【外伝・完結】神獣の花嫁〜さだめられし出逢い〜

一茅苑呼

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裏挿話・呼びかける真名(なまえ)〜美穂と茜〜【R15】

『彼』の目に映る、自分【後】

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ツルリとすべる、足裏。
岩場のある後ろへと転がり、頭を打つことを覚悟した背筋が、冷える。

が。その、刹那せつな

バッシャン! という、派手な水しぶきをあげて、美穂はセキコと共に沢の中へ倒れこんでいた。

───正確には、美穂がセキコを下敷きにした状態だ。

「ちょっと! 少しは気をつけなさいよ!」

「ご、ごめんっ……!」

さすがの美穂も、今回ばかりは素直に謝罪を口にする。

全面的に美穂の落ち度としか、言いようがなかった。

浅瀬とはいえ、美穂をかばうように尻もちをついた形のセキコは、すでに全身びしょ濡れで。

水を含んだ衣のそでをいまいましそうに、脱ぎ捨てた。

「でも、ま」

くすっと笑って、単衣ひとえのそでを上げたセキコの指先が、美穂の頬をなでる。

「おかげで、だいぶ肝が冷えて、涼しくなったんじゃない?」

乱れた髪を伝う雫は、同様に、彼の頬にも首すじにも落ちて。

美穂の視線がそのしたたりを追うと、自然、着くずれた単衣の合わせからのぞく素肌が目に映る。

「美穂? どこか、痛いの?」
「やっ……!」

───男のたくましい腕と、胸板。

その、当たり前の事実に、美穂は衝撃を受ける。

(女の口調で女のカッコしてても、こいつ、男じゃん!)

反射的に身をよじり、セキコの驚いた顔を尻目に、美穂は沢から上がる勢いのまま、屋敷に走り帰った。

出迎えた菊が、めずらしくギョッとしたように美穂を見る。

が、数秒後にはいつも通りの無表情になると、なぜか美穂の手を両手でつつみこんでくれた。

……暑いと、あれほど騒いでいた自分が震えていることに、美穂はその時、初めて気がついた。

「おみ足を、こちらに」
「……ありがと」

裸足はだしで戻って来た美穂に何も聞かず、菊はやさしく美穂の足を洗う。

手ぬぐいで足を拭いてもらう頃には、冷えた身体にふたたび熱が戻ってきていた。

むしろを敷きましたので、少しお休みになられたらいかがですか」

「うん……あの」

「はい」

「アイツ……ううん、なんでもない」

「はい」

どっと出た心身の疲れに、美穂は菊に言われるがまま、そこへ身体を横たえる。

───セキコが、悪い訳ではない。

なのに、美穂は彼を残して沢から帰って来てしまった。自分が望んで、連れて行ってもらったにも関わらず。

(あたし……ホント、何やってるんだろ……)



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