23 / 32
裏挿話・呼びかける真名(なまえ)〜美穂と茜〜【R15】
『彼』の目に映る、自分【後】
しおりを挟む
ツルリとすべる、足裏。
岩場のある後ろへと転がり、頭を打つことを覚悟した背筋が、冷える。
が。その、刹那。
バッシャン! という、派手な水しぶきをあげて、美穂はセキコと共に沢の中へ倒れこんでいた。
───正確には、美穂がセキコを下敷きにした状態だ。
「ちょっと! 少しは気をつけなさいよ!」
「ご、ごめんっ……!」
さすがの美穂も、今回ばかりは素直に謝罪を口にする。
全面的に美穂の落ち度としか、言いようがなかった。
浅瀬とはいえ、美穂をかばうように尻もちをついた形のセキコは、すでに全身びしょ濡れで。
水を含んだ衣のそでをいまいましそうに、脱ぎ捨てた。
「でも、ま」
くすっと笑って、単衣のそでを上げたセキコの指先が、美穂の頬をなでる。
「おかげで、だいぶ肝が冷えて、涼しくなったんじゃない?」
乱れた髪を伝う雫は、同様に、彼の頬にも首すじにも落ちて。
美穂の視線がそのしたたりを追うと、自然、着くずれた単衣の合わせからのぞく素肌が目に映る。
「美穂? どこか、痛いの?」
「やっ……!」
───男のたくましい腕と、胸板。
その、当たり前の事実に、美穂は衝撃を受ける。
(女の口調で女のカッコしてても、こいつ、男じゃん!)
反射的に身をよじり、セキコの驚いた顔を尻目に、美穂は沢から上がる勢いのまま、屋敷に走り帰った。
出迎えた菊が、めずらしくギョッとしたように美穂を見る。
が、数秒後にはいつも通りの無表情になると、なぜか美穂の手を両手でつつみこんでくれた。
……暑いと、あれほど騒いでいた自分が震えていることに、美穂はその時、初めて気がついた。
「おみ足を、こちらに」
「……ありがと」
裸足で戻って来た美穂に何も聞かず、菊はやさしく美穂の足を洗う。
手ぬぐいで足を拭いてもらう頃には、冷えた身体にふたたび熱が戻ってきていた。
「筵を敷きましたので、少しお休みになられたらいかがですか」
「うん……あの」
「はい」
「アイツ……ううん、なんでもない」
「はい」
どっと出た心身の疲れに、美穂は菊に言われるがまま、そこへ身体を横たえる。
───セキコが、悪い訳ではない。
なのに、美穂は彼を残して沢から帰って来てしまった。自分が望んで、連れて行ってもらったにも関わらず。
(あたし……ホント、何やってるんだろ……)
岩場のある後ろへと転がり、頭を打つことを覚悟した背筋が、冷える。
が。その、刹那。
バッシャン! という、派手な水しぶきをあげて、美穂はセキコと共に沢の中へ倒れこんでいた。
───正確には、美穂がセキコを下敷きにした状態だ。
「ちょっと! 少しは気をつけなさいよ!」
「ご、ごめんっ……!」
さすがの美穂も、今回ばかりは素直に謝罪を口にする。
全面的に美穂の落ち度としか、言いようがなかった。
浅瀬とはいえ、美穂をかばうように尻もちをついた形のセキコは、すでに全身びしょ濡れで。
水を含んだ衣のそでをいまいましそうに、脱ぎ捨てた。
「でも、ま」
くすっと笑って、単衣のそでを上げたセキコの指先が、美穂の頬をなでる。
「おかげで、だいぶ肝が冷えて、涼しくなったんじゃない?」
乱れた髪を伝う雫は、同様に、彼の頬にも首すじにも落ちて。
美穂の視線がそのしたたりを追うと、自然、着くずれた単衣の合わせからのぞく素肌が目に映る。
「美穂? どこか、痛いの?」
「やっ……!」
───男のたくましい腕と、胸板。
その、当たり前の事実に、美穂は衝撃を受ける。
(女の口調で女のカッコしてても、こいつ、男じゃん!)
反射的に身をよじり、セキコの驚いた顔を尻目に、美穂は沢から上がる勢いのまま、屋敷に走り帰った。
出迎えた菊が、めずらしくギョッとしたように美穂を見る。
が、数秒後にはいつも通りの無表情になると、なぜか美穂の手を両手でつつみこんでくれた。
……暑いと、あれほど騒いでいた自分が震えていることに、美穂はその時、初めて気がついた。
「おみ足を、こちらに」
「……ありがと」
裸足で戻って来た美穂に何も聞かず、菊はやさしく美穂の足を洗う。
手ぬぐいで足を拭いてもらう頃には、冷えた身体にふたたび熱が戻ってきていた。
「筵を敷きましたので、少しお休みになられたらいかがですか」
「うん……あの」
「はい」
「アイツ……ううん、なんでもない」
「はい」
どっと出た心身の疲れに、美穂は菊に言われるがまま、そこへ身体を横たえる。
───セキコが、悪い訳ではない。
なのに、美穂は彼を残して沢から帰って来てしまった。自分が望んで、連れて行ってもらったにも関わらず。
(あたし……ホント、何やってるんだろ……)
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【R18】オトメゲームの〈バグ〉令嬢は〈攻略対象外〉貴公子に花街で溺愛される
幽八花あかね・朧星ここね
恋愛
とあるR18乙女ゲーム世界で繰り広げられる、悪役王子×ヒロインのお話と、ヒーロー×悪役令嬢のお話。
ヒロイン編【初恋執着〈悪役王子〉と娼婦に堕ちた魔術師〈ヒロイン〉が結ばれるまで】
学院の卒業パーティーで敵に嵌められ、冤罪をかけられ、娼館に送られた貴族令嬢・アリシア。
彼女の初めての相手として水揚げの儀に現れたのは、最愛の婚約者である王太子・フィリップだった。
「きみが他の男に抱かれるなんて耐えられない」という彼が考えた作戦は、アリシアを王都に帰らせる手配が整うまで、自分が毎晩〝他の男に変身〟して彼女のもとへ通うというもので――?
オトメゲームの呪い(と呼ばれる強制力)を引き起こす精霊を欺くため、攻略対象(騎士様、魔法士様、富豪様、魔王様)のふりをして娼館を訪れる彼に、一線を越えないまま、アリシアは焦らされ愛される。
そんな花街での一週間と、王都に帰った後のすれ違いを乗り越えて。波乱の末に結ばれるふたりのお話。
悪役令嬢編【花街暮らしの〈悪役令嬢〉が〈ヒーロー〉兄騎士様の子を孕むまで】
ゲームのエンディング後、追放され、花街の青楼に身を置いていた転生令嬢シシリーは、実兄騎士のユースタスに初夜を買われる。
逃げようとしても、冷たくしても、彼は諦めずに何度も青楼を訪れて……。
前世の記憶から、兄を受け入れ難い、素直になれない悪役令嬢を、ヒーローが全力の愛で堕とすまで。近親相姦のお話。
★→R18回 ☆→R15回
いろいろいっぱい激しめ・ファンタジーな特殊行為有。なんでもござれの方向けです! ムーンライトノベルズにも掲載しています。朧星ここね名義作
【完結】帰れると聞いたのに……
ウミ
恋愛
聖女の役割が終わり、いざ帰ろうとしていた主人公がまさかの聖獣にパクリと食べられて帰り損ねたお話し。
※登場人物※
・ゆかり:黒目黒髪の和風美人
・ラグ:聖獣。ヒト化すると銀髪金眼の細マッチョ
孤独なメイドは、夜ごと元国王陛下に愛される 〜治験と言う名の淫らなヒメゴト〜
当麻月菜
恋愛
「さっそくだけれど、ここに座ってスカートをめくりあげて」
「はい!?」
諸般の事情で寄る辺の無い身の上になったファルナは、街で見かけた求人広告を頼りに面接を受け、とある医師のメイドになった。
ただこの医者──グリジットは、顔は良いけれど夜のお薬を開発するいかがわしい医者だった。しかも元国王陛下だった。
ファルナに与えられたお仕事は、昼はメイド(でもお仕事はほとんどナシ)で夜は治験(こっちがメイン)。
治験と言う名の大義名分の下、淫らなアレコレをしちゃう元国王陛下とメイドの、すれ違ったり、じれじれしたりする一線を越えるか超えないか微妙な夜のおはなし。
※ 2021/04/08 タイトル変更しました。
※ ただただ私(作者)がえっちい話を書きたかっただけなので、設定はふわっふわです。お許しください。
※ R18シーンには☆があります。ご注意ください。
【R18】幼馴染な陛下と、甘々な毎日になりました💕
月極まろん
恋愛
幼なじみの陛下に、気持ちだけでも伝えたくて。いい思い出にしたくて告白したのに、執務室のソファに座らせられて、なぜかこんなえっちな日々になりました。
【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話
もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。
詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。
え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか?
え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか?
え? 私、アースさん専用の聖女なんですか?
魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。
※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。
※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。
※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。
R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!
仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。
18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。
噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。
「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」
しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。
途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。
危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。
エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。
そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。
エルネストの弟、ジェレミーだ。
ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。
心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる