【完結】眼鏡ごしの空

一茅苑呼

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【第二章】

友達でいるから③

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タロちゃん……タロちゃんだ。

両ひざに手を置いて、私を見下ろしてくる彼の姿が、そこにあった。

嬉しいような泣きたいような、そんな気分になる。

「お前ドジだなー。どこ行くんだよ?」

私の体操服についた砂ぼこりをはたきつつ、乱暴な口調で言ってはいたけど、タロちゃんの表情は優しかった。

「保健室に行こうとして、転んじゃったの」

えへへ、と、照れ笑いを浮かべてみせる。

タロちゃんは面白くなさそうに、ふーんと相づちをうった。

私に背中を向け、腰をかがめる。

「ほら。連れて行ってやるよ」

「え。でも……」

「いいから」

肩ごしにこちらを見たタロちゃんの顔は、怒っているようだった。

もともと目つきの鋭いのが、いっそう怖い顔になる。
逆らえずに、言葉に従い、彼の背におぶさった。

「ごめんね、タロちゃん」

「……なんで、お前が謝るんだよ」

謝んのはあいつらの方だろ、と、ぶつぶつ言いながら歩くタロちゃんに、思わず言った。

「見てたの……?」

「オレのチーム試合やってなかったから、他の奴らと、女子のほうを見てた。
そしたらお前、足引きずって出て行くし……」

言って、いらだたしげに溜息をつく。

「そっか……」

ちょっと笑うと、笑い声が、タロちゃんの歩みと共にぶれた。

しばらくの沈黙のあと、

「あー、腹減った」

独りごとのようにぶっきらぼうに言いきるタロちゃんに、くすっと笑ってしまった。

「小学校の時、一人で二人分は食べてたもんね、タロちゃんは。
それで、私にくれたりもしたんだよね……」

最後は小さく言って、タロちゃんの頭を見つめた。

タロちゃんに背負われて見る、廊下や窓の外に広がる景色は、いつもとずいぶん違って見えた。

天井にあるシミや、遠くのほうまで見渡せる景色……。

背が、伸びたんだよね。

きっと、もっと、これからも、伸びてゆくよね。

ずっと……高く。

「あのさ、香緒里」

「……なに?」

それまで押し黙っていた彼は、私が訊き返すと、言いにくそうに、それでも強い口調で話しだす。

「───小学校の頃さ、お前、クラスの女子とかに、いろいろとヤなことされてただろ?
で、オレはそのたびに、そいつらに文句いってた。
だって、不当なことされてるの、香緒里のほうだったもんな。
……でも、オレ気づいたんだ」

そこで、言葉を切る。

「香緒里に対する嫌がらせがエスカレートするのって、みんな、オレのせいだったんだよな」

な……に? なに、それ。

一瞬、頭が真っ白になって、言葉が浮かんでこなくなった。

でも、すぐに言い返した。

「タロちゃん、それ違うよ。
みんなは、私が気に入らなくて……」

向こうを向いたまま、タロちゃんは軽く首を横に振った。

「オレがかばうたび、ひどくなってた。
……心当たり、あるだろ?」

そう……だけど。でも、私は……。

「私、タロちゃんがいたから行けたんだよ、学校」

彼の言い分を否定したい一心で告げる声は、思いつめたような響きになった。
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