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参 サダメられし出逢い

桃の香りのくちづけ【後】

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悪びれた様子もなくセキコに問い返され、美穂は勢いに任せて言いかけたことの結論に、口を閉ざす。

(……あたし、なんで怒ってるんだろ)

嫌、ではなかった。
それならなぜ、こんなに気分がモヤモヤとしているのだろう?

(くやしいけど、あたしはこいつのことが好き)

自覚して、本人にも想いを伝えた。

けれども───。

美穂は、セキコから視線を外す。直視して訊くには、勇気がいったからだ。

「お前さ……あたしのこと……き、なの?」

「え?」

「だから! あたしのこと好きなのかって訊いてんの!」

結局、ケンカ腰の言い方しかできない自分は、可愛いげの欠片もない。

解っていても、長年染み付いた性格は、簡単には変えられなかった。

(…………って、返事、しろよ)

確かに、いまの美穂の訊き方には難がある。

だからといって、長い間を空ける必要が、どこにあるのか。

美穂は、外した視線をこわごわと元に戻す。

いつか見た、素の顔の青年が、そこにはいた。

「……あら、ヤダ……」

ようやく口を開いたが、まだ放心状態のようで、言葉が続かない。

直後、赤くなった顔を片手で覆い、深いため息をついた。

「アタシとしたことが、抜かったわ……」

何やら反省しているようで、美穂は自分の態度を決めかねてしまう。

「アンタが、とてつもない『おニブさん』だってこと、忘れてたわ」

ふっ……と、あでやかな美貌に笑みが浮かぶ。

いとおしげに細められた眼差しが向けられ、美穂の胸がざわめいた。

「ちゃんと伝えなきゃ、伝わらないってコト」

美穂が見惚れた長い指が伸びてきて、美穂の耳を軽くなでたあと、髪に差し入れられた。

近づいて、近づけられた互いの顔。

「好きよ、美穂」

つややかな声音がつむぐ、優しい響きの想い。

そこに含まれた色に、美穂の心が同調するように染め上げられる。

「好き」

告げた唇が、桃の香を連れながら美穂の唇に触れた。

溶けて混じり合う、吐息と体温。

伝わる熱に、おぼれないようにすがりつく、本能。

「……いま」

耳もとで、いっそう艶を帯びた声音がささやく。

「アタシの真名なまえ、呼んだ?」

「……え?」

酸欠一歩手前でセキコに身体を預けた美穂は、あやふやな意識で彼を見返す。

「呼んだ……カモ?」

「そう。……なんだか、解りかけてきたわ」

「へ……?」

「こっちのハナシ」

意味ありげに笑って、セキコは美穂の後ろ髪をなでながら、美穂を抱くもう一方の腕に力をこめてきた。


       *


セキコが気づいたのは、赤い“花嫁”が赤い“神獣”に真名を『伝える方法』。

しかしそれを、セキコはまだ胸のうちに留めておくのだった。



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