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裏挿話・呼びかける真名(なまえ)〜美穂と茜〜【R15】
初夜【ニ】
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「でも……それがアンタなんだって、アタシはちゃんと知ってるわ」
美穂の頬を軽くなでたあと、セキコの両手が美穂の背中に回された。
引き寄せられた身体は、やんわりとした力に拘束される。
「……本当に、困った子ね」
つややかな声音と、せつなげな吐息が、美穂のつむじ辺りに落ちてきた。
拒絶ではなく、境界線を越えるのをためらう逡巡の間。
「昼に……あんな風にアタシから逃げておいて、夜にコレ? アンタと距離を置こうとしたアタシが、馬鹿みたいじゃない?」
「……ごめん」
「もっと、ゆっくり、あわてなくてもいいのよ? アタシとアンタの時間はたっぷりあるんだから」
「分かってる。
でも……なんか、苦しいんだよ。お前とこのまま……変な距離のままで、過ごすの。
あたし、お前のことが好きなんだ。だから、お前にもっと、あたしに自由に触れて欲しいし……あたしも、お前に触れたい」
ぎゅっと、セキコの衣をつかむ。
昼間は確かにとまどったが、やはり美穂は、この女装いの男と、遠慮のいらない間柄でいたいのだ。
心も、身体も───。
「正直、途中で「コワい、ムリ」とか言われても、アタシ、やめられる自信はないわよ?
アタシにとって、アンタはそれくらい特別なんだから。
アンタ、それ、ちゃんと解ってるの?」
「……解ってるよ。
そんなこと言いながら、あたしが嫌だっていうことは、お前が絶対にしないだろうってコトも」
上目遣いに見れば、気取らない素顔を見せる美貌の青年が、大きなまばたきをしてみせた。
「……イヤな子ね。いつからそんなに生意気なコト言うようになったんだか……!」
ふう、と、大げさに息をついたあと、美穂の唇に音を立てて短いくちづけをする。
「じゃあ……ちょっとだけ、待って。アタシもアンタと同じように、身支度してくるから」
片目をつむり、いたずらな笑みを残すと、セキコは美穂を置いて部屋を立ち去った。
❖❖❖❖❖
そわそわと部屋の持ち主を待つ美穂にとっては、それほど長くは感じられない時間で、セキコは戻ってきた。
その手には大きな盃の載った盆があり、その身にまとうのは白い装束だった。
「……お前も、ソレ?」
「そうよ。アンタとの大切な『初めての夜』でしょ?」
盆を傍らに置き、セキコの片手が美穂の髪を優しくなでた。くすぐったい思いで美穂は小さくうなずく。
「うん」
「それと───」
そんな美穂に笑みを返し、セキコは盆の上から盃を取り上げる。
「アンタ、お酒はイケる口?」
「分かんない。飲んだことないし」
「そう。じゃ、口つけるだけで、無理に飲まなくていいわよ」
育った世界で、美穂はまだ未成年者だ。飲酒は法律で禁止されている。
だがここは“陽ノ元”という異世界。そして自分は、目の前の青年の姿をした“神獣”の“花嫁”なのだ。
両手で抱えるほど大きな盃を、セキコがまず呷る。
次いで、美穂に手渡された盃は、セキコが持つ時よりも大きく感じられ、美穂は緊張しながら盃に口をつけた。
(……あ、美味い)
初めて呑む酒の味は良い香りと適度な苦味を美穂の舌に残す。
美穂の頬を軽くなでたあと、セキコの両手が美穂の背中に回された。
引き寄せられた身体は、やんわりとした力に拘束される。
「……本当に、困った子ね」
つややかな声音と、せつなげな吐息が、美穂のつむじ辺りに落ちてきた。
拒絶ではなく、境界線を越えるのをためらう逡巡の間。
「昼に……あんな風にアタシから逃げておいて、夜にコレ? アンタと距離を置こうとしたアタシが、馬鹿みたいじゃない?」
「……ごめん」
「もっと、ゆっくり、あわてなくてもいいのよ? アタシとアンタの時間はたっぷりあるんだから」
「分かってる。
でも……なんか、苦しいんだよ。お前とこのまま……変な距離のままで、過ごすの。
あたし、お前のことが好きなんだ。だから、お前にもっと、あたしに自由に触れて欲しいし……あたしも、お前に触れたい」
ぎゅっと、セキコの衣をつかむ。
昼間は確かにとまどったが、やはり美穂は、この女装いの男と、遠慮のいらない間柄でいたいのだ。
心も、身体も───。
「正直、途中で「コワい、ムリ」とか言われても、アタシ、やめられる自信はないわよ?
アタシにとって、アンタはそれくらい特別なんだから。
アンタ、それ、ちゃんと解ってるの?」
「……解ってるよ。
そんなこと言いながら、あたしが嫌だっていうことは、お前が絶対にしないだろうってコトも」
上目遣いに見れば、気取らない素顔を見せる美貌の青年が、大きなまばたきをしてみせた。
「……イヤな子ね。いつからそんなに生意気なコト言うようになったんだか……!」
ふう、と、大げさに息をついたあと、美穂の唇に音を立てて短いくちづけをする。
「じゃあ……ちょっとだけ、待って。アタシもアンタと同じように、身支度してくるから」
片目をつむり、いたずらな笑みを残すと、セキコは美穂を置いて部屋を立ち去った。
❖❖❖❖❖
そわそわと部屋の持ち主を待つ美穂にとっては、それほど長くは感じられない時間で、セキコは戻ってきた。
その手には大きな盃の載った盆があり、その身にまとうのは白い装束だった。
「……お前も、ソレ?」
「そうよ。アンタとの大切な『初めての夜』でしょ?」
盆を傍らに置き、セキコの片手が美穂の髪を優しくなでた。くすぐったい思いで美穂は小さくうなずく。
「うん」
「それと───」
そんな美穂に笑みを返し、セキコは盆の上から盃を取り上げる。
「アンタ、お酒はイケる口?」
「分かんない。飲んだことないし」
「そう。じゃ、口つけるだけで、無理に飲まなくていいわよ」
育った世界で、美穂はまだ未成年者だ。飲酒は法律で禁止されている。
だがここは“陽ノ元”という異世界。そして自分は、目の前の青年の姿をした“神獣”の“花嫁”なのだ。
両手で抱えるほど大きな盃を、セキコがまず呷る。
次いで、美穂に手渡された盃は、セキコが持つ時よりも大きく感じられ、美穂は緊張しながら盃に口をつけた。
(……あ、美味い)
初めて呑む酒の味は良い香りと適度な苦味を美穂の舌に残す。
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