるように、うつむいて歩きだした。
「あのさ、松原」
佐竹先輩のその声は、あの日を───ふたりで野球を観に行った日のことを思いださせる、真になる響きを帯びていた。
「オレがお前のこと、好きになった理由が分かるか?」
私は乱暴に首を振った。
そんなこと、分かるはずがない。
私の歩調に合わせて、ゆっくりと夜道を歩きながら、佐竹先輩はちょっと笑った。
「すごく、ささいなことだよ。
───オレとの仲が修復不可能な奴に、松原が似てたから。
ただ、それだけなんだ」
思わず、佐竹先輩を見上げた。
びっくりした。
それは、私の事情を、そのまま告げられたように感じたからだ。
「そいつとは、ま、いろいろあってさ。
取り返しがつかないようになってから、やっとそいつの真意が分かったっていうか……。
そいつの不器用さをくみとってやることができなくて、悔しかった。
だからオレは、代わりに松原を救うことで、そんな自分の想いを解放したかった。
代償行為ってヤツ。
……あの時、松原にふられるまではさ」
「野球……観に行った時のことですか?」
問い返すと、先輩は自嘲的にうなずいた。
「そう。それでオレ、思ったんだ。
やっぱり、こんないいかげんな気持ちでぶつかっても、そりゃ、ダメだよなって。
結局オレは、松原を利用して、自己満足したかっただけなんだなって。
そんな自分にあきれたよ、本当に」
どうしてこの人は、私の側になんか、いるんだろう?
───だから、甘えている。
甘えて、しまっている……。
私の言葉をどう受け取ったのか、佐竹先輩はちょっと笑った。
「なんだよ。松原、妬いてんのかー?
昼間のヤツは、そういうんじゃなくてさ。
部の勧誘で勝手に向こうが付きまとってきただけで、オレはずーっと、松原一筋だって」
絶やさない笑みに、なんだか無性に腹が立って、その場に立ち止まる。
頭に血がのぼったような気がした。
「───もう……いいです。
私なんか、放っておいてください!
これ以上、私に、構わないでっ……!」
強く言いきるつもりのところで、不覚にも視界が涙でにじんだ。
───苦しかった。
先輩は……与太郎くん───あの頃の、タロちゃんに、似ていて。
一緒にいると、自分から手放した日々を、取り戻せるような気がして。
でも、だから、終わりにしたい……!
いつまでも『タロちゃん』の幻影を、佐竹先輩のなかに追っている自分が、赦せなかった。
いま、こうして久しぶりに先輩と一緒にいて、また同じ過ちを繰り返そうとしている、自分が。
───打ち上げ花火の音が、遠くのほうから聞こえてくる。
「……始まったみたいだな。行こうか、松原」
ポン、と。
肩に置かれた手を、一瞬、振り払いかけた。
けれども、やけに子供じみた行為に思えて、息をついて取りやめる。
先輩から顔を背けるように、うつむいて歩きだした。
「あのさ、松原」
佐竹先輩のその声は、あの日を───ふたりで野球を観に行った日のことを思いださせる、真になる響きを帯びていた。
「オレがお前のこと、好きになった理由が分かるか?」
私は乱暴に首を振った。
そんなこと、分かるはずがない。
私の歩調に合わせて、ゆっくりと夜道を歩きながら、佐竹先輩はちょっと笑った。
「すごく、ささいなことだよ。
───オレとの仲が修復不可能な奴に、松原が似てたから。
ただ、それだけなんだ」
思わず、佐竹先輩を見上げた。
びっくりした。
それは、私の事情を、そのまま告げられたように感じたからだ。
「そいつとは、ま、いろいろあってさ。
取り返しがつかないようになってから、やっとそいつの真意が分かったっていうか……。
そいつの不器用さをくみとってやることができなくて、悔しかった。
だからオレは、代わりに松原を救うことで、そんな自分の想いを解放したかった。
代償行為ってヤツ。
……あの時、松原にふられるまではさ」
「野球……観に行った時のことですか?」
問い返すと、先輩は自嘲的にうなずいた。
「そう。それでオレ、思ったんだ。
やっぱり、こんないいかげんな気持ちでぶつかっても、そりゃ、ダメだよなって。
結局オレは、松原を利用して、自己満足したかっただけなんだなって。
そんな自分にあきれたよ、本当に」
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