5 / 35
【第一章】
彼と彼女と先輩と⑤
しおりを挟む
約束の時間まで、まだ少しあるのをいいことに、買ってきたクラシックのCDをかけ、ベッドに身を投げた。
開け放った窓から、生暖かい風が入ってくる。
その風に溶け込むように、弦楽器の音色が流れだした。
静かな始まり方をする曲だった。
心のなかに残っている、懐かしいけれど思いだすには切なさを伴わせる、そんなメロディ───。
泣きたいような気分にさせておきながら、いたわるようなやわらかさへの転調。
しばらくその優しい旋律を聴きながら、目を閉じていたものの、耳元で蚊の飛ぶ音がしたので、仕方なしに立ち上がる。
網戸を閉めて蚊取り線香に火をつけると、煙が宙を舞い、空気のなかへ溶けるようにして、見えなくなる。
ゆるやかに流れる時間を、象徴しているかのように。
前触れもなく吹いた強い風が、腰まで伸びた髪を、ふわりともってゆく。
片手で乱れた髪を押さえたまま、窓の外に立ち並ぶ家々の向こうの夕焼けをながめた。
そっと眼鏡を外すと、景色がぼんやりとしたものとなり、オレンジ色に染まった街並みが、完成された絵画のように綺麗に見えた。
そんな風にしていると、先輩と初めて会った時のことが思いだされた。
あの日も、今日のように綺麗な夕焼け空が、校舎をつつんでいた……。
最初から、すごくなれなれしい人だった。
それなのに、嫌いになれなかったのは、どうしてだろう。
彼に、似ていたから?
それとも───。
窓辺でひざを抱え、そこに顔を伏せる。
部屋に流れる音楽に身をまかせるように、目を閉じた。
───分からない……。
開け放った窓から、生暖かい風が入ってくる。
その風に溶け込むように、弦楽器の音色が流れだした。
静かな始まり方をする曲だった。
心のなかに残っている、懐かしいけれど思いだすには切なさを伴わせる、そんなメロディ───。
泣きたいような気分にさせておきながら、いたわるようなやわらかさへの転調。
しばらくその優しい旋律を聴きながら、目を閉じていたものの、耳元で蚊の飛ぶ音がしたので、仕方なしに立ち上がる。
網戸を閉めて蚊取り線香に火をつけると、煙が宙を舞い、空気のなかへ溶けるようにして、見えなくなる。
ゆるやかに流れる時間を、象徴しているかのように。
前触れもなく吹いた強い風が、腰まで伸びた髪を、ふわりともってゆく。
片手で乱れた髪を押さえたまま、窓の外に立ち並ぶ家々の向こうの夕焼けをながめた。
そっと眼鏡を外すと、景色がぼんやりとしたものとなり、オレンジ色に染まった街並みが、完成された絵画のように綺麗に見えた。
そんな風にしていると、先輩と初めて会った時のことが思いだされた。
あの日も、今日のように綺麗な夕焼け空が、校舎をつつんでいた……。
最初から、すごくなれなれしい人だった。
それなのに、嫌いになれなかったのは、どうしてだろう。
彼に、似ていたから?
それとも───。
窓辺でひざを抱え、そこに顔を伏せる。
部屋に流れる音楽に身をまかせるように、目を閉じた。
───分からない……。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
絢と僕の留メ具の掛け違い・・
すんのはじめ
青春
幼馴染のありふれた物語ですが、真っ直ぐな恋です
絢とは小学校3年からの同級生で、席が隣同士が多い。だけど、5年生になると、成績順に席が決まって、彼女とはその時には離れる。頭が悪いわけではないんだが・・。ある日、なんでもっと頑張らないんだと聞いたら、勉強には興味ないって返ってきた。僕は、一緒に勉強するかと言ってしまった。 …
本町絢 外伝 絢と僕の留メ具の掛け違い・・そして
すんのはじめ
青春
絢と僕の留めメ具の掛け違い・・そして の本町絢の気持ちを綴った物語
水島基君、私の小学校3年のときから、ずーと同級生で席も隣が多かった。あることが、きっかけで私は彼のことを意識し始めて、それから彼の後ろを追いかけて・・ すれ違いもあったけど、彼の夢と私の夢を叶えるため、私は決心した。そして
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる